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入学。③

 図書館、医療棟、魔導棟、食堂、騎士棟、魔導具棟、中庭など、二ルソンを先頭に学園中を回り、クラス単位で学園の案内が滞りなく終わったことで今日の授業日程はすべて終わった。


「あの、シヴさま! 僕と一緒にお昼に行きませんか⁉」

「お前みたいなやつは引っ込んでろ! 俺と行きませんか⁉」

「いいや、僕の方が相応しいね!」


 学園の中で解散と言われたことで、クラスの男子たちはシヴに押し寄せてきた。さっきまではトールがシヴと話していたことで話しかける隙がなかったが、トールとシヴが少し離れている間にシヴに押し寄せてきた。


「い、いえ、私は用事がありますので……」


 やんわりと断っているシヴであったが、全く男子生徒がどこにもいかなかった。それどころか、男子生徒同士で醜い争いになっていた。


「おい! お前みたいなやつが王女さまに話しかけて良いはずがないだろうが! さっさとどいてろ!」

「この学園では身分なんか関係ないんだよ! お前の方がブサイクなんだからどこかに行けよ!」

「殴ってくるなよ!」

「お前こそ殴ってくるな!」


 こうして周りにいるのは下層にいる貴族で、一代チャンスであるため必死で王族に取り入ろうとしているのだ。本来ならシヴは分かりやすい護衛を付けるべきなのだが、密かにトールがその役目を果たしていることはごく一部の人間しか知らない。


「暗殺とかよりも、面倒だな……」


 その光景を見ていたトールはすごく面倒くさそうな顔をしているが、シヴがあと少しで男子に圧迫されそうになっていた。それを見てさすがに見過ごせないと思い、トールは端っこにいる男子生徒とシヴの位置を魔法で入れ替えた。


「あれ? 私は真ん中にいたのに……」

「ほら、今はあっちに夢中だから行くよ」

「は、はいっ!」


 シヴは入れ替わったことに驚きはしたが、トールの顔を見てすぐに笑顔になった。身だしなみを整えてトールの横について歩き始める。一方、男子生徒が中心に押し寄せている集団はとんでもないことになっていた。


「シヴさまはどこに行った⁉」

「おい! シヴさまはここにはいないから押すな!」

「そんなことを言っても後ろから押されているんだよ!」

「後ろの奴! 押すな!」


 真ん中の男子生徒は男子の中にもみくちゃになっており、あのまま続けていればシヴがあそこにいたことになっていたことをあの男子生徒たちは分かっているのだろうかとトールは振り返ってみるが、自業自得と無視して歩いて行く。


「押すな痛い!」

「ぎゃあああああっ! 足を踏むんじゃねぇよ!」

「誰か先生を呼んで来い!」


 もはやカオスになっているその状況に、他の生徒たちはバカにしたりどこかに行ったり先生を呼んできたりと様々な行動を起こした。


「うはぁぁぁぁぁっ! 男子があんなにもみくちゃになってるぅぅぅぅっ!」


 約一名はその光景を見て鼻血を出しながら脳内にこの光景を焼きつけようと目を見開いて瞬き一つせずに見ていたが、それは一名だけであった。


「どこに行く?」

「そうですね……、せっかくですから食堂に行きませんか? 丁度お昼時ですし、一緒にご飯を食べたいと思っていました。……どうでしょうか?」

「そうしようか。ここの味がどれほどのものか知りたかったからね」

「それでは食堂に行きましょう!」


 あのカオスになっている集団からすでに離れているトールとシヴは並んで歩いて平和に食堂に向かって話していた。


「あっ、それからあんなことがまた起きたらいけないから、僕の元から離れないようにしてね」

「ッ! 良いのですか⁉」

「えっ、うん、良いよ」


 あの状況なら何者かが狙っていれば格好の餌食であるため、そんな状況にならないように離れないようにと言ったトールだが、ずっと近くにいるのは迷惑ではないかと思っていたシヴはそう言われてずっと一緒にいようと決心した。


 ☆


 同じものを同じテーブルで一緒に食べるという、シヴにとっては最高の時間を過ごした二人は、すぐにでも魔法を知りたいというシヴの要望から、美しい花々が植えられている庭園にやってきていた。


 庭園の一角にあるガゼボで二人並んで座った。その距離はなく、トールが座った後にシヴがくっついて座ったためであった。そのことをトールは別に気にしておらず、故郷に同じような女がいるからだ。


