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序章3/7

「どこに行くのですか?」

「あまりあの姿をまじまじと見ているわけにはいきませんから、外に出るだけですよ」


 茶髪の男性がトールに話しかけてきたが、トールはその言葉が単なる疑問からなっているものではないと感じた。


「では、私もお供しましょう。私も王の泣いている姿を見ている趣味などありませんから」

「お好きにどうぞ」

「少し落ち着ける場所を知っていますから、そこに行きましょう」


 トールと茶髪の男性は今もシャルルがシヴの手を握ってすすり泣いている部屋から出て、茶髪の男性が先導して客室の間にたどり着いた。


「そちらに座ってください」

「では、座らせてもらいます」


 客室の間でも高価なソファーや机が置かれており、城の一室に恥じない場所になっていた。そこに置かれているソファーにトールは腰かけ、その対面に茶髪の男性が座った。


「私の自己紹介がまだでしたね。私はフランク王国で宰相をしております、オリヴィエ・リフィアです。どうぞよろしくお願いします」

「僕はトール・ミッドガルドです。よろしくお願いします」


 オリヴィエとトールは立ち上がって握手を交わして元の位置に座った。そのタイミングでノックをして入ってきた使用人がオリヴィエとトールの前に紅茶を出して立ち去っていった。


 オリヴィエが紅茶を上品に飲んだことで、トールも同じように紅茶を飲んだ。だが、トールの味覚では美味しいとは感じ取れなかった。ユグドラシルで飲んでいた紅茶の方が断然おいしいと思っていた。


「どうかされましたか?」

「いえ、何でもありません」


 トールのちょっとした異変に感じ取ったオリヴィエが問いかけるが、トールはそれを何ともないと返して今度はトールからオリヴィエに話しかけた。


「それで、どうして僕をこんなところに連れてきたのですか?」

「先ほど言った通り、少し落ち着ける場所に来ただけですよ」

「そうですか。てっきり僕のことを疑っているのかと思っていました」

「まさか、シヴさまを救ってくださった方を疑うはずがありませんよ」


 オリヴィエは表情を表に出さずに話しているものの、トールに思っていることを言われて少しだけ驚いていた。


 トールに言われた通り、オリヴィエはトールのことを疑っていた。未だにトールがユグドラシルの民であることを信用できておらず、シヴを呪った組織の一員ではないかと疑っていた。シヴの呪いを解呪することで、上手く親友であるシャルルに取り入ろうとしているのではないかと思っている。


「トールさんは、ユグドラシルの民でしたよね?」

「そうですね。それがどうしましたか?」

「いや、ユグドラシルはどんなところなのかと思いまして。その存在は知っていても未知の場所ですから、気になってしまいます」

「どんなところと言われましても、あまり行くにはお勧めしない場所ですよ」

「なぜですか? ユグドラシルは世界とは接点がありませんが、その技術は何世代も先を言っていると聞きます。そんな次世代の場所がどうしてお勧めできないのですか?」

「それはユグドラシルの目的の副産物にすぎません。あそこがどういうところか分からずに行こうとするのは、まず無理ですし痛い目を見ますよ」

「それはそれは、興味深いですね」


 オリヴィエはトールと話しながらトールのことをさりげなく観察していた。しかしトールがオリヴィエと出会ってからずっと自然体でいるため、年不相応の落ち着きにより一層トールを怪しい目で見た。


「ユグドラシルは様々な技術を持っていますが、どうして他の国に広めないのですか? それだけの技術を他に売れば莫大な富を得られるはずです」

「そんなことをすれば、他国と関わり合うことになりますよ。ユグドラシルの民はそれを望んでいませんから」

「そうですか。それは非常に残念ですね。ユグドラシルの技術があれば、国が発展するでしょう」

「そうだと思ってユグドラシルに進攻しようとしてきている国が後を絶ちません。所詮は前時代の人間ですからたどり着きはしませんが」


 ユグドラシルの技術やそこにしかない珍しい植物や鉱石を求めて侵略しようとする国が後を絶たないが、ユグドラシルには近づけないように魔法が何重にも張られているためたどり着くことは不可能なため意図的にユグドラシルに近づけた者は今までに一人もいない。


「どうですか? これを機に少しユグドラシルの技術を見せてはくれませんか?」

「冗談を言わないでください。そんなことするわけがありませんよ」


 オリヴィエは単に技術を知りたいと思うだけではなく、目の前の男がユグドラシルの民である確証が欲しかった。目の前の得体の知れない男が敵であった時、それ相応の準備をしなければならないと第六感が働きかけていた。


