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第26話 魔王の城

 魔王の城と言えば、いつも曇っていて暗く、何だったら雷が鳴っているような不気味な城を彷彿とさせるのが通説である。


「……これが魔王の城」


 千冬はげんなりとした様子で目の前の城を見上げていた。


 天気は快晴。ついに魔王の城に辿り着いた千春一行は今まさに魔王城に乗り込もうとしていた。


「どうしたのですか千冬?」

「いや、なんというかやっぱ雰囲気って大事だなって思ってさ」


 この世界ではこれが普通なのかアシュレイにラナ、タピオカは何故千冬がガッカリしているのか分からないようであった。その様子を見ながら千春も千冬と同様に魔王城っぽくないなあと思っていた。


 別に特別強いモンスターがいるわけでもない。周囲に毒の沼や狡猾なトラップ等もない。平野の中に突如現れたお城って感じで、言われなければこれが魔王の城だと気づかないかもしれない。


「……なあ、これ本当に魔王の城なんだよな?」

「何度も地図を確認したじゃない。なんで疑うのよ?」

「みてーここ!」


 タピオカがバカでかい城門の隅に何か書いてあるのを見つけた。そこには「定礎」みたいに石に「魔王の城」と刻字されていた。


「……oh……」


 これでもう間違いない。何だか間抜けに思えてしまうが、ここが魔王の城で間違いないようである。


「ん?」


 刻字された「魔王の城」と下に小さな文字で何か書かれていた。それは「B-403」という風に読むことが出来た。何かの暗号だろうか。魔王の城と言えばダンジョンになっており、謎解きなどがあるのが一般的である。千春は一応使うかもしれないとメモを取っておくことにした。


「しかし、問題はどうやって中に入るかだよな」


 自称魔王の城は誰が入るんだよってくらいバカでかい城門に閉ざされていた。押しても引いても開けられる気がしないのである。


 千春一行がう~んと頭を捻っているとタピオカが千春の服のすそをつまんで引っ張ている。千春がタピオカを見ると「あれ」といって魔王の城と刻字された石が反対側の扉の端を指差していた。


 なんとそこには若い娘が水桶を持って歩いていた。

 あまりに場違いな光景にフリーズする千春。


「ん?……げ、なんでこんなところに人がいるんだよ」


 続いて千冬が気付くとアシュリーとラナもそれに気付く。二人とも同じような反応であった。


 向こうも千春達に気付いたようだ。大きく手を振りながらこちらに近づいてくる。


「……んー?」


 千春は目を細めてその若い娘を凝視した。どこかで見たことがあるような……


「あら、やっぱり勇者様でしたか」


 それは絶世の美女であった。


「な、ジュリア姫!?なんでこんなところに……」


 というかジュリア姫であった。ヴィクトリア王の一人娘で、アシュリーと秘密の逢瀬を重ねていた彼女が何故こんなところにいるのか。


「私、今回のことで心の底から反省しましたの」


 持っていた水桶を置いて両手を胸に当てて瞳を閉じるジュリア姫。


「私が存じ上げなかったとはいえ、父上があのような裏切りを行っているなど。同じく王家に名を連ねる物として恥ずべき行為です。私は少しでもその罪滅ぼしをするために魔王の城を訪れ、生贄になったものたちの遺留品だけでも持ち帰ろうとこうして魔王の城に来たのですわ」


 どうやら、ヴィクトリア王のケツを拭くためにわざわざ魔王の城まで来たようだった。今のジュリア姫の話だけ聞けば頭のおかしいヴィクトリア王と違ってジュリア姫は常識を弁えている様である。


「姫様~~!!お待ちください」


 ジュリア姫の後方から大きな水樽を抱えて一人の兵士が走ってきた。


「……ジュリア姫一人でこんなところまで来れるはずないと思っていたが、なるほど。あなたなら納得だダレス隊長」


 それは先日の計画で最大の功績をあげてくれたダレスであった。


「おおこれは、勇者殿!ついにここまで来られましたか」


 シュラ国でアシュリーを除けば間違いなく随一の剣士であるダレス。姫の護衛としてこれほど適役もいないだろう。


 ジュリア姫とダレスが先に魔王の城に着いていたのは恐らく、出発したのは千春達の方が先だったが、千冬との合流を待っている間にジュリア姫たちが追い抜いた形になったからであろう。


