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第17話 攻略サイト

 千冬がゲームのメーカーに問い合わせる為ログアウトした為、千春はヤーランドの宿屋の一室で一人になった。千冬が戻ってくるまでどうしたものかと千春は考えていた。実際千冬から聞いたことは千春にとってはショックが大きかった。多少家族の記憶は蘇ってきたが、まだ思い出せないことも多かった。しかし、今は思い出せないことを一生懸命思い出すことよりも他にやることもありそうであった。


「本当にここがゲームの世界なんてな」


 千春は千冬に言われるまで、いや、今でもここがゲームの世界とは半信半疑であった。このベッドも机もランタンも本物にしか見えなかった。これも記憶を一部失っている弊害なのか千春には分からなかった。

 まず考えたのは死んだ時、必ず最初の魔法陣に戻っていたことだ。今思えばあれは死んで生き返っていた訳ではなく、単純にゲームオーバーになりスタート地点に戻っていたということなのだと千春は理解した。何故ならゲームなのだから。


「……そうなると気になるのはこのセーブ&ロードのアイコンだよな」


 誰に言うでもなく千春は呟く。セーブとロードがあるということは一般的なコンシューマー型のRPGの可能性が高いということだ。多人数参加型のMMORPGであればセーブやロードなんて項目はないことが多いのである。つまり、どこかにセーブポイントがあるということである。ちなみに今セーブとロードのアイコンのうちセーブのアイコンだけ灰色になっており押しても反応しなかった。つまりセーブポイントに行かないとセーブ出来ないということだ。普通は宿屋でセーブできるゲームがほとんどだというのにこのゲームは出来ないようであった。


「ったく、どこまでクソゲーなんだよ」


 ちなみにロードは何処でも出来るようだ。試しに押してみたら「ロードしますか?」というメッセージが流れて千春は慌ててウインドウを閉じた。セーブをしていないのだからここでもしロードすればまたあの魔法陣に戻る可能性が高い。


 そこにノックの音が響く。


「あの、千春。私です、アシュリーです。入っても良いでしょうか?」


 アシュリーだった。千春は二つ返事でアシュリーを招き入れる。


「どうしたんだ?」

「体の具合はいかがかと思いまして」


 どうやら千春の体調を心配してくれていたらしかった。千春は改めてアシュリーの体をまじまじと見た。千冬の言が正しければここはゲームの世界。このアシュリーもゲームのキャラクターということになる。


「何ですか人の体をまじまじと」


 千春があまりにガン見していたのがばれたようだ。不思議そうに千春を見る。


「……なあ、アシュリー。お前NPC、ノンプレイヤーキャラクターって知ってるか?」

「えぬぴーしー?聞いたことありませんね。呪文か何かですか?」


 どうやらアシュリーはプレイヤーキャラクター、すなわち誰かがそのキャラクターとして操作しているわけではないようだった。つまり、NPC。このゲームを作ったスタッフが設定したキャラクターということになる。通常、ゲームのキャラクターはプログラムされている以外の言動は出来ない。ゲーム内で話しかけてもいくつかの決められたセリフを繰り返すだけだったりする。それがこのゲームはどうだ?まるで生きている人間を相手にしているように言動を返してくる。千春が異世界に来たと思い込んでいた理由の一つがこれだ。


「あ、あのやはり体調が優れないのでしょうか?」


 千春が腕を組んでうんうん唸っているものだから、アシュリーは体調が良くないと思っているようである。実際は考え事をしているだけなのだが。


「いや、別に。大丈夫だよ」

「そ、そうですか。それならば良いのですが……」


 何だか歯切れの悪いアシュリーである。


「……どうした?アシュリーらしくないな。言いたいことがあるんじゃないのか?」

「それは、その……はい。ラナのことなのですが」


 そのラナという一言で千春は思い出した。妹の千冬の登場やゲームの世界等、驚くべき事実が次々と出てきたせいで一瞬思考の隅に追いやられてはいたものの、ラナの裏切りはまあまあ、というかかなり衝撃的な出来事であった。


「何というか、その、気を落とさないでくださいね。ラナのことは残念でしたが、私は千春のこと裏切ったりしませんから」


 なんとアシュリーは千春がラナに裏切られて落ち込んでいると思って気を使ってくれていたのである。千春はその気遣いに感動し、アシュリーがゲームのキャラクターであることを忘れてがっしりと手を握る。


「ありがとうアシュリー。俺は大丈夫だ。そうだ、約束するってことなら指切りでもするか?」

「指切り?何ですかそれは?」

「俺の国でやってたおまじないみたいなものだよ。こうやってお互いの小指を絡めて……」


 千春はアシュリーに指切りを教えた。


 指切りげんまん嘘ついたらはりせんぼんのーます。指切った。


「なるほど、つまりは脅しですね。嘘をついたら針を千本飲ませるぞという」

「本当は指を全部切り落として拳骨一万回の上針千本飲ませるって拷問だけどな。嘘ついたらそれぐらい重い罰を受けるってことだ。どうだ?怖いだろ?」


 アシュリーはふるふると首を横に振った。


「いいえ、怖くありません。私は二度と千春を裏切りませんから」


 そう言ってアシュリーはほほ笑んだ。千春はその笑顔に思わずドキッとしてしまった。


「はいはーい。イチャイチャしてるとこ悪いけどさ、そろそろこっちの話も聞いてくれるか?」


 開けたままの扉をノックする千冬がそこに立っていた。

 思わず赤面する二人。


「おっと、いつから見てたなんて月並みなセリフはやめてくれよな兄ちゃん。そりゃ、いつからかって聞かれれば『指切りでもするか?』のところからだけどな」


 そう言って千冬はにかっと笑った。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「別にアシュリーさんがいても良かったんじゃねーか兄ちゃん?」


