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第13話 次の目的地

 暗い森の中に一点だけ明かりが見える。


「で、これからどうするかだが」


 千春は焚火の前の二人、ラナとアシュレイに話しかけた。ひと悶着終えて、とにかく王都からは離れた方が良いという判断で千春たちは6時間ぐらい歩いた先の森で野営をすることに決めたのだった。


「その前にさー、私こいつを信用するのは危険だと思うのよねー」


 ラナが千春の言を遮ってアシュレイを睨む。まあ、無理もないことかもしれないと千春は思った。王の命令とはいえ勇者の命を狙ったのだ。


「こいつ、私が王を無能だと罵ったら本気で食いついてきたの。一度王に忠誠を誓った騎士が簡単に寝返ると思えないのよね」

「ああ、それは……」

「それは、アシュレイが挑発に乗ったふりをしてラナの実力を測っていたんだよ。もともと俺を殺す気だったからな。異分子が増えても任務を遂行するための演技だ。今は完全に俺に手が出せないからその間は少なくとも協力してくれるだろ」


 アシュレイの言葉を遮って話す千春。そこまで話して千春は訝しげな二人の顔を見た。


「……何でそんなことまで分かるのよ?」


 千春しまったと後悔した。アシュレイが挑発に乗ったふりをしていたのは前回殺される前にアシュレイが自ら明かしたこと。今回はそのことを話していないのだから知らなくて当たり前なのだ。


「あー、いや、その。なんだ、見てたら分かったんだよ。ちょっと演技臭かっただろ?」

「……私は気づかなかったのに。本当に?」


 ラナがますます疑いの目を向けてくる。


「私も勇者様に見抜かれるとはまだまだですね。それよりこれからのことです。朝には出発出来るように今のうちに行動を決めておきましょう」


 そう言ってアシュレイは地図を取り出した。ラナはアシュレイが仕切るのが面白くないのか睨んでいたがアシュレイが相手にしないのでおとなしく黙る。


「今私たちがいるのが城から南に来たこの辺りです。もう少し南に下れば村がありますのでここでしばらくの物資を買い込みましょう。王の追跡軍が出れば町や村に入ることは出来なくなります」

「王の追跡軍が出るのはどれくらいか予想できるか?」

「恐らく私が戻らなければ朝から隊が編成され遅くとも昼過ぎには出発するでしょう」


 本当に時間がないようだ。明日の村での買い込みが上手くいかなければ大分厳しくなる。


「私は別に町に入っても大丈夫だと思うけど」

「ダメです。私たちは門番に勇者様といるところを見られている」


 ラナは「あ」と声をあげた。今気づいたのだろう。これでめでたく勇者メンバーは仲良く指名手配ということになる。やれやれである。


「物資を調達した後はどうするかだな。直接魔王城を目指すか?」

「いえ、それはあまりに早計かと。出来ればあと2人はメンバーに迎えたいですね」

「でも、町に入れないんじゃ探しようがないな。一体どうすれば」


 頭を抱える千春。アシュレイも心当たりはないようである。


「ヤーランドに行くってのはどう?」

「ヤーランド?」


 ラナはやれやれと肩をすくめた。アシュレイは一考してはっと顔をあげた。


「成る程、竜騎士の里ですか」

「そ、城から西に行ったところに古くから龍と暮らしを営むという部族がいるわ。仲間になってくれるとは限らないけど、そこは王国とは不干渉を貫いているから今の私たちには都合がいい」


 ラナはどうだと言わんばかりのドヤ顔でアシュレイを見るがアシュレイは気にも留めずに話を続ける。ラナはそんな態度のアシュレイに今にも食って掛かりそうな顔をしていた。


「私もこの盗賊の意見に賛成です。勇者様はどう思われますか?」

「俺もそれで構わない。じゃあ、明日村で買い出しが終わったらそのままヤーランドを目指そう」


 ひとまず今後の予定が決まった。千春は少し安心した。


「そういえばさ、アシュレイ」

「……?」

「そろそろ勇者様じゃなくて名前で呼んでくれないか?」


 いつまでも勇者様呼ばわりは他人行儀過ぎる。アシュレイは少し困った顔をした。


「そうですか。では、チハル様とお呼びします」

「いや、ラナみたいにチハルでいいよ。今後王国軍に狙われるんだから様なんてつけてたら勇者ってバレるかもしれないだろ」


 アシュレイは何故かとても言いにくそうにしている。呼び捨てにするのに抵抗があるようだった。


「で、では、チ、チハル」


 アシュレイは何故か頬を赤らめ上目遣いで千春の名前を呼ぶ。その仕草に不覚にも千春どきっとしてしまった。


「お、おう。これからもそれで宜しくな」


 そんな一連のやり取りをラナは面白くなさそうに眺めているのだった。


「それでは私の事はアシュリーとお呼びください」

「アシュリー?」

「はい、私の本当の名前はアシュリーと言います。アシュリー・スノースマイルです。これからは王国軍に追われる身。この名は死んだ家族しか知りません。その方が都合も良いでしょう」

「成る程、分かった。アシュリーだな」


 それから程なくして三人は草の絨毯の上に横になった。木々の間から見える夜空は地球で見た夜空と同じく美しかった。


「ラナ」

「なによ」


 もう寝たかと思って千春が話しかけるとすぐに返事があった。


「あーいや、すまないと思ってな」

「なんで謝るのよ?」

「アシュリーとは馬が合わないみたいだし、無理矢理誘ったのはこっちだからさ。嫌な思いをしているんじゃないかって」


 しばしの沈黙が流れた。焚火のぱちぱちという心地よい音が耳に残る。


「……確かにあの騎士は気に食わないけど、気持ちは分からないでもないのよ」

「どういうこと?」

「どういう経緯であれ王を裏切ったってことじゃない?それって騎士にとっては耐えがたい汚名だと思うのよ。でも、反逆してでもチハルと行くってことはそれだけ今の王に不信感があるのよ。現に私も今の王の良くない噂は良く聞くもの」

「良くない噂?」

「魔物に城の近くの村が襲われたときに門の強化を理由に兵を出さなかったり、他国との取引を上手くする為に今領民が住んでる土地を勝手に売り払ったりとかね。だから私はポンコツ王って呼んでる。魔王がどうこう言う前に、この国の行く末がすでに危ないのよ」


 千春にとっては衝撃の話だった。しかし、本当に10歳そこそことは思えない賢さである。


「あの騎士様と仲良くなんてする気はないけど、チハルが約束さえ守ってくれれば私は何だって構わないわ」

「約束?」

「忘れたの?私が遊び人に転職するの手伝ってくれるんでしょ?」

「あほか。遊び人に転職なんてさせるかよ。でも、お前の居場所は俺が一緒に必ず探してやるよ」

「そ、なら今はそれでいいわ」


 それを最後に千春たちは眠りに落ちていった。


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