「ジュリア姫、あなたがここにいる理由は分かったのですが。その水桶は何なんですか?」


 見たところこの水桶を持って魔王の城に入ろうとしている様であったが。


「ああ、これですね。話せば長くなるのですが……」

「短めに教えて頂けますか?」

「短めに言えば、生贄として捧げられた方々は皆生きていて、魔王の城の中で楽しく暮らしていたので、仕方なく水くみの手伝いをしていたのです」


 衝撃的な事実がポロリと転がって出てきた。


「え?まじですか?生贄にされたはずの女性は皆生きていて、魔王の城の中で楽しく暮らしていると?」

「だからそう言っているではないですか」

「いやいやいや、え?魔物とかいないんですか?魔王の城ですよね?」


 千春は信じられないとばかりにジュリア姫を質問攻めにする。


「魔物はいますが襲ってきません。魔王にも会いましたが、彼は別に生贄なんて求めていなかったらしいですね。勘違いした魔物の部下が勝手に連れてきたとか」

「……oh……」


 まさに驚天動地の事実である。流石に千春一行も驚きを隠せない。


「どういうことだよにいちゃん。魔王ってのは世界を征服しようとしてる悪い奴じゃねーのか?」


 千冬が千春に耳打ちするが千春も意味が分からないので答えようが無い。


「……勇者殿、信じられないかもしれませんがジュリア姫の言うことは全て事実です。恐らく、直接中に入って魔王に直接会うのが手っ取り早いかと」


 ダレスがそう進言する。確かにここで話しているよりも実際行ってみたほうが早そうだと千春は思った。


「それはそれとして、勇者様」


 急にジュリア姫がもじもじしだした。思春期の乙女らしい行動である。


「あの方はどこにおられるのでしょうか?」

「あの方とは?」

「もう♡意地悪ですね。あの方と言えばあの方、アシュレイ様に決まっているではないですか。一緒にいらっしゃるのでしょう?」


 まさに恋する乙女はたくましいとはこのことか。千春はずーっと自分の背中に隠れているアシュリーを見た。この様子ではジュリア姫はアシュレイが実は女だったことを知らないようである。


「アシュレイ様~。あなたのジュリアが参りましたわ。どこにおられるの~?」


 千春のパーティを見渡すジュリア姫。ついに観念したのかアシュリーがため息とともにジュリア姫の前に立つ。


「ジュリア姫」

「あら、あなたは?」

「ジュリア姫、落ち着いて聞いてください。私がアシュレイです」


 時が止まったのをその場にいた全員が感じた。


「……は?冗談は止してください。アシュレイはそんなボインボインな胸などありませんわ」

「長らく黙っておりましたこと御許し下さい姫。実は私、幻惑のスキルで男装していたれっきとした女なのです。今はアシュリーと名乗っております」

「え?……え?」


 ジュリア姫は明らかに動揺していた。無理もない話である。


「王国一の騎士が実は女だと知られるわけにもいかず、私は男でいることを選択しました。結果的にジュリア姫を騙すことになってしまったことは大変心苦しく思っております。言い訳は致しません。どのような処罰でも受ける所存です」


 アシュリーは膝を付き首を垂れた。


「……え?……本当ですの?」

「はい、……残念ながら」


 ジュリア姫に聞かれてダレスは力なく答える。ダレスも最初アシュリーがあのアシュレイだと知ったときは大変驚いていたが、剣で手合わせをしてアシュレイ本人だと確信していた。


ふらっとよろめいて倒れるジュリア姫。


「ジュリア姫!!」


慌てて抱きとめるダレス。可哀そうにジュリア姫はあまりのショックに白目向いて気絶していた。ガラスの仮面に出てくる主人公のような顔をしていた。

アシュリーは何とも言えない憂鬱な表情をしていた。


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