10話:フランちゃんは素直になれない
アストラエ達が去っていってしばらくしてから、ぶすーっとした顔のフランが外へと出てきた。
「……怒るなって」
「怒ってない」
膨れっ面なのに怒ってないとか言うかね? しかもなぜかアストラエ達が去っていった方をジッと見つめているし。
「次からは追い払うからさ」
「……うん」
んー。どうも俺がアストラエ達を助けた事自体について怒っている訳ではなさそうだ。
じゃあ、なんだろうか。あのサンツォとかいう大馬鹿野郎に怒っているのか?
「さっきの子、聖女だしあたしの天敵のはずなんだけど、なんか珍しく悪い印象がなかったからさ」
「……今なら間に合うぞ」
もしかしたら……フランは寂しいのじゃないだろうか。過去に何があったか知らないが喋り相手が俺だけってのもな。
「何が? それより凄いじゃない! アンデッドモンスターを召喚できたのね!」
フランが露骨に話を変えて、アンデッドインプ達をツンツンと突きはじめた。
「でもなんか弱そうね」
「そりゃあレベル1だからな。こいつらも敵を倒したらレベル上がるのか?」
「無理ね。スキル自体のレベルを上げないと」
「そうか……、まあ結構役に立つよ」
「あたしの作業も減りそうね! もう砂を汲むのは嫌よ?」
うむ。ただ、地形操作で砂を動かせる事にあの時に気付いていれば、フランが砂汲みをやらずに済んでいたことは……内緒にしとこう。
「しかし、あんたも凄いわね。壁とか石柱とこんな雑魚モンスターだけで山賊を撃退したんだから」
「まあな。地形操作がかなり有能な感じだ」
「そういえばレベルはどうなったの?」
「あー、そういえば確認してないな」
ステータスを見てみると――
***
名称 :魔王の砂家
レベル :7
耐久度 :300/300
魔力 :180/180
所有スキル:【建材創作】【独立行動】【地形操作Lv1】【サモンアンデッドLv1】
称号 :【三流壁士】【コンボルーキー】
名称 :砂家ガーゴイルの【ガル】
レベル :7
体力 :1100/1100
魔力 :240/240
所有スキル:【破砕音波】【ガルグイユの涙】
***
ゴブリンはさして倒していないのに、レベルが2も上がっている。どうやら山賊で結構稼げたようだ。
新しい称号も増えているな。
【コンボルーキー】――一定回数トラップなどを連鎖させて相手を倒した際に得られる称号。コンボ回数に応じて威力にプラス補正が掛かる。~〝1+1〟は2ではない。その気付きこそがコンボマスターへの道である~
トラップを連鎖……? もしかして、落とし穴に嵌めて上から石柱で潰したやつか。
つまり、トラップとかを組み合わせて連鎖させると、その分威力が上がっていく仕様なんだな。コンボ数が増えるほど威力が上がるのは面白い。
なにより【地形操作】や【建材創作】による攻撃や拘束でもトラップとしてカウントされるのがありがたい。こうなってくると、色々とやれそうだ。
そういえば、あの山賊達の形見――ドロップアイテムとでも呼ぶのか?――として手に入った武器はアンデッドインプ達に装備させている。骨とか防具とかはとりあえず今は魔力が十分なので保管しておく。
「ぼちぼち上がってるわね。もう少しここを大きくする手もあるけど……」
「んー。大きくするとその分目立つからな。ま、魔力に余裕あるし、一度レンガの壁を作ってみるか」
俺は家の前面をレンガの壁へと変えた。
「魔力を50も消費するのか……」
その代わり、前面だけ見ればレンガ造りのお洒落な家になったし、耐久度も100上がっている。
「良いわね! 全面変えましょ!」
「いや、魔力がな」
「あと一回ぐらいは出来るでしょ」
この幼女、絶対に後先を考えないタイプだろ。俺の身体を作るのに魔力を使いすぎて、肝心の魔王城に魔力を注げなかったところを見た感じ、絶対にそうだ。
「ダメです。つねに余裕を持っておくのが大事だ」
「慎重ねえ……」
「また山賊が来るかもしれないし、アストラエ達が襲ってくるかもしれない。それを考えると迎撃用に最低でも魔力は100以上は残しておかないと」
「ま、あんたに任せたら問題なさそうだし、任せるわ」
そう言ってフランが手をヒラヒラさせて、またベッドに戻っていった。また寝るの!?
