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入学

 魔導学園の新品の制服を着て、希望に満ち溢れた表情、ではなくやる気と覇気がない顔をしている新入生とは思えない男、トール・ミッドガルドは魔導学園の中を歩いていた。


「はぁぁぁぁ……」


 筆記試験がダメでも実技試験が過去最高得点をたたき出したため主席として合格になったトール。合格を言い渡された時、筆記試験が全滅で受かると思っていなかったためトールは入学する気持ちになれていなかった。


 学園の外からシヴの護衛をしようと思っていた算段は崩れ去り、やる気のない状態で再び魔導学園の敷地に足を踏み入れたトール。


 トールはシャルルから国王権限でシヴとクラスを同じにしたと聞いているため、そこら辺は安心して授業を受けられると思っているが、シヴから知られているのか、シヴから嫌われていないかを気にしてしまっていた。


 シヴからマイナスな感情が見受けられるようならば、トールは学園の外から守った方がやりやすいと思っている。トールがそこら辺をシャルルに聞いたところ、シャルルは複雑な表情で言葉を濁したことでトールの不安は少しばかり助長した。


「ここか……」


 入学の際に家に送られてきていた資料に所属するクラスが書かれており、一年一組の教室の前にトールはたどり着いた。


 扉を開けると一斉にトールの方に視線が向けられた。そのことに対してトールは思うところはなく階段教室を進み指定されている席、窓際の一番後ろの席に腰かけた。


 その際にトールは見覚えのある顔を同じ机で隣の席で見た。その女性はトールの方を凝視しており、瞬き一つしていなかった。その行動を視界の端で見ていたが、意を決したトールは隣の席を見た。


 そこには美しい長い金髪におっとりとした雰囲気が良く似合っている女性がトールの方を凝視していた。ここで話しかけないという選択肢がトールにないため、諦めて挨拶することにした。


「どうも、初めまして。シヴ王女さま」

「嫌ですよ、トールさま。そんな他人行儀な呼び方は困ります」


 トールとシヴはお互いにお互いのことを分かっており、シヴの解呪をする時にお互いの顔を確認している。その時のシヴはもうろうとしていたはずなのに、なぜか一目で教室から入ってきた男性がトールであることが分かった。


「改めまして、僕はトール・ミッドガルドです。よろしくお願いします」

「私はシヴ・フランクです。私のことはシヴとお呼びください」

「それなら僕もトールで良いですよ?」

「いいえ、トールさまとお呼びしたいのです。それと、私に敬語は不要ですのでお気軽に話しかけてくださいね」

「……そう、分かった」

「はいっ」


 とりあえずシヴからマイナスな感情どころかプラスな感情を受け取ったトールは一安心した。しかしどこでこんなに笑顔を振るまわれるほどになったのかと疑問を感じたトール。これが彼女の姿なのか、自身だけなのか、出会ったばかりのトールは見当がつかなかった。


「言い忘れていましたが」


 シヴは話している際にトールに体を寄せて密着した。そのことでクラスでシヴとトールのことを見ていたクラスメイトたちはざわついた。


「あの時助けていただいて本当にありがとうございました。魔法をかけられてから、毎日苦しくて、死んだ方が楽だと思えるくらいなところをトールさまに助けていただきました。この御恩は私の人生をかけてでもお返ししたいと思います」

「気にしなくても構わないよ。国王さまに頼まれてやったことだから、お礼なら国王さまに言ってあげて」

「いいえ、そうではないのです。あの地獄から解放してくれたのがトールさまですから、トールさまに感謝したいのです」

「……うん、まぁ、好きにして良いよ」

「ありがとうございますっ」


 シヴに押し切られてトールはシヴの気持ちを受け入れることにした。それを聞いたシヴは笑みを浮かべて喜んだ。そのことでより一層クラスの人々はざわつきが大きくなった。


「あの、シヴさま」

「何ですか?」


 一人の男子生徒が近づいてきて、トールのことを一瞥しながらシヴに話しかけた。話しかけられたシヴは変わらず笑みを浮かべているが、どこか不機嫌なように感じるがそれは誰にも分からない。


「そこの男は誰ですか? 親しくされているようですが、まさか平民ではありませんよね?」


 男子生徒はトールのことを見下しながらそう言った。トールのことは良い意味でも悪い意味でも有名で、赤髪に深紅の瞳が特徴的であるため姿を知らなくてもその情報でシヴの隣に座っているのがトールであることは予想できた。