 ただ、トールは自身がユグドラシルの民であることを証明してもしなくてもどちらでも良かった。だからトールは決してユグドラシルの技術を見せなかった。


 オリヴィエが一方的にトールのことを探っていると、扉がノックされてシャルルが来たことを使用人から伝えられた。そして目を赤くしたシャルルが部屋に入ってきた。


「すまない、少し見苦しいところを見せてしまったね」

「いえ、構いません。親が子を思う心に見苦しいもありませんから」

「そう言ってくれるとありがたい」


 シャルルはオリヴィエの隣に座り、使用人はシャルルの前に紅茶を出して部屋から出た。紅茶を一口飲んだシャルルは、トールを真っすぐ見た。


「改めて、我が娘を救ってくれてありがとう。トールくんのおかげでシヴは大事に至らなかったよ」


 トールに向けてシャルルは深々と頭を下げた。


「頭を上げてください。王さまにそうしてもらっている方が困りますから」

「それはすまない」


 トールの言葉にシャルルは頭を上げた。そしてシャルルが話しだそうとしていることをトールは察しながら言葉を待った。


「シヴを救ってくれて早々悪いけど、もう一つ手紙で頼んでおいたことをお願いしたいんだ」

「はい、第二王女の護衛ですね。王位継承権のあるシヴ・フランクを暗殺の魔の手から救う、でしたね?」

「そうだ。それをお願いしたい」


 シャルルの話にトールは最初から受けるつもりでいた。元々手紙の内容はシヴの解呪とシヴの護衛の二つであったため、それをオーディンから頼まれた以上断る理由はなかった。


「はい、そのお願いを引き受けます。最初から解呪と護衛の二つをするつもりでいましたから」

「本当かい⁉ ユグドラシルの人がしてくれるのならありがたい……!」

「ですが条件があります」

「何でも言ってくれ。可能な限り条件をのもう」

「この王都に暮らすための住居を提供してほしいです。ここに来たのはついさっきなので、住むところもなければこの国の情報もありません。シヴ・フランクの護衛にあたって、最低限の暮らしを用意してくれるのが条件です」

「……それだけでいいのかい?」

「シヴ・フランクの解呪と護衛の報酬は別ですよ?」

「それは分かっている。何か他にないのかな? 例えば、一ヶ月につき金貨十枚とか、衣食住以外のことはないのか?」

「いえ、ありません。お金は不要ですし、欲しいものがあれば魔物を討伐して稼げますから」

「そうか……」


 トールの条件にシャルルは困ってしまった。ユグドラシルのトールが護衛をするのだから、それ相応の条件を覚悟していたが、普通の護衛を雇い入れるより安かった。むしろ条件が軽いのだから、報酬が怖いと思ったシャルルだが、ここでユグドラシルのトールを手放すことはできなかった。


「分かった、その条件をのもう。住むにあたって条件はあるかな?」

「いえ、ありません。強いて言うならばシヴ・フランクと距離があまり離れていないところが良いです」

「最初から近いところにしようと思っていたところだから安心してくれ」

「聞き忘れていましたが、護衛の期間はどれくらいですか?」

「大事なことを言い忘れていたね。シヴは来年度から魔導学園に入学することになっている。だからトールくんには魔導学園に在籍している間の三年間、護衛をお願いしたいと考えているよ」

「三年間ですか……」

「三年間が長いとは分かっている。だけど三年間でシヴが自分自身で守れる力をつけ、頼れる仲間を作ってほしいと思っているから、その間だけでも守ってほしい」


 シャルルから示された三年間は普通の人間ならばとてもじゃないが長い。しかしユグドラシルの民であるトールからすれば三年間など短い時間だと思っていた。


 問題は三年間をただシヴのために使うのにメリットがあるのかどうかを考えていた。一国の王女で、次期女王であるがトールからすればどうでも良かった。


「……分かりました、三年間引き受けましょう」

「すまない、本当にありがとう……!」


 コンマ一秒だけ考えたトールは三年間の護衛を引き受けることにした。シャルルとトールは立ち上がり、握手を交わした。


「これから三年間、よろしく頼む」

「はい、シヴさまを守らせていただきます」


 シャルルとトールが握手を交わしている中、オリヴィエはトールを疑惑の眼差しで見ていた。

書くことは特にないので、これから出すトールの技名だけ出しときます。

「トール・ハンマーッ!」

これをトールが言っていると自分の名前を付けててなんかちょっとダサいなと思ってさすがに変えました。

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