1話:転生したらボロ小屋でした
新作です!
死んで転生したらボロ小屋だった。
うん。心配しなくても、俺も意味が分からん。
もはや人間どころか生物ですらない。
当然、小屋なので俺は動けない。が、なぜか視界はある。周囲はだだっ広い荒野だ。枯れた木がまばらに生えており、地面には岩と土しかなく、植生はなさそうだ。
俺は自分の姿を何とか見ようとして下を見る。見えるのは石の台座に座っている石像の下半身だけで、その下には小屋の壁と扉があった。なんというか、ほんとにボロ小屋だ。壁は今にも倒壊しそうだし、扉は風が吹く度にバタンバタンと揺れている。
犬だってもう少しマシな小屋に住んでいるぞ。
そして何よりも……こんなボロ小屋にも住人がいるのだ。
それは10歳ぐらいの幼女だ。長い銀色の髪、赤い瞳、黒いゴスロリ系のドレス。背中には小さなコウモリみたい羽が生えている。あの羽、服を貫通してるけど、どういう構造だよ。
その子は絶世の美少女なのは間違いないが、どこか高飛車な雰囲気を纏っており、クソ生意気な姪っ子といった印象を受けた。
なお俺は小屋であり、口なんてもちろんないので、その子に聞こえる事はない。
「聞こえているわよ! 誰が生意気ですって!?」
聞こえてた!! 見ると、幼女が俺の前――つまり小屋の外で、腰に手を当て俺を見上げていた。んー、怒っているんだろうけど、もはやただ可愛いだけだね。
「聞こえるに決まってるでしょ!? あんたは、あたしこと大魔王フラン様がわざわざ建ててあげたんだから!」
えっと……どういうことだ? つーか大魔王って。せいぜいちびっ子デビルだろうが。
「あんた、喧嘩売ってるの? とにかく前の魔王城はぶっ壊されたし、新しく城に魂を宿す為の儀式もちゃんとやるほどの魔力が残ってなかったから、てきとうにやったんだけど……なんか変な奴を喚んでしまったわね……」
さらっと、変な奴扱いかよ。
「というか、なんであんたそんなに自我があるのよ」
いや、そう言われても。まあ、自我と言っても、前世? の記憶はあるにはあるが、俺がどういう存在だったかも覚えていない。多分、男だったと思うが……。ゲームとか漫画とかラノベの知識はあるのに、自分の事となると途端にモヤがかかったように思い出せなくなるのだ。
なんかずっと自室に引きこもっていた事だけは覚えている。
まあ何となくだが、ろくでもない前世だった気がするので、思い出さなくていいや。
「やっぱり適当にやった弊害が出てるわね……あんた、動ける?」
おいおい、小屋が動くわけないだろ
「なんの為にコアをガーゴイル像に仕込んだと思っているのよ……まあいいわ、それはともかく、覚醒したのならさっさとこの城を何とかしなさい」
待て待て、色々と情報が多過ぎる。ガーゴイル像? ってあれだろ、悪魔みたいな像でファンタジーだと大概、動いて襲ってくるやつ。それに、コア?
「あーもーめんどくさいわね。まずはステータス確認しなさいよ」
お、出た、ステータス。あーね、そういう世界なのね。でも見るってどうやるんだ?
