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第33話 昔話4

 それはとても寒い日のランチタイム、天気予報ではどう頑張っても気温1℃を超えることは無いという。今日は一日コートが手放せないでしょう。


「へえ、あの時の警察官がねえ。ちょっと運命的じゃない」


 雪村笑子は親友の翠と地元のカフェにいた。外は地獄のような寒さだが、カフェの中はとても快適である。


「運命?まあ、そう……なのかな?」


 笑子は大きくなった翠のお腹を見ながらホットコーヒーを一口。竹田千春という警察官と再会した笑子はその時借りたゲームをきっかけに実は関係が続いていた。


「いやー、でも私は安心したよ」

「なにが?」

「ほら、私かなり早く結婚しちゃったじゃない?笑子はそんなの気にせず接してくれたしすごく喜んでくれたから嬉しかった。でも、笑子って彼氏が出来てもすぐ別れちゃってたし、心配してたんだよ私」


 感極まったのか翠は目尻に光るものを浮かべながらしみじみと話す。


「やっと、笑子にも幸せにしてくれるパートナーが現れたんだなって。でも、いいじゃん警察官でしょ?公務員だし安定だよね。私の旦那なんか……」

「ちょ、ちょっと待って翠。何の話をしているの?」

「ああ、ごめん。結婚はまだ早いよね」

「や、そうじゃなくて。誰と誰の話をしているの?」

「誰って、笑子と千春っていう警察官じゃん」

「え?」

「え?」


 二人はびっくりした表情でお互い見合わせた。


「付き合ってるんじゃないの?」

「付き合って無いですけど?」


 面白いくらいころころと表情が変わる翠。


「はあーー?なんでよ?さっきの話、3カ月も前の話でしょ?それからも会ってるんでしょ?」

「最近は週に5回は何だかんだ会ってるかな」

「週5!一緒に出掛けたりとかしてるんでしょ!?」

「うん、先週も一緒にゲームのイベントにね。いやー、一緒に行ってくれる人いないから助かってるんだよね」

「デートじゃん!でもって家にも行ったんでしょ?」

「うん、いつでも入ってゲーム持って行っていいって鍵も貸してもらってる」

「合鍵!それで付き合ってないって言うの?」

「付き合ってない」

「なんでじゃーーー!!」


 翠は理解不能とばかりに頭を掻きむしり机をバンバン叩いていた。


「ちょっと翠、そんなにイライラするとお腹の赤ちゃんに良くないよ。他のお客さんもいるし」

「誰のせいよ!」


 あまりに翠が激昂するので他のお客さんも店員さんも二人を見ていた。二人は引きつった笑いを浮かべながら「す、すみませ~ん」と頭を下げた。


「え~、どういうことなのよそれ。笑子はその千春っていう警察官のこと好きじゃないの?そんなに会ってるのに?」

「う~ん、よく分かんないよ。趣味もよく合うし、利害が一致するから一緒にいることが多いけどあんまり意識したことないな」

「好きでもないのに週5で会ったりしないでしょ」

「そういうものかな?」

「あー、そういえば笑子今まで『この人が好き!』って無かったもんね。だからこそついにと思ったんだけど。はあ」


 翠はあからさまに頭を抱えてため息をついた。

 


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あー、さむっ!遅くなっちゃったな……」


 笑子が会社から出ると既に20時を回っていた。さすが今季一番の冷え込みと言われているだけあって肌を刺すような寒さである。

 笑子は千春の住むマンションに向かっていた。明日は久々の休みなので借りていた漫画の続きを借りて、この前イベントで千春がこっそり買っていた同人ゲームも勝手に借りて帰るつもりだった。


「……」


 普段なら何とも思わないのだが、お昼に翠と話したせいで妙に意識してしまう笑子であった。思えばなんでこんなに一緒にいるのだろうと不思議に思っていた。きっかけは確かに三か月前に借りたゲームなのは間違いない。そこから何だかんだゲームやアニメや漫画を貸してもらったり貸したりの関係が続いていた。笑子としては本当に趣味が合う少し年が上の友達、若しくはお兄ちゃんみたいな認識であった。


