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入学。④

「おーい、大丈夫かなー?」

「……はっ! も、申し訳ございません!」

「別にいいよ。何か質問はある?」

「……質問、ですか……」


 再起動したシヴはトールに対する質問を考えようとしたが、今まで生きてきた中で信じて辛い現実を突きつけてきていたものを否定されてシヴは何も考えれなかった。そのため、至ってシンプルな質問をトールに言った。


「私が魔法を使えるようになるには、どうすれば良いでしょうか?」

「ま、そう聞いてくるよね。何でも吸収する子供だったらこの方法はやりやすかったんだけど、この方法が一番やりやすいかな」


 そう言ってトールはカバンから紙と筆記用具を取り出した。テーブルに紙を置いてあるものを書き始める。それをシヴは黙って見ていたが、何を書いているのか全く分からなかった。


「これが一番やりやすい方法だよ」

「……何ですか? これは」

「魔法陣」


 トールが紙に書いたのは円の中にシヴでは読み取ることができない文字が書かれているもの、魔法陣であった。それが魔法陣と言われても、シヴは魔法陣という言葉すら初めて聞いた。


「その、魔法陣とは何ですか?」

「あぁ、暗示魔法しか知らなかったら魔法陣は知らないか。魔法陣は構築魔法で魔法の現象を示す文字列で、僕がさっき見せた構築魔法の時も見せてたよね」

「そう言われてみれば、さっき見ましたね」

「構築魔法は、最初にどんな魔法を使うかを頭の中で魔法陣を構築して、それを現実に持っていくことで放つことができるんだよ」

「ということは、この魔法陣を思い浮かべれなければ、構築魔法は使えないということですか?」

「そういうことになるね。でも、知らないと知っているとでは根本的に違ってくる。シヴには今からこの魔法陣を隅から隅まで見なくても思い出せるように覚えてもらうから」

「えっ?」


 そう言ったトールはシヴの前に紙を出してシヴはそれを受け取った。困惑するシヴにトールは説明を加える。


「魔法陣の基本は、思い出すことなんだ。例えば、火を起こしたいとする。そうしたら火の魔法陣を思い出して、そこからその場に応じて変数を定めて魔法陣を現実に持っていく。最初だからシヴには魔法陣を思い出す作業の前、覚えることから始めないと何も始まらないんだよ。変数とかは今は大丈夫だから、とにかくその魔法陣を覚える。それが魔法を使えるようになるための勉強だね」

「なるほど……そういうことですか。分かりました! 覚えることは得意ですから!」


 トールの説明に納得したシヴは紙に書かれている魔法陣を穴が開くかと思うくらいに見始めた。その間にトールはここに来てからずっと隠れている誰かに意識を移した。


 透明魔法や物陰に隠れてトールとシヴの周りに潜んでいることをトールは分かっており、その人数が十六名であることも分かっていた。


 トールはこれから起きることがシヴにバレないようにシヴの周りに防音魔法をかけて外からの音を聞こえないようにした。トールが起こす魔法に音はしないが、潜んでいる者の音を消すにはこうする方が良いと思ったためだ。


「さてと……」


 周りにいる人々が誰なのか分からないトールは、一人を残して十五人を雷魔法ですべて気絶させた。トールたちの周りからは倒れる音が聞こえ、残りの一人は即座に動くことはしなかった。


「出てきてもらえると楽でありがたいよ」


 トールが残りの一人に向けてそう言い放つと、しばらくの沈黙の後に物陰からローブにフードを深くかぶっている性別が分からない人が出てきた。トールの言葉に大人しく従っているのではなく、殺気をトールとシヴに向けていた。


「どこの誰かは分からないけど、どうせ負けるんだから大人しく引いてもらえたらこちらは何もしないよ?」

「……悪しき者は、殺す」


 トールの優しい問いかけに応じず、声で女性だと分かる顔を隠した女性は懐から剣を取り出した。そして斬りかかろうとしたが、トールがその前に女性の剣を粉砕魔法で粉々にして、重力魔法をかけることで女性は立ってることができなくなり跪いた。


