13話:裏切りの聖騎士
「は? なにこれ、チートじゃねえか」
体力に+5000ってバフにしては盛りすぎじゃね!? しかも魔力消費ゼロって……。
「何がよ」
駆け寄ってきたフランが俺の声を聞いて、首を傾げた。
「いや、なんか【魔王の騎士】とか言うスキルがガーゴイルの方に発現しててさ」
「……あー、あったわねそんなスキル。あれでしょ、あたしの側にいると魔力消費が無くなって、能力も向上するってやつ」
「それそれ。なんかさ、それのおかげで独立行動してもMP減らないんだわ」
「それにも適用されるのね。ということは、あんた動き放題?」
「だな。ただ、フランが側にいないといけないっぽいが……側ってどれぐらいなんだ?」
「試してみなさいよ」
俺はフランから離れてみる。5m……10m……15m……あ、ダメだ。魔力が減る感覚がある。
俺は慌てて戻ると、10m前後で再び魔力消費がなくなった。
「これぐらいの距離だな」
だからか。魔術師を倒す為にフランから離れた為に、あの時に魔力が減るのを感じたんだ。そのあとフランが駆け寄ってきたからまた魔力の消費が無くなった。
「ってことは、やっぱりあたしが近くにいないとダメね。行くわよガル。さっさとダンジョンマスターをぶっ倒すわよ」
「いや、家は良いのかよ!?」
「馬鹿ね、あれはあくまで城。大事なのは――魔王であるあたしとダンジョンコア……つまりあんたなの。だから二人でいれば――そこが魔王城なのよ。あの家はあくまで魔力の源だから、【魔王の騎士】が発動するダンジョン内に限って言えば……必要ないわ」
「壊されたらどうなるんだ?」
「私が作り直すわよ。あんたとあたしさえ無事なら、何度だって造り上げてみせる」
そう言って、フランが不敵に笑った。
正直に言おう。俺はその言葉、この顔に、少しだけ見蕩れてしまった。
それは確かに……大魔王に相応しい笑顔だった。
「というわけで行くわよ!!」
そう言って、なぜかフランが俺の背中にまたがる。
「えっと……フラン……様? なにやってんの?」
「側を離れたらダメなんでしょ? 変に離れてあたしの事を庇いながらよりも、こうやってくっついている方が戦いやすいでしょ? あ、さっきのくるんって回るとかは無しよ!!」
「ええ……」
「ほら、さっさと行く!」
目を輝かせているのが、見なくても分かる。どうせ、乗ってみたかっただけとかそんなんだろ……。
ま、でもこうやってくっついていると安心なのは確かだ。このちびっ子魔王はゴブリンにすら負けるからな。
「しっかり掴まっていろよ!!」
俺は地面を蹴って飛翔。洞窟の奥へと続く通路を進む。
「きゃああああ!! 楽しいいいい!! もっと飛ばしなさい!!」
なんか緊張感ないなあ……。
通路に設置されたトラップをなぎ倒し、山賊達をぶっ飛ばし、俺は進んでいく。諦めたのか、途中からは沈黙のままでトラップも無ければ、モンスターも山賊も出てこない。
曲がりくねった洞窟は段々狭くなっていき、途中で二股に分かれていた。
俺は耳を澄ませてみる。すると右側から微かに声が聞こえる。
「……私は……だから……!」
この声は……あのオッサンだ! ということはアストラエちゃんも一緒に違いない。
「あっちに行こう」
「そっちじゃない方から濃い魔力を感じるわ。あっちにダンジョンマスターがいそうだけど」
「人命救助が先だろ?」
「……別に」
素直じゃないなあ。でも反対しないって事は構わないってことだろうな。
「先にアストラエを助けよう。ついでにオッサンも」
「あいつは別にいいわよ」
「まあ、そう言うなって。助けたらきっと変わるさ」
「そうかしら」
フランがそう言ったきり沈黙。俺も無言で通路を走っていく。ここまで来ると、飛べないほどに狭い。
前には、扉があった。扉は開いていて、奥の光景が見えた。
見れば、そこはちょっとした食堂のようになっており、あの聖騎士のオッサンが剣を握り締めていた。その足下にはアストラエが転がっている。
そしてそれを囲むように山賊達がおり、下卑た笑い声を上げていた。
「私は……俺は……!!」
「ぎゃははは!! やーれ! やーれ! つーかなんか外がやけに静かだな?」
「そうか? それよりもこのショーを楽しもうぜ!! おい、オッサンやれよ」
「……やれば俺の事は見逃してくれるんだよな? 本当だよな!? こいつはどうなってもいいから俺だけは!」
オッサン……いやサンツォの目が、声が濁っている。あいつまさか……。
「もちろんだよ。俺らはこう見えて義理堅いんだ」
「へへへ……アハハ!! 死ね!! 死ね!! クソ聖女が!! お前のせいで!! 俺は!!」
サンツォがアストラエを蹴りはじめた。その声と顔は狂気と憎しみに溢れている。
なんでだよ、お前は……お前だけはアストラエを護る側だろうが!!
「……ガル、あれが人間よ」
俺の激情を察したのか背中でフランがポツリとそう、呟いた。
「ぎゃはは!! 聖騎士様はすげえなあ!!」
「殺してやる……殺してやる!! 死ね!! アストラ――」
サンツォが唾を飛ばしながらそう言って、剣を振り上げた。
「全部、壊すぞ」
「徹底的にやりなさい――このフランシスカが許可する」
「……イエス・マスター」
俺は怒りのまま、【破砕音波】を発動。
「ぎゃああああ!!」
「なんだああああ!?」
衝撃波が、サンツォが振り下ろす剣も含め、食堂のあらゆる物を破壊していく。
「き、貴様ら!!」
サンツォが尻餅をつきながら、突入してくる俺達を見てそう叫んだ。
もういい。黙れ。
「モンスターがなんで!?」
「武器がああ!!」
「殺せええええ」
俺はサンツォまでの道のりを邪魔する山賊を吹っ飛ばしていく。
「ア……ア……違うんだ……違うんだ!!」
最後の一人である山賊を石剣で叩き斬って、俺は後ずさりするサンツォへと歩み寄る。アストラエはどうやら気絶しているだけのようだし、服も乱れていないところを見ると、乱暴もされていないようだ。
「待ってくれ!! 俺は……いや私は……! あいつらに命令されて仕方な――」
「何も、聞きたくない」
俺は石剣を水平に薙ぎ払った。
何かを言いかけていたサンツォの首が飛ぶ。その顔には絶望が張り付いていた。
あんまりだ。あんまりすぎる。
「なんでだよ……オッサン……」
俺の絞り出したような声が、血塗れの食堂に小さく響いた。
オッサンも色々と苦労してたんっすよ。
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