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動かない時計

作者: 神月まもる

 電池が入っていないわけではない。

きちんと新しい電池を入れてある。むしろ電池を入れなければこの時計は動いてしまうという、なんとも不思議な掛け時計を持っている。

この時計は夏のある日、縁日のフリーマーケットに出品されていたものでその前を通りかかった時、私の足は前に出なくなった。時計に吸い込まれていくような感覚で、その時の時間もが止まってしまった。

この時計を見ていると私の意識が吸い込まれてゆき、時計の中から外界を見渡すことが出来てしまう。今見えているのは私の友人である彼女の顔だ。ここは彼女の部屋の中にかかっている時計の中から、彼女を見ているみたいだ。

学生なのだから当たり前なのだけれど、勉強をしているなんて偉いじゃないか。

今度は机の中から手紙らしきものを取り出して、嬉しそうに読んでいるようだ。彼女には彼氏はいなかったはずだから、ラブレターでも貰ったのだろうか。

一度瞼を閉じて開けてみるとまた違う景色が見えてきた。見えてきたのは大学の講義の準教授の顔じゃないか。傍には私の友人である彼女が座っている。なんだかとても嬉しそうな顔をして抗議を聞いているのだけれど、傍にいる私の存在には気付いていないようだ。ここは講義室の壁に掛けられている時計なのだ。なるほど、そういうことか。この時計にはこんなことも出来るなんて、もしかして私は素晴らしい時計を手に入れてしまったのではないだろうか。

他人の秘密さえも覗き見出来てしまう、とんでもない代物かもしれない。

彼女はというと何やら怪しい様子で准教授の方をうかがっている。

ふたりの視線が交わっているのが見てとれる上に、視線がぶつかり合う場所に私は何かしら熱いものを感じ取っている。彼女のこんなにも幸せそうな顔は今まで見たことがなかった。何も聞かずとも二人の関係を悟ってしまったのは言うまでもないが、あの准教授は確か既婚者だったはず。以前街を歩いている時、准教授とその奥様と思われる方と子供の3人で、楽しそうに手を繋いで散歩でもしているようだった。

そんな姿を目撃した私は、これは大変なことになったとこの時思った。

なんだろう?このボタンは。私の目の前に赤いボタンが突然現れた。

もしかすると爆発して私の人生はこのまま終わってしまうのだろうか。

意を決してこのボタンを押してみることにした。

目の前が明るくなり、霞が取れ視界が開け始めた。

私は今、講義室で講義を受けているのである。


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