9話:さよならアストラエちゃん
夜が明けた。
結局山賊達の後にやってきたのはゴブリン数体だけだった。
俺はアンデッドインプ達と、砂穴と石柱のコンボを駆使して難なくそいつらを撃退。
「ガルさん凄いですね」
「しかし、一体どういう力があれば自在に壁や石柱を生成できるのだ?」
「んー、そういうスキル? だな」
「古から伝わる伝説で、とある賢者が一晩で荒野に街を作り上げたという話がありますが……ガルさんを見ていると、本当の話だったのかもしれませんね」
まあ、今はこの小さな家作るので精一杯だけどな。でも確かに魔力さえあれば、街ぐらいは作れそうだ。
なんてアストラエ達と話していると。
「ふあー。昨日は騒がしかったわね……」
あくびしながらフランが外へと出てきた。
「あー、フラン」
「っ!! 誰!?」
フランがまるでネコみたいに周囲を威嚇しはじめると、アストラエが引き攣った笑顔を浮かべた。
「……嘘。本当に……魔王だ」
「――なんで聖女がこんなとこに!?」
フランとアストラエの視線がぶつかり、沈黙のまま、睨み合う。
そして両者は同時に俺へと振り返ると、声を揃えてこう言った。
「どういうことなの馬鹿ガル!」
「どういうことですかガルさん!」
いやあ、そう言われてもなあ。
「わっはっは! アストラエ様、何を仰っているのですか。こんなちびっこいのが魔王なはずあるまい」
オッサンがそう笑うが、アストラエの顔は本気だ。ゆっくりと手に持つ杖をフランへと向けつつあるのが分かる。
「いえ、サンツォ。本当の本当に、このちびっ子は……かつて悪逆の限りを尽くした大魔王――フランシスカです」
「誰がちびっ子よ!!」
腰に手を当てて怒りを表すフランだが、やっぱり全然大魔王感はない。アストラエちゃん、それほんとに~?
「ですが、全く力を感じないですぞ」
「はい……。勇者に討伐されたと聞いていたのですが……」
「失礼ね!! 何とか生き延びたのよ! おかげでもう力はほとんど残ってないけど」
「アストラエ様……今が好機では? 魔王の首を上げれば、我々の追放処分は取り消しになるだけではなくアストラエ様が第一聖女になるのも夢ではありませ――」
サンツォがそう言った瞬間に、俺はアンデッドインプ達に包囲をするように指示し、そして静かに殺気を放った。
「魔王の首を――なんだって?」
石剣を握る力を強める。申し訳ないが、フランに敵対する気なら容赦なく斬る。
「……サンツォ、謝罪を。仮にも我々を保護してくれたガルさんに対し、あまりにも失礼な物言いです」
俺に物怖じせずアストラエがそうサンツォに注意した。
「で、ですが!」
サンツォが悔しそうな目でフランを見つめている。
「――ガル、なんでこいつらを助けたのよ」
「いや……まあ成り行きというか……」
「良い? 人間なんて一から十までがロクデナシのクソ野郎よ。信頼なんて絶対しちゃダメ。それをしたかつてのあたしは……馬鹿だった」
フランが冷めた目でアストラエ達を見つめた。過去に、何があったのだろうか。
「――すまなかった」
サンツォがそう言って頭を下げた。
「ガルの顔を立てて、殺すのは勘弁してあげるから、さっさと去りなさい。そしてここで起こった事は誰にも言わないこと。まあ言ったところで誰も信じないでしょうけど」
フランはそれだけを言うと家の中に入って、扉を閉めた。
「というわけで短い間だったが、主人の命令なら仕方ない。帰ってくれ」
俺はそう言うしかない。助けるんじゃなかった、とまでは思わないが……。
「……行きましょうサンツォ」
「ですが、アストラエ様! ここを離れたら……」
いやいや、お前のせいだろうが。
「じゃあな、アストラエ。達者でな」
「ええ、ガルさん。ここの事は誰にも話さないことを神に誓います」
「悪いな、俺は神を信じていないんだ。だけど、アストラエちゃんは信じるよ」
「――ありがとう。貴方は……優しいんですね」
「可愛い子限定だけどな」
「……まあ!」
アストラエが顔を真っ赤にしてそのまま、そそくさと去っていった。
いや、ちょっとしたガーゴイルジョークだったんだが?
「ま、待って下されアストラエ様!」
斜面を登りやすいように上まで階段状にしてあげたのは俺のせめてもの優しさだ。
というか分かったけど、このすり鉢状になっている範囲が、俺の【地形操作】の届く範囲だな。大体この家を中心とした半径25mぐらいか? 広いような狭いような。
階段を上っていく二人の背中を見て、俺は少しだけ寂しさみたいなものを感じていた。フランといて退屈はしないし、決して嫌ではないのだけど……。前世がどうだったかは分からないが、俺の今の性格からいうと、多分みんなでわいわい喋る方が好きなのかもしれない。まあ、そうなるとなぜ引きこもっていたのか謎だけど……。
だけどこの別れは仕方ない。あいつらは魔王の敵なんだ。
そうやって俺が何となく感傷に浸っている間に――アストラエ達は去っていったのであった。
ガルさんの元々の性格は明るく社交的です。前世では何やら色々あって、引きこもっていたようですね。




