7話:美少女とオッサン
「ガーゴイルだと!? しかも喋ったぞ!?」
「小屋にしては立派な石像だと思っていましたが……サンツォ、逃げてください――これには勝てません」
「アストラエ様を置いて逃げるなど! ですが、アストラエ様……ガーゴイルはさして強いモンスターではないはず」
「オッサン、俺の前でそんな事言うなよ」
さして強くないとか言われちゃったよ。ショックだぜ
「お、オッサンだと!? 私はリールディア王国の――」
「サンツォ、私に任せてください」
少女がオッサンの言葉を遮った。
そうして深く被ったフードを外したその少女は――とても美しかった。
褐色の肌に、月光を反射しきらめく金髪は肩辺りで揃えられている。幼さが少し残った整った顔に澄んだ青色の瞳。その金髪と青い瞳は、褐色の肌によく映えている。
「突然の訪問をお許しください。私はリールディア王国の第七聖女のアストラエ。そして隣の彼は私の護衛である聖騎士のサンツォです」
そう言って少女――アストラエが貴族っぽいお辞儀をした。オッサン……サンツォだっか? が渋々と言った感じで頭を下げた。しかしオッサンは聖騎士とかいう格好いい肩書きの割に、体型もだらしないし、あんまり強そうに見えない。そもそも小盾ぐらいしか装備してない。
「俺は、ガーゴイルのガルだ。この小屋を護っている。主人は就寝中だ」
「先ほどは助けていただきありがとうございます。あの、アンデッドは……貴方の配下ですよね?」
おや、そこまで分かるのか。中々に鋭いねアストラエちゃん。
「そうだよ。二体はあんたにやられたけどね」
骨と魔力がパーだよ!
「申し訳ございません。追われていたので、焦っておりました」
「だろうね。まあ良いんだけどさ。で、その聖女と聖騎士がこんな荒野に何の用で?」
ここ数日周囲を観察していたが、この辺りは人はおろか、ゴブリン以外の生物を見掛ける事はほとんどなかった。たまに空の高いところに鳥が飛んでいたぐらいか。
「……我々は祖国から追放されたのです」
「アストラエ様! そこまで話す必要は!」
「サンツォ、私に任せてと言ったでしょ?」
「はい……」
オッサン、しょんぼり。可哀想に。
「我々は、勇者達や冒険者達の横暴に抗議しただけなのです。なのに……彼らは……」
「よりにもよって我々を魔王の手先だと疑い始めたのだ!! そしてこの、モンスターとならず者しかいない【帰らずの荒野】へと追放した!」
「私に任せてって……言ったのに……」
アストラエちゃんがちょっと拗ねているのか、頬がちょっと膨れている。
うむ。俺はもうすでにアストラエちゃんのファンだよ。可愛いは正義だな。
「帰らずの荒野……ね。知らなかった。この近くに街とか村はあるのか?」
せっかくなので情報収集しよう。ただで助けただけだと割に合わない……せっかく初めて召喚できたモンスターなのに……こんな女の子に一撃で……ぐすん。
「ここは王国の中でも辺境の中の辺境。一番近くの村でも、ここから徒歩で一週間は掛かります。そして満足な食べものも水もこの荒野では手に入りません」
「なんでそんなとこにならず者がいるんだよ」
「おそらくどこかに彼らのアジトがあるのでしょう。この土地に近付くものはいませんから、アジトを作るには丁度良いのです。聞けば、その村も彼らによる略奪に悩まされているとか。もし私達が彼らに捕まれば……きっと死よりも酷い目にあうでしょうね」
だろうなあ。あいつらクズっぽかったし。
「とにかく助けていただきありがとうございました。それと、更なる申し出がありまして……」
「匿ってくれ、だろ」
「はい。先ほどの山賊らしき三人はおそらく斥候隊。帰ってこないとなると、彼らの仲間がこの近辺にやってくるのは必然。そうなった場合、隠れる場所がここより他、ないのです。この荒れ地は周囲を険しい山脈に囲まれています。逃げ場はありません」
さて、しかしそうなると話が変わってくる。なんせ話を聞く限り、やはり魔王は悪者扱いだし、そもそもその手先と疑われたせいで、彼女達は追放された。
さらに、決定権を持つフランが絶賛就寝中だ。昨日もそうだったが、外でどったんばったん大騒ぎしていても、全然起きてこない。
よっぽど眠りに貪欲なんだな……。
「悪いが、主人が寝ていてね。あんたらを中に入れる事は出来ない。だから、あんたらをどうするかは主人が起きてから決めてもらう。だが仮にあの山賊共の仲間が来たら俺はこの家を護る為に、そいつらは当然追い払う。あんたらについては、とりあえず保留ということで攻撃しないでおこう。ただし少しでもこの家や俺や俺の配下に危害を加えようとしたら、容赦なく攻撃する」
「ええい、聖女様をこんな外で待たせるなぞ、どういう了見だ」
サンツォが顔をしかめる。
「こら、サンツォ。とにかくここに居れば安全なのです。あとは彼の主人と交渉しましょう」
アストラエがサンツォを窘める。まあ、こんな石像に偉そうに言われたらそうなるわな。
「俺が山賊共を撃退できるかどうかは分からんし、あんたらの安全なんて保障しないぞ?」
「大丈夫です。貴方がいる限り、山賊如きには絶対に負けません。私には分かるのです」
確信めいた表情でそう頷くアストラエ。何を根拠にそう言っているのだろうか。
「さよですか。まあ邪魔さえしなければなんでも良いよ」
「全く……アストラエ様が優しく聡明な方であるから良かったものの……一体貴様の主人は何様なのだ」
サンツォがそんな事を言うので、俺は正直に答える事にした。
「何様って? そりゃあもちろん――魔王様さ」
ガル達がいる場所の名は【帰らずの荒野】と呼ばれる場所です。作中にあった通り、周囲を険しい切り立った山脈で囲まれた、ぺんぺん草すら生えていない死の大地です。唯一外界へと続く場所は王国によって封鎖されていて、その近くに唯一の村がありますが、村についてはまた作中に出てきた時に紹介します。
ここは元々自然豊かな土地でしたが、昔ここで大規模な戦争が起こり、荒野になったとか……。土を掘れば骨も出てくるようです




