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第21話 ミニョレ村のウェイトレス

 ミニョレ村へと戻ってきた冒険者たちは唯一の宿であるクロエさんの宿に宿泊することとなった。


 昨日までは無料で泊めてもらっている俺しかいなかった宿も、今日からは満室だ。


 彼らは当然宿泊費を支払っているわけで、こうなるとなんだか無料で泊めてもらっていることが申し訳なくなってくる。


 というわけで、肩身が狭くなってきた俺はクロエさんに手伝いを申し出た。


「え? リリスちゃんがお手伝いを?」


 俺の申し出はクロエさんにとって意外だったようだ。


「うん。今日からは忙しくなるでしょ? それにずっとお金を払わないのもどうかと思ってたし……」

「いいのよ? ロランを助けてもらったんだし」

「ううん。私がやりたいの。だから何か手伝わせて?」

「うーん、なら、ウェイトレスでもやってみるかい?」

「うん!」


 こうして俺は新米ウェイトレスとして働くことになったのだった。


◆◇◆


「さあ、これが制服だよ。ただサイズが合うかしらねぇ」


 クロエさんはそう言ってウェイトレスの制服一式を差し出してきた。


「さ、着せてあげるよ」

「え? でも自分で……」

「遠慮しなさんな。さ、両手を上げて」

「自分で……」

「いいから。さ、早くおし! 時間が無いよ」

「う……」


 こうして俺はクロエさんの圧に負け、着付けてもらうことになった。


「それにしてもリリスちゃんはスタイルがいいねぇ」

「ぐえっ!」


 いきなり首が締められ、思わず変な声が出てしまった。


 今首元を紐で閉じるタイプの白い半袖ブラウスのようなものを着せてもらっているところなのだが、紐を引っ張っただけで首が締まってしまう。


 ……このブラウス、胸があまりにもきつすぎるのだ。明らかに体形に合っていない。


「ああ、ごめんごめん。やっぱりこれじゃあサイズが合わないねぇ……」


 そういうとクロエさんは少し何かを考え、そしてクローゼットの中から何かひらひらしたものを出してきた。


「この飾り襟でその谷間は隠そうか。谷間を男に見せるなんざ娼婦のやることだからね」


 俺はクロエさんの言うことに黙って(うなず)いた。


 娼婦云々はよく分からないが、たしかに言われてみれば村の女性たちで谷間を見せている女性は一人もいなかった。


 それからクロエさんは次々と俺に服を着せていく。


「あらぁ、腰がぶかぶか。リリスちゃん、本当にすごいのねぇ」


 そう言ってクロエさんは胴着の前の紐をぎゅっと絞った。


 それから俺はエプロンをし、さらに髪を赤いリボンでまとめてもらった。


「はい、できあがり。良く似合ってるよ!」


 クロエさんは満足げにそう言った。


「あ、ありがとう」


 俺はすぐに配信用のウィンドウを開き、ライブプレビューで自分の姿を確認する。


 かわいいが……かなりエロい。


 この服は肌の露出が多いわけではない。腰の部分が黒の胴着できゅっと絞られており、飾り布で装飾された大きな双丘がより強調されている。


 赤いロングスカートもその上に掛けた黒いエプロンもかわいいし、少し膨らんだ肩口と袖口をきゅっと絞る赤い紐がアクセントになっていてとてもオシャレだ。


 金髪に赤いリボンもよく映えている。


 だがこの大きすぎる胸のせいでコスプレにしか見えない。


 ……ん? コスプレ?


 そういえばコスプレ希望のコメントがたくさん来ていたような?


 よし! どうせだからこれ、動画にしてしまおう。


 これがコスプレかどうかはさておき、こうして俺はリクエストに応えてコスプレ風動画の撮影をすることにしたのだった。


◆◇◆


 動画のイントロを撮り終え、俺は食堂へとやってきた。一人で森の調査に向かったヤニックさんも戻ってきており、食堂には九人の冒険者が全員集まっている。


 ウェイトレスといっても食事のメニューは一つしかないので、仕事は配膳と追加ドリンクの注文を取るくらいしかない。


 そうして配膳を終え、食堂の隅で立っているとトマさんがこちらに来いと横柄な態度で俺を身振りで呼んだ。


 トマさんたちはすでにエールを十杯もお代わりしているので、かなり顔が赤くなっている。


「はい。ご注文ですか?」

「おう、注文だ。お前、今晩は俺の相手をしろ」


 そう言ってこいつはくすんだ金色の硬貨を見せてきた。


「はい?」


 何を言っているんだ? こいつ?


 嫌悪感から思わず罵声を浴びせたくなるが、ぐっとこらえた。


 こんな奴でも一応は村のためにゴブリンを退治しに来てくれたのだ。


「申し訳ありませんが、私はそういったサービスをしていません。他を当たってください」


 きっぱりと断ったが、なおも食い下がってくる。


「なあ、その胸とその顔、最初から気に入ってたんだ。いいだろ?」

「イヤっ! やめてっ!」


 巨漢が明らかに性的な目で見ながら迫ってくる。


 その恐怖に俺は思わず悲鳴にも似た声を上げてしまった。


 だがどうやらそれはトマを興奮させてしまったようで、ますますぎらついた目で見てくる。


「なぁ、いいだろ? 俺らは守ってやる冒険者なんだぞ? なぁ?」

「ひっ」


 後ずさるもののトマは興奮した様子で迫ってきて、俺はついに壁際に追い込まれてしまった。


 これは、もはや精気を搾り取るしかないか?


 そう思った瞬間だった。


「やめろ。イストール公から依頼された冒険者が無体を働けばイストール公の品位を(けが)すことになる」


 ミレーヌさんがそう言ってトマを(たしな)めてくれた。


「あんだと!? うるせぇな! ならお前が――」

「何か言ったか?」


 気が付けばミレーヌさんはトマの首筋に剣を突きつけていた。


「我々はイストール公の依頼でここに来ている。その意味は分かっているな?」

「……クソッ。わかったよ」


 トマがそう言うと、ミレーヌさんは剣を引いた。


「リリス、すまなかった」

「いえ、ミレーヌさんが謝ることじゃないですから。謝るべきは……」


 俺はトマを(にら)んでやったが、トマはそんなことを気にも留めず憎々し気な視線を俺たちへと送ってきている。


 ……これっぽっちも悪いとは思っていないようだ。


 少しは反省しろ!


 そんな思いを込め、俺はもう一度トマを睨んでやったのだった。

 お約束どおり、さっそくガラの悪い冒険者にと絡まれましたが、人の精気は吸わずに済みました。


 次回はお仕事の様子を編集して動画投稿します。


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