「それでどのようなことを教えてくれるのですか?」


 シヴはこれから教えられることを心躍りながらトールに聞いた。それに対して、トールはどこから教えようか考えていたことですぐにシヴの問いかけに答えた。


「まず、シヴが魔法を使えない原因を教えてあげようか」

「分かっているんですの?」

「うん、分かっているよ。それじゃあ詠唱魔法を使ってもらっても良いかな?」

「はい、分かりました」


 トールの言葉にシヴは一つ深呼吸をして魔法の詠唱を言葉に出し始めた。


「吹き荒れ乱せ、大いなる風!」


 シヴが初級の風魔法の詠唱を言い放つが、数秒待っても何も起こることはなかった。シヴは残念そうな顔をしてトールの方を見た。


「こんな感じです。私は何も起こすことができません」

「だと思ったよ」

「どうしてですか?」

「だって、僕もそれを言っても魔法を発動することができないんだから」

「えっ……? ど、どういうことです?」


 シヴの戸惑いをよそに、さっきシヴが言っていた詠唱を思い出して今度はトールがその詠唱を言い出した。


「吹き荒れ乱せ、大いなる風! ……かな?」

「……本当に、何も起きませんわね」


 シヴと同じようにトールも魔法詠唱しても何も起こらなかった。


「この詠唱魔法を発動させるためには一つの大前提があるんだよ」

「大前提?」

「そう。おそらくこの国の貴族の人たちは、全員が幼い頃から同じ教育を受けてきたはずだよ。それこそ神がどんなものとか、どんな神がいるとか、フランク王国が絶対視しているものはすべてね」

「……はい、確かにそうです。ですが大前提なのですか?」

「うん、大前提だよ。だって、この詠唱魔法の正しい言い方は、暗示魔法なんだから」


 トールの言葉にシヴは瞬きを何度もして、何を言っているのか分からない表情をしている。


「おーい、大丈夫?」

「……トールさまでも、ご冗談を仰るのですね?」

「シヴは僕が冗談を言うと思っているの?」

「い、いえっ! そんなことはありません!」

「それこそ冗談だよ。でもさっき言った暗示魔法は本当だよ。まぁ、とにかく話を続けるから、質問はそれからにしてほしいかな」

「……はい、一応最後まで聞きます」


 話に追いついていけないシヴは話を聞くことに専念し、トールは話を続けることにした。


「魔法を発動する方法は大きく分けて三つ。暗示魔法と精霊魔法と構築魔法の三つだよ。一つ目の暗示魔法は自身が定めた言葉を言うことで魔法陣の構築を省く魔法。二つ目の精霊魔法は精霊と契約した者が魔力と契約の言葉を発することで使用できる魔法。最後の構築魔法は思い描いた魔法陣を展開して使用することができる魔法なんだ」

「……何となくですが、分かりました」


 色々な情報を聞かされたシヴは言葉ではこう言っているがあまり理解していなかった。トールに頭が悪いと思われたくないと思っているためそう言っていた。


「分からないのなら分からないって言ってくれた方が教えやすいよ」

「全然分かりません!」

「うん、分かった。それじゃあ簡単に説明していくね」


 シヴの表情を見て分かっていないことを理解していたトールは正直に言うように促したことで分かりやすく説明することになった。


「そもそも魔法は自身で放つか他と契約することで放つ二つの種類しかないんだ。そして自身で放つ魔法は言葉を必要としていない。だって一人で完結しているんだから声に出すのは時間の無駄だからね」


 そう言ったトールは両方の手のひらを上にして出した。


「風が十秒間左手のひらで踊る」

「……うわぁ」


 トールの左の手のひらに小さな風が出現して踊るように回っており、右手のひらに魔法陣が出現して左手と同じような動きをする風が現れた。


「左が暗示魔法、右が構築魔法。これなら分かりやすいかな?」

「……はい、分かりやすいです、これが何を意味しているのですか?」

「要するに、暗示魔法をするのが馬鹿で、構築魔法をするのが本来のやり方ということだね。この国の人たちの中に、おそらく魔法を使えない人がシヴのようにいると思う。それはシヴのように言葉による暗示、洗脳ができていないからだよ。今まで使えたけど使えなくなった人は、別に魔法が使えなくなったことではない、ただ暗示が切れただけ。何が言いたいかと言えば、シヴは異常に暗示がききにくい体質か暗示が不十分だったから、魔法を使えないだけだよ」


 トールの説明にまたしてもシヴは固まってしまった。

書きたいものが次々と頭の中に浮かび上がってきます!

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