 この学園に限らず、魔法を使える平民は魔法が使えようが使えまいが貴族から下に見られている。どれだけ平民が強くてもその血が優れていないと考え、平民が絶対に下であると信じてやまない。


「平民であれば、どうするおつもりですか?」


 男子生徒のトールへの視線に気が付いているシヴは内心怒りの炎で燃え上がっているのを抑え、笑みを崩さずに男子生徒にそう答えた。


「平民であるならば平民相応の対応をするべきです。一国の王女殿下の隣に、しかもそのような近くに座っているなど言語道断です。分を弁える行動をしてもらいたいところです。平民なのですから」


 明らかにトールへの軽蔑の視線を隠しきれずにおり、トールが平民であると分かった途端にクラスメイトたちもトールを軽蔑の視線を送っている。


「ここでは身分の差など関係ないはずです。そのような言動はこの学園の教育理念や貴族としての礼節に傷をつけるものです。よく考えてから話してください」

「ですが! 平民では貴族の代わりにはなれないのですから平民が貴族を敬って行動するのは当然です! 即刻王女殿下から離れるべきです!」


 トールに指をさしてそう言い放った男子生徒であったが、言われているトールは何も考えていない顔をしていた。そもそもトールはこの国の人間でないため平民ではなく、ユグドラシルの民で国王から直々に頼まれている立場な為、下手をすればこの男子生徒より立場が上になる。


 そも、トールはこういった話を最初から聞く気がなく、自身が軽蔑されようがアリが地面を歩いているくらいの感覚ですぐに忘れるような情報だった。


「トールさまの隣には私が座ったのです。トールさまが離れるのは違いませんか?」

「王族がそこに座ればどこかに行くのが平民です。平民がどこかに行くべきです!」


 さっきからトールに突っかかってきている男子生徒が根っからの貴族至上主義であることは誰もが分かっていることだ。トールも感じているが、聞き流していた。


「そもそも平民が――」

「はぁ」


 男子生徒が懲りずにまた言葉を続けようとした時に、トールは大きなため息を吐いたことでトールの方に全員の視線が移った。


「どうでもいいけど、いつまで喋っているの?」

「……は?」

「僕はさっきから一言も聞いていないから分からないけど、何が言いたかったの?」

「……は?」


 オーディンやユグドラシルの人々が慣れてしまった、トールの聞いてなかったごめんを喰らった男子生徒は逆にトールが何を言っているのか分からいという表情をしていた。


「お、お前、何を言っているんだ?」

「何って、聞いてなかったって言っているんだよ。僕って無駄そうな話は聞かないようにしているから。ていうか話が頭に入ってこないんだよね。だから、何って言ったのかもう一度話してもらっても良い? しっかりと話してくれれば、次はたぶん聞けると思うよ?」


 トールの言葉に話しかけてきた男子生徒とクラスメイトたちは絶句するしかなかった。あんなに話していたことをすべて聞いてなかったと言っているあの平民の男に。


「あと、短めに話してくれるかな? 長く話しても聞くに堪えないから、よろしくね?」

「……はぁ?」


 そう言い切ったトールに男子生徒は言葉が出なかった。トールの表情からそれが嘘ではなく、本当のことであると分かったからだ。今まで話したことをすべて聞いてなかったことに、呆れて、言葉が出ず、そして怒りが湧き上がってきた。


「き、貴様ッ! バカにするのも――」


 男子生徒の怒りが爆発しそうになったところで、教室の扉が開いて先生が入ってきた。そのことで男子生徒はトールを今にも殺しかかりそうな目を向け舌打ちをして席に戻って行った。


「席についてください。今より――」


 先生の言葉でクラスメイトたちは席に戻って行く。そして未だにトールに密着しているシヴがトールに小さな声で話しかけた。


「追い払った手際、お見事です。トールさま」


 何も分かっていないシヴはトールのことを尊敬の眼差しで見ている。トールはわざとしたわけではなく、追い払った方法も褒められたものではないが、シヴはトールのことをそう見ていた。


「えっ? 僕が彼を追い払ったの?」

「そうです。彼の言っている無駄なことをすべて聞かず、もう一度聞くとはすばらしい精神力です」

「……あぁ、うん、何だか分からないけど、嬉しそうだから良いか」


 対してのトールは嬉しそうにしているシヴを見て考えることを再びやめて先生の方を向いた。

序章の時みたいに〇/〇という形にしようと思ったんですが、話が色々と飛ぶと分かりにくいと思って序章でやめました。

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