2話:魔王城どころか馬小屋
「ガーゴイルになってるぞ!」
おー、めちゃくちゃかっこいい! じゃなくて。俺は小屋になっていたんじゃないのか?
「そりゃあね。だってあんたの魂とも言えるダンジョンコアをそれに埋めこんだから。一応魔王城があんたの本体ではあるけど、魂はそこにある」
「ダンジョンコア?」
「どんなダンジョンも必ずダンジョンコアと呼ばれる、そのダンジョンをダンジョンたらしめる物があるのよ。それを使ってあたし達はダンジョンを拡張させたり、トラップを仕掛けたり、モンスターを配置したりするの」
「あー、なるほどね」
「んで、魔王城も当然ダンジョンになるので、ダンジョンコアがいるわけ。だけど魔王城はいわば最後の砦だから、すぐに落とされたら困るでしょ? だから当然中身も巨大化、複雑化していくんだけど……正直管理するのが大変なの」
なるほど。大体分かって来たぞ。
「つまりそれだけ複雑になってしまうと、管理が煩雑になってしまう。なのでダンジョンコア自体に意思を持たせて、自身でダンジョンを管理できるようにさせるわけだ」
「その通り! 結構賢いじゃない」
「まあな。あー、それで俺が転生してきたわけだ」
「転生?」
「ん? ああ、俺はどうもこの世界とは違う世界から来たっぽいんだ。前の世界で死んでしまったからな」
なんで死んだか覚えていないが、どうせろくでもない死に方だ。
「ああ……あたしの中途半端な儀式で、あんたの魂を喚んでしまったのね……道理で自我が強いと思ったわ」
「本来はこんな感じじゃないのか?」
「口答えもしないしこんなにペラペラ喋らないわよ」
「悪かったな。こう見えて結構お喋りなんだよ」
「とにかく、こうなった以上はあんたはあたしのしもべなんだから。そうね名前を付けてあげる――ガーゴイルだから【ガル】よ」
「安直!!」
「文句あんの?」
「ないです」
というわけで、俺はガルだ。まあ前世の名前とか覚えてないし、なんでも良いんだけどね。
「じゃあ、キリキリ働きなさい」
「へいへい。つーか早速、一仕事しただろうが」
ゴブリンから助けてやったのもう忘れたのか?
「しもべが主人を護るのは当然よ! でもガル……ありがと」
そっぽ向きながらそう礼を言うフランは超絶可愛かった。石像なので俺の顔の表情が変わらないのが救いだ。
「しかし、こうやって動けるのは便利だな」
「あんまり独立行動しすぎると、魔力切れるからほどほどにしなさいよ」
「いや、そういうのは早く言ってよ!」
俺は慌てて、ステータスを確認すると、
***
名称 :ボロ小屋ガーゴイルの【ガル】
レベル :2
体力 :500/500
魔力 :3/40
所有スキル:【破砕音波】【ガルグイユの涙】
***
あ、名称変わってるし、ステータスが違う? なんかスキルも違うな。
確認すると、魔王城(ボロ小屋)の付属品扱いらしい。でも、城より耐久性ありそうで笑ってしまう。
詳細を見てみると、やはり俺の本体はこの小屋らしく、このガーゴイルはいわば子機みたいな物のようだ。ステータスは独立しているみたいだが。
魔力が別だったおかげで、魔王城の魔力がゼロでも動けたのだが……もうあと魔力が3しかねえ! 燃費悪いな!
俺は背中の翼を使って一気に小屋の上にある石の台座へと戻る。すると、台座から力が湧き上がってくる。
確認すると、
***
名称 :魔王のボロ小屋
レベル :2
耐久度 :100/100
魔力 :0/30
所有スキル:【建材創作】【独立行動】
名称 :ボロ小屋ガーゴイルの【ガル】
レベル :2
体力 :500/500
魔力 :33/40
所有スキル:【破砕音波】【ガルグイユの涙】
***
「おー! 俺の魔力が回復してる! なるほど、小屋の方から魔力の補填があるんだな。その分小屋の方はゼロになったが……」
「ゴブリンを倒したおかげでレベルアップして小屋の魔力が回復したけど、その分があんたに流れたのよ。一応魔力はちょっとずつ自然に回復していくのだけど、結構時間掛かるから、よく考えて魔力は使いなさい。独立行動はあんまり多用しない方がいいわね」
なるほど。レベルはどうやら共通らしい。小屋のレベルが上がると、ガーゴイルのレベルも上がると。
「なるべく独立行動せず、召喚したモンスターとかトラップとかで倒さないと、魔力効率が悪いのよ。倒すモンスターから得られる魔力やアイテム以上の魔力を使うのは悪手だと覚えておきなさい」
「ふむふむ。俺が動くのは奥の手として残しておかないとな」
多分だけど、フランが気合い入れて作ったらしいこの身体は、かなり強いとみた。ただ、その分魔力消費が激しいのでむやみやたらには動けない。
ので、違う方法で敵を倒したいのだが……。
「トラップはどうやって作るんだ? モンスターもどうやって召喚するんだよ」
「そういうスキルがあるはずよ」
「ないぞ」
「え?」
「え? とか言われてもな。今あるスキルは――【建材創作】【独立行動】だけだ」
「……ふ、ふーん。なら仕方ないわねー。うんうん。まあなんか考えなさい! あたしは眠いから寝る!」
……なんか誤魔化したぞこのちびっ子。どうせ、スキルを付与し忘れたとかそんなんだろ。フランが目を泳がせながらそのまま小屋に入っていく。視点を移動させられる事に気付いた俺は小屋の中を覗く。
中には何もなかった。ただ、床に藁が敷き詰めてあるだけ。フランはもぞもぞとそこに入っていくと秒で可愛らしい寝息をたてはじめた。
「マジで馬小屋じゃねえか……」
なんで魔王がこうなったのか分からんが、こんな小さな子がたった独りでこんなところに住むなんてあんまりにあんまりすぎる。
「……俺が頑張るしかないな。まずは壁を変えて……次はベッドと布団だ!」
俺は静かにやる気を滾らせた。
主人公は紳士です。本当です。