 アシュリーには妹と二人で話がしたいと言って退出してもらっていた。何となく、本当に何となくだが、千春はアシュリーに現実の話を聞いてもらいたくなかったのだ。


「別にいいだろ?それで何か分かったのか?」


 運営に問い合わせた結果どうなったのか。その先を急かす。


「まあ、結論から言うと頭おかしんじゃねーかって言われたな」

「……は?」

「もちろん、直接そう言われたわけじゃねーけどよ。私の兄があなたの作ったゲームに閉じ込められてます。兄は一か月前から病院に入院していて、意識不明ですが私がゲームの世界に入ったらゲームの中にいたんです。何とかしてください。そうサポートセンターの姉ちゃんに言ったわけさ」


 改めて聞くと確かに全く意味が分からない。サポートセンターのお姉さんもやべーやつが来たと大層困っただろう。しかし、困ったことにすべて真実である。


「お前それじゃあただのやべーやつじゃねーか。それで?」

「連続でゲームをプレイしていませんか?一時間に15分の休憩をとりながらプレイしてくださいってさ」

「おーまいが」


 要するに全く相手にされなかったということだ。


「兄ちゃんが使ってたヘッドギアは異常がないか調査されてるのさ。まあ、結論ヘッドギアは正常で意識不明になったのは別の原因つーことになったから家に郵送されてきて今私が使っているわけなんだけどさ」

「……つまり、一度調査されて異常なしと判断された以上この事態を説明することが出来ないってことか」


 人が一人意識不明になっているのだ。ゲーム機を調べるのは当たり前だろう。しかし、これは非常に困ったことになったと千春は頭を抱えた。


「これで本当に打つ手なしってことかよ」

「それがそうでもないぜ兄ちゃん」


 何やらここに至ってもまだ千冬には考えがあるようだった。上の妹とは違っておバカだが前向きで明るい所は昔から変わっていないなと千春は少し安心もしていた。


「ほら、ゲームってクリアするとエンドロールが流れてタイトル画面に戻るだろ?つまりゲームをクリアしちゃえば現実の世界に戻れるんじゃねーか?」


 千冬の考えは確かに妙案に思えた。だが、しかし。


「確かにそうかもしれんが確証はないだろ。それに何時間かかるんだよ……」


 プレイする人にもよるが大体RPGのジャンルでクリア時間は20時間から40時間程度だろう。ボリュームが多いゲームだと100時間を超えるものもある。


「確かに確証はねーけどさ、他に手があるのかよ?それにこの手のゲーム兄ちゃん好きだったじゃねーか」


 千春は思う。確かに千春はゲーム好きで中でもRPGという分野においてはかなりの数のタイトルをクリアしてきた。それぐらい知識もあるし。しかし、それはあくまでゲームの話であって自分の意識が戻るかどうか、今の千春にとっては現実世界への帰還が掛かったゲームであれば話は変わってくる。まさに命懸けというわけだ。


 しかし、千冬が言うように今はそれ以外に方法がない。


「……仕方がない。今はその可能性に賭けるしかなさそうだな。とりあえず千冬、お前一回現実に戻ってこのゲームの攻略サイトをメモって来てくれよ」


 そうとなれば形振り構っていられない。千春は初見のゲームであれば純粋にストーリー楽しむ為に一周目は絶対に攻略サイト系は見ないと決めている。しかし、命懸けであれば話は別である。攻略サイトにはネタバレがあるが、序盤での効率的なレベル上げやお金稼ぎなど有益な情報が載っていることが多い。どんなずるい手でも使おうというものだ。


「あー、残念だけどな兄ちゃん。そりゃ無理だ」

「な、なんでだ。お前まさか攻略サイトを見るのは反対だって言うのか?」

「ちげーよ、単純に攻略サイトが存在しないんだ」

「……存在しない?馬鹿な、このご時世発売されたゲームならどんなクソゲーでも攻略サイトぐらいあるだろ?」


 千春は信じられないと首を振る。


「前にも言ったろ。これはインフィニットオーサー、正確にはインフィニットオーサーSEってんだが、プレイヤーがゲームを作るゲームだって」


「……どういうことだ?」


「察しが悪いな兄ちゃん。つまりこのゲームは素人がゲーム感覚でゲームを作って、それをネット上にアップしてまた違うプレイヤーが遊ぶのを目的に作られた遠い昔のゲームで例えるならRPGツ〇ールみたいなゲームってことだ。つまり今兄ちゃんと私がいるこのゲームはどこかの誰かがインフィニットオーサーで作ったゲームをプレイしてるってことなんだぜ」


「……つまり素人が作ったゲームだから攻略サイトもない、と?」


 千春には目の前に絶望という二文字が大きく書かれた厚く高い壁が降ってきたように感じた。


「まあ、そうだな。ていうかこのゲームは元々兄ちゃんの部屋にあったものなんだから、兄ちゃんの方が詳しいはずだろ?なんでつい最近ゲームを始めた私の方が詳しいんだよ?」


「このゲームが俺の部屋にあった?」


 千春はその言葉が信じられなかった。買った覚えもない。いくら思い出そうとしても思い出せなった。


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