 ふと、思う。


 千春は私のことどう思っているのだろうか、と。


「あー、もう!翠があんなこと言うから」


 一人でもんもんとしながらいつの間にやら千春のマンションの前に来ていた。

 部屋の明かりは消えている。警察官の千春は夜も勤務のことも多い。その時は勝手に入っていいと言われている。今日は夜勤なのだろう。

 笑子は少しほっとしていた。今日の自分は意識しちゃってるので千春の前で変なことを口走ってしまうかもしれない。

 笑子は合鍵を取り出した。早く目的を達成してオフを満喫するとしよう。千春には後で漫画とゲーム借りたとメッセージを送っておくとしよう。


「えーと、スイッチはと」


 中に入って廊下の電気を付けて、奥の千春のコレクション部屋に向かう。目的のブツはそこにある。部屋の電気を付けて中に入ると笑子は借りてた漫画を棚に返して続きをまとめて10巻ほど鞄に突っ込んだ。


「さてと……うあああああっ!」


 次にゲームを拝借しようと笑子は振り返った瞬間悲鳴を上げる。



 ソファの上に体育座りをした千春がいたのだ。



「うあ、びっくりした。ちょ、ちょっと、いるなら電気くらい付けなさいよ」


 笑子は飛び跳ねる心臓を一生懸命なだめながら、千春に話しかける。千春は「ああ」だの「うん」だか分からないような声を出した。明らかに様子がおかしい。



「……どうしたの?」


 返事は無い。一体どうしたのだろうか。笑子は対面のソファに座った。


「え?ああ、笑子ちゃんか。ごめん気付かなかった」


 本当に気付いていなかったらしい。相当これは重症だと笑子は感じた。


「ちょっと大丈夫?目に光が無いよ。レイプ目になる呪いでも受けたの?」


 そう言うと千春は少しだけ笑った。それを見て少しだけ安心する笑子。


「……ごめん、ちょっと今日は……」

「なにがあったの?」


 笑子はしつこく聞いた。このままだと帰らないと悟ったのか単に諦めたのか、千春はぽつりぽつりと語り始めた。先日保護して親に届けた女の子の話を。上司に報告して次の日に自宅を訪ねる予定だったのに間に合わなかったこと。笑子は途中で相槌を打ちながら話を聞いていた。


「俺、父親にあこがれて警察官になったんだ。どんな時も揺るがない正義ってのを人間にしたらこんな感じって人だった。俺も夢が叶って警察官になって、これから困ってる人を助けられる人になろうって」

「……うん」

「警察官になっただけなのに俺、誰かを守れた気になってたんだ。ばかだよな、実際はこんなか弱い女の子一人助けることも出来ない」


 千春が精神的にかなり参ってしまっているのは笑子にも理解できた。まあ、無理もないことかもしれない。実際に会った女の子が次の日に父親の虐待で亡くなってしまうなんて悲しすぎる。警察官じゃなくても自責の念にかられるだろう。



 笑子は優しく千春の頭を抱いた。



「そんなことないよ」

「……え?」

「私は千春が優しいことも強いことも知ってるよ。初めて私と翠を助けてくれた時、ゲームを買えずに彷徨っていた私にゲームを貸してくれたこと。私はとても嬉しかったもの。千春は弱くなんかない」


 千春は突然の抱擁にびっくりしていたようだが、今は身を任せている。


「その女の子のことは本当に残念で、私も心が痛いよ。でも、その子もきっと千春に会えて良かったと思ってるよ。どうにもならないことは絶対あるから、どうか自分を嫌いにならないで。私は……」


 千春は相変わらず黙って聞いていた。笑子からは表情は見えないのでどんな顔をしているのか気になっていた。


「私は、ずっと傍にいるから。だから、今は泣いていいんだよ」


 少しして、千春の嗚咽が聞こえてきた。「ありがとう、ありがとう」と呟きながら。そんな千春を笑子はとても愛おしく感じていた。


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