14:大都会東京で
「はぁい!東京につきましたぁ!おめでとうっ!」
弾丸東京旅行の当日、 西新宿のホテルにチェックインした私は、ホテルのロビーで自分に向けて盛大に拍手する兄に軽蔑の視線を送る。
それを見ていた観光客の外国人が訳もわからず『コングラチュレーション』と一緒に祝ってくれた。恥ずかしくて死にそうだ。
「何がおめでとうなの?顔がうるさい。キモい」
「俺が無事に東京まで来れたことだよ。キモい言うな」
「…そうだね。人が大勢いる景色が久しぶりすぎて途中、怯えて動けなくなってたもんね。それに新幹線の中で両隣に座る私と大志の手を握りしめて、『離すなよ!離したら俺は爆発する!』とかなんとか言ってたもんね。そう思うとよく辿り着いたものだ。おめでとう、お兄ちゃん。えらいぞ」
「やめろ。まるで俺がやばい奴みたいじゃないか」
「どう考えてもやばい奴でしょう」
束縛系シスコン引きこもりクソニート野郎が。
私は恥ずかしい兄から距離を取り、大志の後ろに隠れる。
すると大志は呆れたようにため息をこぼし、私を見下ろした。
「穂高さん、まさか本当に俺が着いてくるなんて思ってなかったみたいだったけど…」
「きっとお兄ちゃんは、大志が断ることを想定して、私に『大志も来るなら』って言ってたんだよ。そしたら予想外に来れるってなって、お兄ちゃんは複雑な心境なのだよ」
今日会ったときから、兄は『なんで来るんだよ』と大志に絡んでいた。
自分を見る兄の目は嬉しさと憎さが入り混じった複雑なものだったために、大志は戸惑っているが、それは、大志が来たことにより旧友に会える嬉しさ、大志が来たことにより出費が嵩む辛さ故だ。
「今、お兄ちゃんの財布寂しいから、八つ当たりしてるのよ」
「おい、じゃあ本当にこんな良いホテルに泊まって良いんか?」
「良いんじゃない?選んだのお兄ちゃんだし。私も出すって言ったんだけど、『妹に払わせるわけにはいかない』って言って謎のプライド出してくるから、もう放っておくことにしたわ。頼ってきたら出すつもり」
「なんか申し訳なさすぎて…俺、胃が痛いんやけど」
「気にしなくていいよ。こっちのわがままに付き合わせてるんだし」
確かにこのホテルの宿泊料は安くないが、こちらがわがままを言ってついてきてもらっているのだ。そこらへんのビジネスホテルに泊らせるわけにはいかないという思いも、兄にはあるのだろう。
しかしそう言うと、大志はビジネスホテルでよかったのにと返す。謙虚な男だ。兄に彼の爪の垢を煎じて飲ませたい。
「本当に気にしなくて良いよ?お父さん、ここの株主だから」
「か、かぶ…」
「優待で安くなるの」
「…薄々勘づいていたけど、藤野家ってセレブやったんか」
「別にセレブじゃないよ。普通の中流階級だって」
父が大企業とまではいかない程度の会社の役員で母が生物学者なだけだ。年収で言うと児童手当がギリ貰えないくらい。
だがそれを聞いた大志の顔は何故かさーっと青くなった。そんなに変なことを言っただろうか。
「どした?」
「結婚相手は庶民も受け付けてますか?」
「何言ってんの?庶民は多くの場合、庶民としか結婚できないわよ?」
私は怪訝な顔で首を傾げた。
すると、兄は私の肩に顎を置き、独特のポーズで会話に乱入してくる。
「おい、こんなところでグダグダしていたら時間なくなるぞ」
「キモい。重い。キモい」
「重いをキモいでサンドするな。2倍傷つく」
兄は私に後ろから膝カックンすると、腕時計の盤面を見せてきた。時間は午後三時。
「明日も観光するんだろうけど、せっかく来たんだ。俺的には時間は有効に活用することをお勧めする」
「確かに」
帰りの新幹線は明日の午後四時だ。今から約24時間しかココにはいられないのだから、楽しまなくては損であるのは間違いない。
「じゃ、俺は行くから」
兄は私の頭を乱暴に撫で回すと、スーツケース片手にホテルのロビーを出ようとした。
大志はそれを引き止める。
「え?穂高さんは?」
「俺は友達がホテルを予約してくれてるからそっちに行く。式場が契約してるところで、そっちのが近いからな」
「へ?じゃあ、俺とこいつでここに泊まるってこと?」
「そういうこと」
呆然と兄を見つめる大志。どうやら伝達ミスらしい。兄だけ別のホテルであることを伝えられていなかったようだ。
私は彼の袖をちょんちょんと引っ張った。
「部屋は2部屋とってるから大丈夫だよ?」
「お、おう…」
首を傾げつつ、そう説明したが彼は顔を赤くしてこちらを見ない。そんな反応をされると私まで恥ずかしくなる。
別に同じ部屋に泊まるわけじゃないんだけど…。
「誕生日プレゼントだ。来月誕生日なんだろ?」
兄はニヤリと口角を上げると、踵を返し、手をひらひらさせながらホテルを出て行った。
「お前の兄ちゃんは過保護なのかそうじゃないのか分からん」
「過保護だけど、大志は気に入ってるんだよ。友達と二人でお泊まりなんて、普通は許可しないもん」
「…友達…」
「あ、今は彼氏だっけ?」
「お前、自分から彼氏のフリ頼んどいて、すぐ曖昧になるのやめろやぁ…」
「え、なんかごめん…」
大志は何故か悲しそうに口を尖らせた。
その1時間後、彼ののスマホには兄からメッセージが届いていたらしい。
『避妊しろよ、若者』と。
まじ最低。




