16話:目覚める聖女
狼の群れが迷いなく岩窟の入口へと駆けてくる。
まずは――入口から奥に向けて徐々に狭くなるように砂壁を設置。狭くなった部分全体を環境操作で掘って砂で埋める。これで狼が奥へと進む為には、必ずこの砂エリアを通らないといけないようにする。
魔力とストックが増えたおかげでこれだけ壁を作っても余裕がある。
一応アンデッドインプ達は奥へと続く通路前に待機させているが、俺としてはそこまで辿り着かせないつもりだ。
初めての相手なので若干不安はあるけど……。
「まあ……何とかなるでしょ」
先頭の狼が岩窟の中へと到達する。俺は試しに壁を設置し、狼の群れに対して倒してみた。
しかし狼達は素早いステップで壁を躱す。壁はただの砂となった。
「やっぱりかあ」
壁と石柱の欠点としては、出現してから相手にダメージを与えられるまでにタイムラグがある点だ。ゴブリンや山賊はともかく、狼のような素早い相手にはまず当たらない。
そうこうしているうちに狼たちが駆け抜けてくる。
徐々に狭まっている左右の壁に気付いている様子はない。そして、先頭の狼が砂エリアへと足を踏み入れた。
「ギャウ!?」
途端にその動きが鈍る。
次々と狼たちが砂エリアに突入するが、分かりやすいぐらいにその動きが止まり、あらぬ方向へと進んでいった。
その秘密は砂にある。砂のプールとでも言うべきそのエリア内で、俺は環境操作で表面上の砂だけ固定し、一見するとただの砂場に見えるにようにする。でも、実は中の砂は常に動かしており、足を踏み入れたら最後、渦巻く流砂に足を取られてしまう。いくつか、渦巻きの中心を作ったおかげで、それぞれに狼達が自然と固まってしまう。
称号【砂遊び】によって砂による拘束力も上がっているので効果てきめんだ。
「はい、お疲れさん――石柱ラッシュ」
砂エリアに石柱を何本も作成し、いくつかある渦巻きの中心――狼たちがもがいているところ――へと一気に倒す。
「キャウン!」
石柱が倒れ、砕ける轟音と狼たちの断末魔が響く。絶命し魔力となった狼たちが骨や毛皮や牙を残し、光となって壁や地面に吸われていった。
どうやらモンスターによっては骨以外も落とすようだ。
何匹かは砂エリアへと足を踏み入れず様子見をしていたが、俺はすかさず背後を壁で塞ぐ。
「ランドクリエイション――岩槍」
狼たちの足下から鋭い岩が突き出て、反応できなかった狼を串刺しにする。運良くそれを避けられた狼はしかし砂エリアへと足を踏み入れてしまい、流砂に足を取られ、動けなくなったところへ石柱が倒れてくる。
こうして狼の群れは全滅した。
うむ、我ながら完璧である。というか直接攻撃ができるランドクリエイションが有能過ぎる。ただ、ちょっと魔力消費が重い。乱発は出来ないな。
俺はステータスを見て魔力が回復しているのを確認した。よしよし、砂壁を大量に使った分、今回だけを見れば魔力は若干マイナスだが、壁は壊れていないし次にも使える。
「砂強いな」
狼のような、すばしっこい四足獣に効くのなら、大体他もいけるだろう。問題は飛行タイプのモンスターが来た時だが、これも対策をいくつか考えている。
「うっし、これで何とかやれそうだな」
俺は間違いなくパワーアップした魔王城に大満足であった。このダンジョンを覆う巨大な岩をどうにか出来る相手でない限り、侵入者はこの岩窟の入口を使うしかない。ならばそこに必殺のエリアを構築さえしてしまえば……まず落とされる事はないだろう。
その後、何度かモンスターの襲撃はあったが、そのどれもが砂エリアを突破出来ず、骨となった。
☆☆☆
翌日。
「この辺りはモンスターの種類が豊富でな。ハイランドウルフにゴブリンだろ。それにスケルトンとフライングリザード」
倒したモンスターの骨を見ると、そのモンスターの情報が分かる事に気付いた俺は昨晩倒したモンスターについてフランに報告していた。
「へえ。やるじゃない!」
「だろ。ただ、レベルは流石に上がらなくなってきたな」
「まあ、仕方ないわね。ここまでのペースが異常だったのよ」
「あのお」
「ま、今の感じだと危うさもないし、コツコツやっていけばいけるだろ」
「えっと……」
「魔王城は遠いわねえ」
「話を聞いてください!!」
俺とフランがボスエリアで話していると、ついにアストラエの大声が響いた。
「おはようアストラエちゃん。痛いところない?」
「……どういう状況ですかこれ」
起きたアストラエが恐る恐るこのエリアを覗くと、俺とフランが暢気にお喋りしているのを見て話しかけてきたのだ。
すまん、話に夢中だった。
「山賊達に捕らわれたところまでは覚えているのですが」
「山賊達は全滅させたし、ついでにここは俺達が乗っ取ったよ。とりあえず安全だから心配しないで」
「はあ……あの、サンツォは……?」
アストラエが不安そうにそう聞いてきた。俺はフランと顔を合わせて、どうすべきか迷う。
「サンツォもどこかに捕らわれているはずです! 彼も助けないと!」
サンツォがいないことに気付き、アストラエがおろおろしだすのを見て、フランが口を開いた。
「……あの男なら死んだわよ。あたし達が来た時には手遅れだった」
「助けられたのは、アストラエちゃんだけだ。すまん」
そう俺とフランが伝えると、アストラエは泣き崩れた。嘘はついていない。だけど、本当の事を彼女が知る必要もないだろう。
そう考えたフランの気持ちを俺は汲み取っただけだ。
フランは、はあ……とため息をつくと、泣き崩れたアストラエの頭を優しく抱き抱えた。
やっぱり魔王っぽくないんだよなあ……。
「ぐすん……すみません……取り乱してしまいまして……お礼を言うのが先でした――二度にもわたり助けていただきありがとうございました」
しばらくして、涙を拭ったアストラエが俺達に向かって頭を下げた。
「ダンジョンの仕様上、死んだサンツォは骨と服しか残っていない。一応それだけ他と区別して置いてあるけど……」
「……埋葬したいと思います。良いですか?」
「ああ。この岩窟の外でやると良いよ。穴を掘るのも俺が手伝うよ」
「はい……ありがとうございます」
俺はストックに入れていた、サンツォの骨と服を小さな箱――棺桶みたいな物に入れてアストラエの前へと設置した。
「サンツォ……こんなに軽くなって……貴方は……本当に……ごめんなさい」
アストラエがまた泣きそうになりながらその箱を持ち上げた。そのまま彼女は外へと向かっていった。俺が運んでも良かったが、多分これで良かったと思う。
その後ろ姿を見て、フランがポツリと呟いた。
「ガラにもない事したわ」
「良いじゃねえか。俺はそういうフランが好きだぞ?」
「ばっかじゃないの! ふん」
顔を赤くしてそっぽを向くフランを見て、俺は笑った。
「それで? これからどうするの。あの子についてはあの子次第だけども」
「そうだな。まあ助けたからに、アストラエには仕事をして貰うつもりだよ」
「仕事?」
「ああ。近くに村があると言ったろ? ちとそこに行ってもらおうかと思っている」
「人間の村に何の用があるのよ。潰すつもり?」
「発想が物騒だな。逆だよ逆」
「逆?」
首を傾げるフランに、俺はこう告げたのだった。
「向こう次第ではあるが――交易を結ぶ、つもりだよ」
時に嘘も必要ということですね