「キミでは僕には勝てないよ。キミ一人を残したのは色々なことを聞きたかったからなんだけど、教えてくれるかな?」

「ッ! 誰が、異端者に教えることなどあるかぁ!」

「異端者ね……」


 女性は全くトールに屈することはなく、重力をかけられた状態でもトールに殺気を送り続けていた。普通の方法では聞くことは不可能だと思ったトールであるが、最初から無理に聞き出そうとしていなかった。


 トールが魔法を使えばこの女性から記憶を読み取ることは可能であるため、聞く必要はない。だがトールは人の記憶はその人の物であると考え、不用意に記憶を読み取ることはしない。


「それじゃあ質問を変えようか。キミたちの狙いはどっちかな? 僕? それともシヴ?」

「……誰が異端者に教えるか。今すぐにでも殺せ」

「そう言われてもね……」


 女性の言葉にトールは困惑してしまう。生まれてからトールは人を殺すことはしていない。例え殺されそうになったとしてもトールは殺しをしないと断言できる。そのためこの場で女性を殺すことはしない。せめて国に引き渡すくらいだった。


「それだけでも答えてくれたらお仲間も無傷で返してあげるよ? 悪くない条件でしょ?」

「……そんな条件があるわけがない。信じられるわけがないだろ」

「僕から言えることは僕を信じてくれとしか言いようがないかな」

「……それなら、まず私の拘束を解け。そうしたら信じてやる」

「うん、良いよ」


 女性の言葉にトールは素直に女性の重力を解放した。動けるようになった女性はすぐさま懐にしまい込んでいたナイフを取り出してシヴに投げつけようとした。


「無駄って分からないのかな?」


 だがさっきとは比べ物にもならないくらいの重力が女性にかかり、女性は地面に這いつくばってナイフは例のごとく粉々になった。


「さぁ、僕はキミの要件を呑んだから、次はキミが僕の要件を呑む番だよ」

「私は、拘束されているぞッ……、それを言うならもう一度、解放しろッ」


 トールの問いかけに女性は重力で立てなくなっている状態で苦しそうにしながらトールにそう答えた。しかしトールは困った顔をしながら女性の言葉を返した。


「それはできない相談だよ。もう僕とキミの間では契約が行われているからね」

「契約、だと……?」

「僕の要求とキミの要求はお互いに承知した以上、キミの要求が叶ったのだから次は僕の要求が叶うという契約だね。それができなければ……」

「ッ⁉ あ、あ、あ、あっ……」


 トールが喋っている途中で、女性の体に変化が起きた。ローブを着ているため全身を確認できない状況であるが明らかに肉がなくなり痩せていくのが分かるほどにローブが余っている。


「キミは僕との契約を反故にしたから、身をもって契約を破ってはいけないと魔法が言ってくれているよ」


 今回の契約違反の罰則は飢餓であるがこれはトールが決めることができないもので、ある程度までは罰則をトールが予測することができるがあくまでそれまでだ。


「今からでも教えてくれればそれは治るよ? どうする?」

「……外道が」

「バカを言ってはいけないよ。僕はキミに選択肢を与えているだけに過ぎないんだから」

「くぅっ……、か……っ」


 女性とトールが話している間にも女性の体はどんどんとやせ細っていき、ついには女性が喋ることも苦しくなっていた。


「もう一度聞くね。狙いはどっち?」

「……ど、どっち、もだ」


 トールがもう一度聞くことで女性は苦しみから逃れたいがために素直に答えた。すると女性の体はみるみるうちに元に戻って行き、苦しそうだった女性は荒く呼吸をしている。


「どっちもだね。答えてくれてありがとう」

「……鬼畜が」

「人殺しに鬼畜と言われるとは面白い冗談だね」


 多少なりとも回復した女性はふらふらと立ち上がってトールに殺気を送るが、今度は攻撃しようとはせずに懐から何かを取り出した。


「次は、殺す」

「懲りないね」


 女性の懐からはひし形の水晶のペンダントであり、女性がそれを天に掲げるとペンダントが光り出して周りで気絶している人たちが体に光を帯びてその場から消えていく。


「転移の魔導具か。……まぁ、見逃すって言ったし、好きに逃げると良いよ」


 女性にも光が帯び他の人々と一緒にこの場から逃げようとしている。トールがその気になれば魔導具に保存されている魔法陣を壊すことができるが、契約魔法で返すと言っているため何もせずに消えていくのを見続け、この場にはトールとシヴしかいなくなった。

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