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エロフに転生したので異世界を旅するVTuberとして天下を目指します  作者: 一色孝太郎


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第49話 イストール公からの依頼

 それからしばらくの間は無事にパン屋の売り子をしていたのだが、いよいよ奥さんの出産が間近になったころにイストール公から俺への指名依頼がギルドに届けられた。


何やら動画を作って再生してほしいようなのだが、詳しい内容はイストール公のお城で説明するとのことだ。


 内容や依頼料などをきちんと聞く必要はあるが、偉い人からの依頼を無下にするわけにもいかないだろう。


 そんなわけで俺はいつもどおり開店と同時に売り切れたのを確認し、イストール公の城へとやってきた。城というだけあって立派な建物ではあるが、それほど華美な様子はない。


「アルテナ様の使徒、リリス・サキュア様ですね?」

「はい」

「ようこそいらっしゃいました。イストール公がお待ちです」


 そうして城内を案内されるが、やはり内装も落ち着いている。いや、どちらかというと質素という表現が適切だろうか。


 自分のイメージからすると貴族は民から巻き上げたお金で贅沢三昧という印象だったのだが、どうやらイストール公は違うようだ。


 そうして歩いているうちに俺は応接室に通された。応接室にはソファーがあるのだが、いくら質素でもさすがはお城の応接室に置かれたソファーだ。クッションもしっかりしていて座り心地がかなりいい。比べるのは失礼かもしれないが、今泊まっているホテルのロビーにあるソファーよりも座り心地がいい。


 そのまましばらく待っていると、イストール公が二人の男性を連れてやってきた。一人は若い男性で、もう一人はイストール公と同じくらいの年齢だろう。


「うむ。よく来てくれたな。この者は政務官のフェリクスだ。今回の依頼で実務を担当してもらう」


 イストール公はまず、イストール公と同じくらいの年齢の男性を紹介してくる。


「フェリクスと申します。よろしくお願いいたします」

「リリス・サキュアです。よろしくお願いします。フェリクスさん」


 こうなると社会人としての習性で名刺交換をしたくなるが、この国にはそういった習慣はないようで特に何も言われない。


 握手も求められないので、ここは営業スマイルで過ごしていればいいのだろう。


 続いてイストール公は若い男性を紹介してきた。金髪に青い瞳、体つきもがっしりしているうえにかなりの高身長だ。顔もかなりのイケメンなので、日本ならかなり女性に人気が出そうだ。


「そしてこれは儂の息子のルイだ」

「ルイ・ド・イストールと申します。美しいエルフのお嬢さんとお会いできて光栄です」


 そう言ってなぜか片膝をつき、手を差し出してきた。


 ……これは一体どういうことだろうか?


 まあ、よく分からないがそういう挨拶のポーズなのだろう。どこかに案内されるわけでもないのだから、よもや俺にその手を取れなどということではあるまい。


「リリス・サキュアです。よろしくお願いいたします。ええと、ルイ様、でよろしいですか?」


 俺がそう聞くとなぜか驚きの表情を浮かべている。


 ええと? こいつは何をやっているんだ?


 するとイストール公が大げさな咳ばらいをした。


「ルイ、彼女は記録の女神アルテナ様の使徒だ。そのうえエルフであり、貴族はおろか人間の常識も通じん。自重しろ」

「は、はい」


 イストール公に叱られたルイ様は大きな体をしょんぼりと小さくした。


「さて、それでは座って仕事の話をしよう」

「はい。お願いします」


 そうしてソファーに座ると、すぐに仕事の話が始まる。


「今回依頼したいのは、我が国で起こった事件や犯罪について、民に報告してもらいたいのだ」

「え? 報告ですか?」

「うむ。リリスはあのパン屋で売り物のパンを紹介していただろう?」

「はい」

「あれと同じことをしてもらいたい。ただし、その内容は事件や犯罪とそれがどう対処されたか、だ」


 ああ、なるほど。要するにニュース動画を作って流したいということか。


「それをどこか目立つ場所で流してほしいんですね?」

「そのとおりだ。今でも掲示はしているが、文字が読めない民も多いのでな」


 それはたしかによく伝わりそうだ。パン屋ですらあれほどの人だかりができたのだから、国のものであればかなり話題になるだろう。


「わかりました。お任せください。ちょうどアルテナ様から追加で再生の宝珠をいただきましたから、パン屋と同時でも大丈夫です」

「何! 本当か! それはありがたい。ではぜひお願いしたい。細かい内容はフェリクスと詰めてもらいたい」

「はい。わかりました」

「うむ。ではよろしく頼んだぞ」


 そう言ってイストール公は応接室から出ていった。国とトップということもあり、どうやらかなり忙しいようだ。


「それでは、イストール公に代わりまして私めがお話をさせていただきます」

「よろしくお願いいたします」

「まず確認させていただきたいのですが、再生の宝珠は神器なのですよね?」

「アルテナ様からいただいたものですから、そうなると思います」

「それを我々にお授けいただくことは可能でしょうか?」

「え? うーん、どうでしょう。アルテナ様から禁止されているわけではありませんが、私がいないと中身の更新ができないのであまり意味がないと思います。それに数が限られていますから……」

「そうですか。そうですね。ではお借りするか、もしくは動画を流す際に同席いただく形で進めましょう」

「はい。パン屋での仕事もありますので、お貸しするのがいいと思います」

「かしこまりました。それではお伝えいただく内容ですが、このような内容をお読みいただく形を考えています」

「え? 私がやるんですか?」

「え?」

「だって、私がやったら私が代理人みたいになっちゃうじゃないですか。働いているパン屋のものならまだしも、私はこの国の国民じゃないですし……」


 さすがに国公認のニュースキャスターまでやってしまうのはリスクが大きすぎる。今はパン屋の広告なので大した害はないが、毎度毎度ニュースを読まされてはこの国から出られなくなりそうだ。


 それにたしかこの国はラテル帝国とやらの属国で、どこかとの戦争に協力させられているという話だったはずだ。完全にこの国の側の人間だと思われるのは避けたい。


「なので、撮影して動画を作るところまではやります。でも、伝えるのはこの国の人のほうがいいんじゃないですか? たとえばイストール公がやるとか……」

「なるほど。それはいいアイデアですね」

「おお! それなら私がやりましょう!」


 ルイ様が突然話に首を突っ込んできたので、私はちらりとルイ様を見てから再びフェリクスさんをじっと見る。


「かしこまりました。ではルイ様にお願い致しましょう。それで伝える内容ですが――」


 こうして私たちは打ち合わせを終え、動画の撮影に向かうのだった。

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