と考えた途端に、視界の端にそれこそゲームみたいなウィンドウが出現し、そこにステータスが表示されていた。
***
名称 :魔王のボロ小屋
レベル :1
耐久度 :50/50
魔力 :20/20
所有スキル:【建材創作】【独立行動】
***
良く分からんけど、とにかく雑魚いのは分かった。なんだよ魔王のボロ小屋って。城ですらないじゃん。
「最初はそんなもんよ。【建材創作】のスキルがあるなら、さっさとドアと壁を何とかしてよ。すきま風が入ってきて、寒くて仕方ないわ」
その幼女――フラン? だったかが俺を睨む。
スキルってどう使うんだ? と思ったら、更にウィンドウが出てきた。なるほど、その辺りはゲーム的なのね。
えっと……あったあった。ずらーっと作れる物らしきリストが現れたが、明るく表示されて読めるのは二つだけだ。
・砂の壁
・木の扉
……まあ、作れるだけマシか? 俺は試しに砂の壁を作ってみる事にした。
「……? ってこら!!」
俺が適当にスキルを発動したせいで、縦横それぞれ3mぐらいの砂の壁がフランの背後に突如出現した。
あ、やべ。
風に煽られて、何の支えもない砂の壁が揺れ――フランの方へと倒れる。
「ぎゃああああ!!」
慌てて小屋の中へと駆け込むフランの後ろにバタン! と轟音を立てて砂の壁が倒れた。そして壁は地面に当たった衝撃で粉々に砕け、砂塵が舞いあがる。
小屋の前が一面砂だらけだ。
「この、馬鹿小屋!」
フランが眉をつり上げながら外に出てきて俺を睨む。いや、ゴメンって。
でも馬鹿小屋って罵倒は、馬とか鹿とかの小屋っぽくて、イマイチ罵倒されている気分になれないな。いや幼女に罵倒されて喜ぶ性癖はないのだけど。
いやでも分かった。さっき、壁があそこに出たのはフランへと視線を向けていたから、無意識にその後ろに位置指定してしまったのだろう。
今度は大丈夫。サンドボックス系のゲームも結構やり込んだ俺を信じろ!
「なんでもいいけど、今度はちゃんとやりなさい」
フランがぷりぷり怒っているので、俺は、真下にある穴とひび割れだらけの壁を意識して再び【建材創作】のスキルを使った。
すると、ヒュインという音と共にボロボロの壁が一瞬で砂壁に切り替わった。おお、ちゃんと窓枠とかドアの枠とか、大きさとかは調整してくれるのか。便利だな。
「やれば出来るじゃない。じゃ、あと三面もやってしまいなさい」
へいへい……と思って、他の壁も変えようとすると――あれ、発動しない。
おかしいと思ってステータスを確認すると……
***
名称 :魔王のボロ小屋
レベル :1
耐久度 :100/100
魔力 :0/20
所有スキル:【建材創作】【独立行動】
***
魔力がゼロになっとる!!
「はあ!? なんであんた魔力が壁二枚分しかないのよ!」
いや知らんがな。まあ、とにかく砂の壁を一枚作るのに魔力を10消費することは分かった。それに耐久度も上がっているな。【建材創作】のスキルがそうなのか、それとも砂の壁がそうなのかは、要検証だけどね。
「作る物によって変わるわよ。例えば、アダマンタイト製の壁とかだとかなりの魔力を消費するけど、その分耐久度は高いわ……はあ……でもそれを作るのは当分先になりそうね」
なんか俺が悪いみたいだな……すまん。
「……元々、あたしの魔力が少なかったせいね、多分。それにあんたの身体を造るのに魔力を使い過ぎて、肝心の小屋の方に使う余裕がなかったのよね」
あーあ、安物買いの銭失いってやつだ。それより、俺の身体? 小屋とはまた別なのか。
というかなんで大魔王なのに、そんなに魔力がないんだ?
