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Dクラスな幻想郷  作者: ぐんそー
幻想郷を旅しよう
17/18

16話:Dクラスな旧地獄

 酒臭い路地、酒を飲み騒ぐ人々、皆全てを忘れ全てに忘れられる、前にも後ろにも進まない空間。「酩酊」「忘却」「停滞」を存在理念とするその街は、自らを「酩酊街」と名乗っていた。ここで一人、オレンジ色のつなぎを着て、今日も飲んだくれて歩き回っている男がいた。彼は「靴を脱いで」この地に足を踏み入れた、かつてD-4953だった男である。

 危険な仕事もない、罪から追われることもない。来る者を拒まず去る者も追わず、すべてを受け入れるこの土地をその男は満喫していた。常にどこからか酒の匂いのするこの街から、彼は一生出ることはないだろうと考えていた。


 彼はいつものように飲んだくれてふらふらと歩いていたが、ふと小さな違和感を覚えて立ち止まった。どうも歩いた先に「何か」があるように感じたのだ。ただ、それが何なのかは全く想像もつかない。そんなことはどうでもいい、と彼はまた歩き始めた。


 直後、大きくバランスを崩す。目の前にあったのは地面のはずだが、彼は明らかに足を踏み外したような挙動を取って前に倒れる。


 「何か」とは、穴だったのである。彼は、声を上げる間もなくその穴に落ちた。



◆◇◆◇



 目が覚めると、和風の見知らぬ天井が広がっていた。


 前後の記憶がなく、直後に頭痛と吐き気がした。多分飲みすぎで潰れて運ばれたのだろう。軽く寝返りを打ちながら辺りを見渡すと、湯のみと水の入った瓶があった。随分気が利くなと手を伸ばし、湯のみに手を伸ばす。目覚めの水は格別だ。すっきりとした流れが全身に染み渡り、酒でぼやけた意識が再び身体の中に引き込まれるのを感じた。


 脚を上に伸ばしてから、地面に下した反動で重い身体を起こした。小便に行きたくなってきたのでそのまま立ち上がり、襖を開けて部屋の外に出ようとした。取っ手に手を書けようとした瞬間、その襖が開いた。


 そこには、赤い盃を持ち赤い角の生えた女が立っていた。それと同時に感じる鬼のような威圧感につい驚いて、後ろに跳んでしまった。


 体操着のような服を着たその女は軽く笑う。


???「そこまで動けるなら、ひとまずは大丈夫そうだな」



 彼女は勇儀と名乗った。見た目通り実際に鬼であるそうで、この辺りの元締めをしているとの事だった。鬼が元締めをしているということは、そもそも人間の街ではないのだろうか。そんなことを考えながら、廊下を下っていく。


勇 儀「そういえば、あんたはどうやってここに来たんだ? 一見、ただの人間に見えるが」


D-4953「正直……酔ってたからなのか分からないけど、前後の記憶がないんだ。逆にどうやってここに来たのか知りたい」


 勇儀は首をかしげる。


勇 儀「じゃあ質問を変えよう。あんたは何処から来たんだ?」


 説明が難しい質問である。ただ、彼女も財団的には「異常存在」であるから通じるかもしれない。俺はそう祈った。


D-4953「酩酊街、という場所から来た」


 ほう、という表情で彼女は返答する。俺の読みは当たったようだ。


勇 儀「あの『如月工務店』と近かった奴らか」


D-4953「話が早いな。如月工務店とは何か繋がりがあるのか?」


勇 儀「特にないけど、奴らが鬼だっていう噂があってな。それが気に入らないんだ」


D-4953「逆に、ここは何処なんだ? 少なくとも人間が住む世界には見えないが」


 俺は勇儀に旧地獄、そして幻想郷に関する説明を受けた。


勇 儀「――で、私はあんたが幻想郷から迷い込んできた人間なのかと思ったんだ」


D-4953「酩酊街に帰る方法はあるのか?」


勇 儀「いや、無いな。酩酊街の存在は知ってるけど今までアクセスしようとした事がない」


D-4953「そうか……」


 一気に酔いが醒めた。夢ならば覚めてくれ。

 

勇 儀「まあ詳しいことは明日にでも考えるとして、今日は飲もう。あんた、酩酊街から来たってことは酒飲めるんだろ?」


 あの理想郷のような土地にはもう帰ることができないのである。ただ、相手が話しているのだから放心状態になっている暇はない。

 

D-4953「あ、ああ。久しぶりに美味い酒が飲めそうだ」



◆◇◆◇



勇 儀「まあこんな感じに少しの間匿っていたんだが、結局奴は首を吊って死んだよ。『俺はもう歩けない。休ませてくれ』と遺してな」


 こんな事が起こっていたなんて、全く知らなかった。


霊 夢「ちなみに、最初は何処で見つけたの?」


勇 儀「そのとき私が飲んでいた店の前で倒れてた所を見つけたんだ。随分目立つ位置にいる割には何故か誰にも襲われていなかった」


 偶然誰も気づかなかったか、こいしが関与しているのか、あるいは別の理由があるのか。現状どれなのかは分からないが、恐らくお燐はそこで倒れている男を見つけたのだろう。


 現実を恐れて逃げる人間を鬼が気に入るはずがないと疑問に思ったが、勇儀としては彼を現実に『嫌気がさして』逃げた人間だと認識していたそうだ。

タイトル: SCP-495-JP - 廃ビルの靴磨き

作者: k-cal

ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-495-jp

作成年: 2018

ライセンス: CC BY-SA 3.0


酩酊街の「案内人」の一人です

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― 新着の感想 ―
[一言] 久しぶりに更新されてて嬉しい、面白かったです、続き楽しみにしています
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