01話:夜に降りていく
「D-1104」と書いてあるタグを手首に巻き、全身をオレンジ色のつなぎに包んだ男は机に脚を投げ出して安っぽい事務椅子に座っていた。その机の上にはマイクや大量のボタン、スライド式のスイッチが設置してあり、この建物全体に放送を行える設備が整っている。ただし、ここは独房である。
ここは孤独な放送室である。一人の人間をハードウェアとして使用して稼働する放送室、ここにいるのは、全てから忘れられた者である。
この建物は「財団」に収容されているアノマリーの一つである。D-1104はここの調査のために派遣されたDクラス職員の一人であり、この放送室に閉じ込められていた少女の代わりに現在はここにいる。
この無音の部屋に、突如別の存在が現れた。
男はその気配に気づき、その存在がある方向に椅子を回転させる。目の前の光景に、彼は一瞬自分の気がおかしくなったのではないかと思った。
空間に穴が開いていたのだ。それは円の形ではなく両端をリボンで縛ったまぶたのような見た目で、その穴から無数の目がこちらを覗いている。穴はすぐそこに底があるようにも見えるし、どこまでも深く続いてるようにも見える。男は不気味さを感じると同時にその穴に釘付けになっていた。まるで世界のスキマを覗いているような感覚だった。
近づいて穴の中を調べてみよう、と男は立ち上がる。
一歩、二歩とその穴に近づいていく。
あと一歩で穴に手が届くというところで、彼は床が抜けたようにバランスを崩した。
とっさに足元を見ると、その穴が広がっていることに気づいた。
彼は短い叫び声とともに穴に落ちていった。
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彼は落ちていた。どちらが上かどちらが下かすら分からない、無数の目がこちらを覗き、道路標識や電車の残骸のようなものが散らばる紫色の闇の中を落ちていた。
ひょっとしたら落ちているという表現すら正しくないかもしれない、普通の人間なら泣き叫ばずにはいられない状況だったが彼はひどく取り乱すことはなかった。
彼は落下先に電車があることに気づき、そこに運良く突き刺さっていた道路標識に掴まった。その道路標識を軸に彼は大きく一回転し、その遠心力で道路標識は大きく傾いた。傾いたことにより力のかかり方が変わってしまい、彼の手は道路標識から離れてしまった。
落ちているという表現は正しくなかったようだ。彼は本来の落下方向からやや上、下、あるいは左右にずれた方向にまた「落ちて」いった。
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深く続く森と、長く続く石の階段、そしてその先には赤色の鳥居がある。
ここは博麗神社、幻想郷の果てである
神社の縁側に座ってお茶を飲んでる少女がいた。あくびをしながら空を見上げていた。すこし落ち葉を掃除した痕跡があったが、彼女にもう掃除をする気はないようだった。ぼんやりとしているうちにだんだんと眠くなり、縁側に横になって寝ようとしていた。ちょうどその時、箒に乗った明るい声がそれを止めた。
読者にわざわざ説明する必要はないだろう、博麗霊夢と霧雨魔理沙である。
魔理沙「おーい霊夢!?今日こそは落ち葉の掃除するんじゃなかったのか~?」
霊夢「時間はあるから、ゆっくりでいいのよ」
魔理沙は軽く笑い縁側まで飛び、空飛ぶ箒に跨いでいる状態から身体を回転させ、器用に縁側に座った。
魔理沙「残念だな~。落ち葉が集まってたら私が持ってきたサツマイモでも焼こうと思ってたのに」
霊夢「すぐ終わらせるわね」
魔理沙「都合のいいやる気だぜ、まったく」
二人がそんな会話をしているとき、博麗神社の上を影が走った。
文「号外だよ~!号外だよ~!みんな読んでって~!!!」
幻想郷のブン屋、射命丸文が落としていった新聞は偶然にも霊夢が少し集めていた落ち葉に落下し、無惨にも落ち葉の山は散っていった。
霊夢「なによもうまったく!ここだけはがんばって集めてたのに!!」
怒った霊夢は新聞を文に投げ返してやろうと新聞を拾った。
魔理沙「ちょっと待ってくれ霊夢!」
霊夢が新聞を投げようとしていたところを魔理沙が制止した
魔理沙「その新聞、なんて書いてあるんだ……?」
二人は新聞のタイトルを見た。
『レミリア・スカーレット 失踪』
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どうしてこんなことになっちまったんだ。
俺(いや、今は少女である)はそんな思いを抱きながら雨の中の街を歩いていた。あの財団のクソッタレ共に何が起こったのかは知らないが、急に暴れだして人間を殺していきやがった。どうしてだ?そんな奴らとやっていくのもこんな奴らに殺されるのも御免だから俺は歩き続けている。
道中で出会ったパワードスーツの野郎とはお互いに見込みのない幸運を祈り合った。その甲斐があったのかは知らないが、運よく誰とも遭遇せずに目的地にたどり着くことがでたようだ。直径3mぐらいの底なし穴がそこにはあった。
その時、後ろから人が駆け寄ってくる音が聞こえた。財団の機動部隊である。奴らが銃を構えたので俺は急いで物陰に隠れた。その瞬間、目の前を何発かの銃弾が掠めていった。残念だが他所の世界に小便を垂れてやれるかどうか調べるのは無理なようだ。
俺はルビーの首飾りをここではないどこかに続く穴に投げ入れた後、持っていた銃をこめかみに押し当て、引き金を引いた。
場面1,
Author: DocRone
title: SCP-544-JP - 孤独な放送室
Source: http://scp-jp.wikidot.com/scp-544-jp
CC BY-SA 3.0
こちらは比較的メジャーで、紹介動画もあるので是非とも動画を参照してほしいです。作者の一番好きな記事の一つ。
https://youtu.be/PgAxJKfCFgQ
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場面2,紫さんのアレですね
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場面3,
Author: indonootoko
Title: SCP-2955-JP - 亡きCN兄貴の為のセプテット
Source: http://scp-jp.wikidot.com/scp-2955-jp
CC BY-SA 3.0
簡単に言うとレミリアが現実世界に誘拐される記事です。「Dクラスな幻想郷」における一番重要な記事になるので時期が来たらもう一度詳しく紹介します
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場面4.ブライト博士のシーンです
Author: Tanhony
Title: SCP-5000 - どうして?
Source: http://www.scp-wiki.net/scp-5000
CC BY-SA 3.0
Author: Tanhony
Title: SCP-1437 - ここではないどこかに続く穴
Source: http://www.scp-wiki.net/scp-1437
CC BY-SA 3.0
Author: AdminBright
Title: SCP-963 - 不死の首飾り
Source: http://www.scp-wiki.net/scp-963
CC BY-SA 3.0
「SCP-5000 - どうして?」は財団が突如暴走して人類を滅ぼし始めたという記事です。記事の中でその記事の主人公とブライト博士が出会うシーンがあり、主人公とブライト博士はまた別々の目的地に歩みを進めます。ブライト博士の目的地が「SCP-1437 - ここではないどこかに続く穴」です。彼はその異世界につながる穴にルビーの首飾りを投げ入れて逃げる予定でした。