「ベッド最高ね……もうあたしずっとベッドの中にいる……」
ダメ人間……いやダメ魔王になっているぞ。
元からダメ魔王っぽいが……。
「さてと。とりあえずアンデッドインプを増やして、もうちょい砂穴も増やすか」
地形操作の良いところは魔力を一切消費しない点である。これマジで便利。ただ、微妙に制限がある。
この家の周囲に、深い掘を掘ろうと試したのだが、なぜか上手く出来なかった。どうやら掘れる面積に限界があるらしく、例えば小さな穴であれば、かなり深くまで掘れるが、その穴の面積を広げるほどに浅くなっていく。
壁で囲むという方法もあるが、普通に壁を建ててしまうとトラップには使えないし、何より囲もうとするとかなりの魔力を使ってしまう。
やっぱり、すり鉢状にして相手が降りてくる勢いで砂穴に落とし、石柱か壁でトドメ、が最適解な気がする。問題は砂穴をどこに設置するかだ。
一応リアルタイムで地形操作を駆使して砂穴を移動させることは可能だが、同時に複数は無理だった。つまり、四方から攻められると、かなりキツイ。今はゴブリンの群れも、どこか一カ所からしか来ないので余裕で対応できるけど。
「考える事は山積みだな。というか場所が悪いんだよなあ……」
四方がだだっ広い荒原というのが良くない。囲まれたら終わりなんだよね。
「地下にでも移動するか?」
地形操作を使えば、それぐらいは出来る気がする。家だけ沈めていけば、やれそうだが……。
ただそうすると、それはそれで魔力の元となるゴブリンとかが来にくくなるので、効率が悪い。適度に来て、来る方向も分かれば……やりようもあるが。
「無い物ねだりしても仕方ないか」
そんな風にあれこれ考えているうちに、日が傾きはじめた。なんだか時間の流れが速い気がする。
さて、今夜は何が来るかな? と思っていると……。
「ぴゅい……」
何かが俺の側へと飛んできた。
「あれ、お前は」
それは、傷付いた一羽のトンビのような鳥だった。
こいつは確か、アストラエに懐いていたやつだ。
「ぴゅい……ぴゅいぴゅい!!」
何言ってるか分からんが、なんか焦っているし、俺をくちばしでめちゃくちゃ突いてくる。傷は付かないがやめてくれ。
「――ご主人様を助けてくれ、だってさ」
下からの声に俺が驚くと、そこにはフランが立っていた。こんな時間に起きた……だと?
「昼に寝すぎたわ。それより、そいつ、あの聖女の鳥でしょ」
「良く分かったな」
「匂いで分かるわよ」
「つーか鳥と会話できるとか、魔王らしくないな」
「うるさいわね。そういうスキルを持っているの。えー何々……〝ご主人様が山賊に捕まってアジトに連れていかれちまったぜ。何とか俺だけ逃げ出せたが、早く助けないとご主人様がえらい目に遭っちまう。頼れるのはお前だけだ! 頼む!〟だってさ」
「……まあ、さもありなん」
斥候を倒してしまったからなあ。
「んで、どうするんだフラン」
「……あたしの縄張りでアジトを作るなんて山賊の癖に良い度胸ね」
そっぽを向いて、腕を組みながらそう言うフランに、俺は笑ってしまった。
「じゃあ決まりだな」
ほんと素直じゃない奴。
「でも、どうする気よ」
俺はこの家から動けない。フランは弱すぎて話にならない。
ならば――一つしかない。俺は、考えていたとある方法を試してみることにした。
「フラン、家の中に入れ――少し、揺れるぞ」
フランちゃんは魔力はゼロに等しいですが、スキルは何やら色々ある様子。
というわけで、アストラエ救出編はじまります。
どうやって家を動かすかは……次話にて!
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