「仕方ないじゃない。クサレ勇者とクソ四天王どもの裏切りのせいで、魔力を全部奪われて城も壊されたんだもん。あたし一人で何とかここまで逃げ延びたけど……贅沢は言っていられないわね。あんたとあたしでここから、一から始めるしかない」
そういうことか。しかしこんなちびっ子デビルに対して、部下を裏切らせるとかこの世界の勇者さん、まあまあな外道だな。
「ちびっ子言うな!! フラン様と心の中でも呼びなさい!!」
頬を膨らませて怒ってるフラン――様には、魔王の威厳の欠片もなく、ただただ可愛いだけだった。俺がロリコンじゃなくて良かったよ。というか物? になったせいか性欲とか一切ない。多分、食欲も睡眠欲もないな。
便利は便利だが。
なんて思っていると……遠くから何かがやってきた。
あ、俺知ってる、あれゴブリンだ。ゴブリンが三体、こちらへと向かって来ている。
「何よ、ゴブリンなんて雑魚じゃない」
お、流石魔王様。お力拝見させて貰おうかな。
「へ? あたし?」
そりゃあそうでしょ。フランしかいないし。まあ魔王だから余裕でしょ。
「……そ、そうね」
そう言って、フランが目の前に迫るゴブリンへと仁王立ちする。んー頼りない背中。
ゴブリンがフランの姿を見ると、ニチャア、という音が聞こえてきそうな笑顔を浮かべた。うわ、キモ。
「あ、あたしはま……魔王よ!! ひれ伏しなさい!」
フランがちょっと震えた声でそう叫ぶが、ゴブリン達が止まる気配はない。馬鹿っぽい顔してるし言葉が分からないのかな? 棍棒を振り回しており、向こうはやる気満々っぽいが。
まあクソ雑魚モンスの筆頭であるゴブリンに大魔王が負けるわけが……
「きゃああ!! 助けてええええ」
負けとるがな!! 大魔王がゴブリン三体にぽかぽか棍棒で叩かれている光景なんて見たことないぞ!!
「魔力ないとむ~り~」
泣きながら逃げてくるフランを見て、俺はため息をついた。やっぱりただただ偉そうなだけの幼女じゃねえか。
「げぎゃぎゃぎゃ!!」
ただ、ゴブリンが下卑た笑みを浮かべ、泣いているフランの服を掴んで破ろうとしているのを見て、俺は少しカチンと来た。
そのちびっ子は正直今でも何者か分からんし、別に助ける義理もないけど……弱い者いじめをしてる奴は個人的に好かん。
俺がフランを助けようと思った瞬間、スキル【独立行動】が勝手に発動し――身体が動いた。
「お前ら、何しとんじゃこらああああ!!」
俺は小屋から飛び降りると、手に持っていた石製の剣をフランにまとわりつくゴブリンへと振り下ろした。脳天に剣をブチ込まれたゴブリンが絶命。
俺はまるで昔から使い慣れていたかのような器用さで、先端が斧状になっている尻尾を残り二体のゴブリンへと薙いだ。
あっけなくゴブリンの胴体が千切れて、その二体も死亡。するとその死体は骨だけになって、残りは光となって俺の身体へと吸いこまれていった。
「や、やるじゃない! 流石、あたしが魔力の大半を込めて造り上げたガーゴイルなだけはあるわね!」
涙目のフランの言葉を聞いて、俺は小屋へと振り返った。ドアの上の屋根の縁には、石の台座だけがあり、窓ガラスには――
ゴブリンの血で濡れた石剣を持ち、斧状の尻尾が生えた、悪魔を象った石像が映っていた。
こうして俺の、魔王城兼、その守護者であるガーゴイルとしての生活が始まったのだった。
というわけで、オーソドックスな異世界転生物に挑戦してみました。主人公と魔王で頑張って魔王城を再興させるお話です。続きもお楽しみいただければ幸いです!
あと、ステータスについてはこの作者はガバガバ計算しているので、変な所あったら容赦なくツッコミ入れるかスルーしてね……
ハイファン新作連載開始!
かつては敵同士だった最強の魔術師とエルフの王女がざまあしつつ国を再建する話です! こちらもよろしくお願いします。
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平和になったので用済みだと処刑された最強の軍用魔術師、敗戦国のエルフ姫に英雄召喚されたので国家再建に手を貸すことに。祖国よ邪魔するのは良いがその魔術作ったの俺なので効かないし、こっちの魔力は無限だが?
良ければ読んでみてくださいね!