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第2話 半透明

「出来るわけねーだろうがよ」


 誰に言うわけもなく千春は呟くと天蓋付きのベッドに身を投げ出した。ここは勇者が旅に出るまでの間宛がわれた城内の一室である。王様への謁見も終わり、今は一人の勇者主人公である。

 ふかふかベッドはとても気持ち良かったが、これからのことを考えると不安しか無かった。今のところ仲間はイケメン騎士が一人、自分の特殊能力は不明、しかも魔王討伐か死である。


「……これですごい能力が無かったら完全に詰むな」


 今のところ魔王がどれ程の強さかは不明だが、今まで幾人の勇者が命を散らしたというのであれば強敵には違いないだろう。せめてそれに対抗できる能力が欲しいと主人公は切に願った。


「ああ、消えてしまいたい」


 このまま恥をさらして魔王に殺されるくらいなら誰か痛くないように自分を消してくれないだろうかと思う主人公だった。

 その時部屋のノックが聞こえた。


「勇者様。アシュレイです。開けても宜しいですか?」


 何か伝え忘れたことでもあったのだろうか。千春はベッドの上に座り直した。


「いいよ、入って」

「失礼します、勇者様明日仲間を募りにギルドに行ってみませんか……、ってあれ?勇者様どこにいらっしゃるのですか?」


 アシュレイはきょろきょろと辺りを見渡す。何をしているのだろうか自分は扉開けて直ぐのベッドの上にいるというのにと千春は呆れた。


「どこを見ているんだ。ここにいるだろう」

「え、どこですか勇者様」

「ここだよここ、ベッドの上だ」


 そこでやっとアシュレイと目が合う千春。しかし、アシュレイの瞳は驚愕に見開かれた。


「ゆ、勇者様、お体が」

「?」


 ふと目線を落とす。ここでやっと千春はアシュレイの驚きを理解した。

 体が透けていたのである。完璧に見えない訳ではない。言うなれば半透明である。


「な、なんだこれ」


 そこで千春は思い立った。先ほど自分が消えたいと願ったことを。もしや、その願いがこういった形で具現化したのだろうか。

 試しに元に戻れと念じてみた。


「あ」


 アシュレイが再び驚きの表情に変わる。するとみるみる千春の体が色を帯びていき元に戻ったのだ。


「すごいです勇者様。それが勇者様の能力でしょうか?」

「よく分からないが、そうかもしれない」

「半透明になる以外にも何か出来るのですか?」


 言われて主人公も思った。他のことも念じてみれば具現化出来るかもしれない。


「なるほど、ちょっと試してみるか」


 腕よ太くなれ、剣を生成せよ、庭園にワープ、巨大な火の玉、バリアー。主人公は思いつく限り念じてみた。


「……何も起きませんね」


 もう一度消えたいと千春は念じてみた。


「あ、また半透明になりましたね」

「え、ちょっと待って」


 千春は消えろと強く強く念じてみた。しかし、半透明にまではなるものの完全に消えることは無かった。


「え、何この中途半端な能力。こんなので魔王と戦えって言うのか?」

「お、落ち着いて下さい主人公様。この能力にも何かすごい秘密があるかもしれないじゃないですか」

「すごい秘密?例えばどんなのだよ」

「え……そ、そうですね。例えば半透明の間敵からの攻撃を受けないとか」

「お、なるほど」


 もしそうであれば戦いには使えるかもしれない。


「よし、アシュレイ。俺を一発殴ってみてくれ」

「え、嫌ですよ。というかさっき主人公様ベッドに座っていたのですから物質を通り抜けるわけではないですよね」


 そう言われてみれば確かにそうである。


「おいおい、冗談じゃねーぞ。何が唯一無二の強力な力だよ。こんなのでどうやって敵と戦えばいいんだよ」


 アシュレイに落ち着けと言われたが到底落ち着いていられる状況ではない。主人公は思わず頭を抱え込む。


「まあまあ、勇者様。レベルが上がれば強力な技を身に着けるかもしれませんし、まずは明日冒険者ギルドに行ってみませんか。依頼や仲間募集だけではなく武器や防具を扱っているのですよ」

「そういえば、入ってきたときギルドがどうとか言っていたな」


 千春はもともとゲームとかが大好きである。冒険者ギルドという単語はかなり千春の心を刺激した。


「そうだな、なんとかクエストの主人公も最初は木の棒とかからスタートしているわけだしな。そう考えれば王様の金で最初から装備を買える分お得か」

「そうですよ!なんとかクエストとやらは分かりませんがまずは仲間や装備を集めましょう」


 アシュレイはかなりやる気のようで頼もしい限りである。


「決まりですね。では、明日朝迎えに来ますので準備しておいてくださいね」


 アシュレイは笑顔で去っていった。なんだか問題が先送りにされた気がした千春であったが、その後運ばれてきた美味しい夕食と広いお風呂に満足したからかあまり気にせず眠りにつくのであった。


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