12話:ダンジョンの中のダンジョン
「怯むなああ!! 山賊魂を見せつけ――ぴぎゃ」
はい、砂穴からの石柱ドーン。
「足を取られるな!! 正面は危険だ迂回し――ぶべ」
あーあ。前を見ないと、いきなり壁が出現して倒れてくるよ?
俺の石柱や壁攻撃で気絶したり、瀕死になったりした山賊へと、アンデッドインプ達が群がってトドメをさしていく。
「うわあ……あんたのやり方をこうしてちゃんと見るのは初めてだけど……ひどいわね」
「そこは褒めとけよ。好きでやってるわけじゃないんだって。俺だって華麗にトラップとか強いモンスターで戦いたいんだよ」
誰かさんがそういうスキルを付与し忘れたせいですよ?
「……悪かったってば。それより右から来てるわよ、あと左奥から魔力反応。魔術師がいるわね」
「ういっす。しかし……」
俺は右側に壁を三つ設置し、そのまま山賊の進撃を阻止。左右から石柱を倒し、押し潰す。
更に左奥から火球が飛んできたので、進路状に壁を作成。
壁があっけなく爆音と共に砕けるが、同時に火球も消失。うん、盾代わりに使えて便利だけど忙しいな!
そうやっているうちに、山賊が死んで光となって俺に飛んでくるんだけど……俺の地形操作の範囲内なのに、光が時々俺ではなく洞窟の壁や地面へと飛んでいくのだ。
これまでに見た事のない現象だ。
「フラン、今の見たか」
「うん。おかしいわね」
「あと、どうもここさ、自分で突っ込んでおいてなんだけど……すげえ居心地悪い」
「……っ!! そうか……分かったわ。ここは……ダンジョンなのよ!」
な、なんだってー!?
つまりどういうことだってばよ。
「この洞窟がダンジョンなのよ! 山賊共はダンジョンをアジトにしているってこと。で、ダンジョンだってことは当然ダンジョンコアがあるわけ。本来ダンジョンは動かないから、ダンジョンの中にダンジョンが入るなんてありえないのよ」
今、何回ダンジョンって言った?
「あー、だから、ここで死んだ奴らの魔力が俺に来たり、この洞窟――つまりこのダンジョンに吸収されたりするわけか」
「そういうことね。あたしも初めて経験するから、確証はないけど……」
しかしそうなると厄介だ。それはつまり――山賊側にもダンジョンコアがあるってことで……。
「っ!! 魔力反応!! ガル、奥を見て!」
俺がフランの声で洞窟の奥を見ると、地面に魔法陣が現れて――巨大なブタの化け物がそこから這い出てきた。しかも、鉄製の大盾とメイスを装備している。
「オークよ!」
「だな。やっぱり向こうさんもダンジョンコアがあって、モンスターを召喚したのか」
というか武装したオークとか、ちょっとまずいな。
案の定、オークはメイスを一振りして、行く手を遮る壁を破砕。幸い武具が重いのか歩みはゆっくりだが、着実にこちらへと向かって来ている。
アンデッドインプ達が、オークが盾を払うだけでバラバラに砕け散っていく。行かせるだけ無駄か。
そんなオークの後ろから山賊達がついてくる。
まずいなあ。相変わらず奥からは魔術師らしき男が火球をこちらへと撃ってくる。壁で防ぐも、毎回そちらに気を取られるのが鬱陶しい。
あのオークを倒すには、壁や石柱では火力が足りなさそうだ。地形操作で穴に嵌めるという手もあるが……そうなると他の防御が手薄になる。
「ちょっとどうするのよ!」
「俺が行くしかないな。幸い魔力は十分ある」
「気を付けてね」
「はん、オークなんて余裕だよ」
俺は台座から飛び上がると、家へと近付いてくるオークへと翼をはためかせて一直線に向かう。
あれ……?
