27:私のお兄ちゃん(1)
日曜日の午後一番。
私は最寄り駅までとある人物を迎えに来ていた。
その人物を待つ事、約3分。
入ってきた電車が駅を出発するタイミングで、彼は改札をくぐった。
「なんでやねん」
じめじめとした蒸し暑い日に、白色の半袖Tシャツが似合う、爽やかすぎる男こと佐藤大志は怪訝な表情で私を見る。
その顔はごもっともであるが、こちらとて言い分はあるので聞いてもらいたい。
「なぜ、お前ら兄妹の話し合いに俺が参加せねばならない」
「かたじけない」
「呼び出されたからとノコノコとやってくる俺も俺やけどな」
「第三者が…というより、大志様がいた方が話しやすいのです。ほんと、休日にご足労いただき申し訳ない」
私は深々と頭を下げた。
私だって、私たち兄妹は彼に頼りすぎていることは重々承知している。
しかし、兄も彼がいてくれた方が話しやすいと言っているし、それに今日は兄が大志へ、この間の東京での感謝を込めてプレゼントを用意しているのでどうか許して欲しい。
「ありがとう…ございます…」
「…甘えてくれるのは嬉しいけど、そろそろ見返りが欲しい」
「…見返りって?」
「それは自分で考えて。俺が今1番欲しいもの」
「えー?なんだろう…。高いやつ?」
「俺にとっては高いやつ」
「大志にとって、ということは一般的には高くないやつってこと?」
「穂高さんにとっても高いやつ」
「…全然わかんない。パソコン?タブレット?」
私は腕を組み、うーんと悩んだが何も出てこなかった。
新しい携帯ゲーム機とか新作のソフトを求められるとちょっとお財布的に厳しい。
私が悩んでいると大志はプッと吹き出した。人が真剣に悩んでいるのに、失礼なやつだ。
「そんな真剣に悩まんでもいいって。わからんなら、穂高さんに聞いてみたら?」
「何でお兄ちゃん?」
「多分、あの人なら知ってるから」
「わかった。帰ったら聞いてみる」
「おう」
「あ、ケーキ屋さん寄ってもいい?」
私はさりげなく出された彼の手を取り、近くのケーキ屋さんに向かった。
***
家に帰り、ドアを開けると、パンっという音と共に紙吹雪が降ってきた。
大志は先ほど駅で見たような表情をクラッカーを持った兄に向ける。
「何すか、これ」
「ハッピーバースデーだ!」
そう言うと、兄は本日の主役というタスキを彼にかけて写真を撮り始めた。
とりあえず、家に入ってからでも良くないかと言ったがこの男は聞きやしない。
「どうだ!嬉しいか!」
「嬉しいっすけど…、俺の誕生日は再来週っすね」
「知っている!しかし再来週は俺の都合がつかないので今日だ!文句は受け付けない!よって今日、お前の生誕祭をしてやる!感謝しろ!」
「…あざーす」
大志は迷惑そうな顔で上辺だけのお礼を言った。
一方的に開催場所や日時を決めて実行に移すなど、本当に私の兄はどこまでも自分本位である。
私の彼氏が心の狭いやつなら、今この瞬間に振られていたことだろう。私はこっそりと大志に『本当にごめん』と謝った。
早すぎる誕生日会に呆れつつ、彼は頭についた紙吹雪を取る。
「あ、そこ取れてない。まだついてるよ?」
「え?どこ?」
「だから頭の…右の方。あー、そこじゃなくて…ちょっと屈んで」
「ん」
紙が取りやすいように少し屈んだ彼の髪に触れた私は、色とりどりの小さな紙切れを彼の茶髪の中から取り除いた。
すると、突然、大志が顔を上げる。
「ひゃっ!?何!?」
目の前に急に現れた整った顔面に、私は一瞬固まってしまった。
それまでは何とも思わなかったのに、意識し出すと途端にかっこよく見えるのだから、恋とは不思議なものだ。本当に心臓に悪い。
そんな私の動揺を感じとったのか、彼はニヤリと口角を上げた。
「チューしていい?」
「だ…」
「ダメにきまっとろうがぁあああ!」
「いでっ!」
兄はどこからともなく出してきたハリセンで大志の頭を叩く。
「勝手ラブコメすんな!このエロガキめ!」
「許可取れば良いんすか?」
「そういう問題ではない!とりあえず中に入れ!いつまで玄関で立ち話してるつもりだ!訪問販売のやつか!?それとも主婦かっ!?団地妻かっ!?」
「これほど理不尽なツッコミは聞いたことあらへんぞ、こら」
大志は『お前が通せんぼしとったんやろがい』と、奪いとったハリセンで思い切り兄の頭を叩いた。
ナイスツッコミである。