いつも感じる、あの力が抜けていく感覚がない。
まあいいや。とりあえず目の前の敵を倒そう。
「ブモオオオオ!!」
オークがその豪腕を使ってメイスで俺を叩き落とそうと振り払った。俺は咄嗟に石剣で防御。火花が散り、俺はその衝撃を殺しきれず、地面へと落ちる。
うげ、アホみたいな力あるな。
ギリギリで体勢を制御し地面に着地、そのまま俺は石剣をオークへと突き出した。しかしそれは大盾であっけなく防がれてしまう。
振り下ろされたメイスをバックステップで躱す。くそー、あの盾が邪魔くさいな。
「スキルを使いなさい!!」
背後からのフランの声で、俺はそういえばガーゴイルのスキルを使っていなかった事に気付いた。
そうだ、そうだ、そういえばスキルあったな。
確かそれぞれこんな感じだったな。
【破砕音波】――相手の武具や結界、障害物を破壊する衝撃波を放つ事ができる。
【ガルグイユの涙】――石化を回復できる。また石像系モンスターを即死させることができる。
この場合なら、【破砕音波】が使えるかもしれないな。
俺は盾を前に突き出して突撃してくるオークへと向かって【破砕音波】を発動。
俺の口から、甲高い音と共に衝撃波が前方へと放たれた。
「ブモオ!?」
衝撃波に触れた瞬間に、オークが持っていた盾とメイスが粉々に砕け散った。
見れば、背後にいた山賊達の武器まで壊れている。おー、結構範囲広いし、貫通するんだな。
「ブモオオ!!」
怒り狂ったオークが両手の指を組んで、俺を叩き潰そうと振り上げた。
「盾がないなら、ただのデカいゴブリンだなお前」
俺は地面を蹴り、更にオークの腹を蹴って、サマーソルトの要領で一回転。遅れてやってきた尻尾が、振り下ろされたオークの両手を叩き潰す。
「ブギャアア!?」
俺はそのまま翼を使って空中で加速。驚いたような表情のオークへと石剣を叩き込む。
オークの頭が弾け飛び、骨を残しそのまま光となって俺に吸いこまれていく。
俺はその勢いのまま背後で棒立ちだった山賊の群れへと突撃。尻尾と石剣を振り回して蹴散らす。
「化け物だ……撤退!! 親分呼んでこ――ぴぎゃ」
最後の一人となった魔術師の頭を潰して、俺は石剣を払った。血が地面へと飛び散る。ここに来て、ようやく魔力が減る感覚が戻る。
「ま、こんなもんか」
見える位置にいた山賊は全滅。こちらのアンデッドインプ達は残り5体。
魔力の残量を確認する為に急いでステータスを見てみると――
***
名称 :魔王の砂家
レベル :10
耐久度 :500/500
魔力 :310/310
所有スキル:
所有スキル:【建材創作】【独立行動】【地形操作Lv2】【サモンアンデッドLv1】
称号 :【三流壁士】【コンボルーキー】【砂遊び】
名称 :砂家のガーゴイル
レベル :10
体力 :6500/1500+5000
魔力 :887/400+500
所有スキル:【破砕音波】【ガルグイユの涙】【魔王の騎士】
***
めっちゃレベル上がってる!! それになんか見慣れない表示がなんか色々あるぞ。なんだ+5000って。
「いや、今は確認している暇はないな」
「ガル! 凄いじゃない!」
背後から、フランがやってくる。すると、急にあの魔力が減る感覚がなくなった。というか、そもそもガーゴイルの魔力の減りが少なすぎる。結構色々動いたのになぜかほとんど減っていない。レベルアップで回復したにせよ、どこかおかしい。
なので俺は時間がないのを分かりながらも、一つだけ確認しておきたい物があった。
それはガーゴイルのスキル欄にある見慣れないやつだ。
【魔王の騎士】――ダンジョン攻略時に、魔王が側にいる限りあらゆる行動による魔力の消費がゼロとなり、ステータス及びスキル効果に大幅なプラス補正が掛かる。
ダンジョン内にダンジョンがある状態はこれまでになかったので、なんかバグってます。
基本的に、ダンジョンの範囲内で死んだ物は魔力に変化されそのダンジョンに吸収されますが……それが二重になっているせいで、魔力さんがどっちに吸収されたらいいか迷子になってますね!




