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案の定出遅れています。

※ハドリーの名前をセオドアに変更してます。

沈黙の中、私と殿下はしめやかに昼食を摂った。

カチャ……カチャ……というカトラリーの音だけがダイニングに響く。


乙女と殿下が仲良くなるための昼食なのに、“しめやか”という修飾がまさにピッタリな状況。




ダイニングルームとは言っても乙女と殿下の為に設えたものらしく、部屋もテーブルもそう大きくはない。

非常に凝った作りのレースのクロス、至る所に配置されている花や装飾品など……とってもロマンティックだ。

外側はアーチ型の壁に大きなガラスが埋め込んであるはめ込み式の窓で、美しく整えられた庭が見渡せる。

さして大きくない部屋は、乙女全員で朝食を摂っている方のダイニングルームのように大きなシャンデリアではなく、壁のあちらこちらに可愛らしいランプが備え付けてある。

薄明るい間接照明は、夜になるとムード抜群。


初めて入ったときには本当に緊張した。


ムードやロマンなんぞどうでもいいのだ。

ここでもし毛玉様が暴れてみろ。

何かしらのお高いものをぶっ壊されること請け合い。……額を考えると手が震える。


幸いなことに内壁の一部にやはりガラス張りの小部屋があり、そこで従者や護衛は待機をすることになっている。

毛玉様が殿下に手出ししづらいのはその為でもあった。

いつも待機しているグレン様に預かって頂いているのだ。


殿下が毛玉様のもふもふを欲する際にはそちらの部屋へ移動するか、お庭に出て遊んでいただく形にしている。


「せっかくの食事に毛が入ったりしては台無しですから」と毛玉様が聞いたら烈火の如く怒り、何かしらの攻撃をしてくるだろう理由でご納得頂いている。




いつもうまいこと気の利いた会話をしてくれるキラキラ殿下だが、今日はもうそれどころじゃなさそうだ。

ぼんやりとよそ事を考えながら食事をしている。


基本、自分から殿下に話しかけるような真似はしない私だが、今日の空気には流石に耐えられそうもない。


「あの……殿下?畏れながらお尋ねしても?」

「あ……ああ、勿論!何かな?クローディア」


邪魔をする毛玉様も別室。

殿下は心が乱れているご様子。


丁度いいのでここはそこにつけこんで本音のところを聞いてみようと思う。


「殿下は乙女とどうこうなることをどう思われておいでですか?お立場上仕方ないのかとは思いますが……殿下の方は想いを寄せる女性、とかはいらっしゃらないのでしょうか」


聞いてどうなる、ということでもないのだが、もし心に決めた女性がいるのなら好都合だ。


さっさと毛玉様に殿下のことは諦めて頂きたい。

応援も後押しも、協力は厭わない。

愚痴だって聞くし、恋愛経験はないが相談にも乗る。

営業トークよりよっぽど会話が弾むに違いない。



しかし戻ってきたのは残念な回答だった。



「うーん……私はね、クローディア……正直恋というものがよくわからないんだ。女性は皆美しく愛らしいが、特別に“この女性を手に入れたい”と思ったことはない」


困ったように微笑みながら、「だからこのお役目はピッタリだと思った」と続ける。


「自慢ではないが、私の見目は女性ウケがいいからね。私は私の事が好きな女性なら愛せる気がするし」



……思ったより、殿下も乾いていた。



「ですがそのう……他の乙女は非常に美しい方々ですし、こうしてお話させていただく時間も設けている訳ではないですか。殿下はどなたかに心惹かれたり……なんてことはないんですか?」

「心惹かれる……ねぇ?」

「興味、とか?ですかね……私もよくわかないのですけれども」

「興味……………」


殿下は顎に指をあて、斜め上を向いたまま動きを止めてしまっていた。


あぁ、真面目だなぁと思って少しだけ好感を抱く。



アナベラ様の聖獣が一番育っている為、アナベラ様が当初いいと言っていたカーティス様に同じ質問をしたところ「今は目の前の女の子のことしか考えられないよ」とくっさいセリフとともに煙に巻かれた。


カーティス様の対応も間違いではないとは思うが、『この人は無理な気がする』と私に思わせた。

相手を傷つけないようにオブラートに包む人より、ハッキリ示してくれる人の方が自分には合っているような気がしたのだ。



「……先程の事もあるが、強いて言えばアシュリーが気になるかなぁ。良い意味とは言えないが。ねぇクローディア、彼女はどうしてあんなに厳しいんだと思う?聖獣の成長を鑑みても私を含め、誰かに恋をしているとも思えないのだが」


「それは私も思っていました……あの、殿下はアシュリー様の事はよくご存知で?」

「あぁ、付き合い自体は長いな。よく知っているかというと微妙なところだが」





殿下、カーティス様、セオドア様、アシュリー様の4名は年齢が同じなため、貴族学校の同級生だったという。

アシュリー様は当初非常に大人しい女性だったが、その美しさから色々あったらしく、学園生活中にすっかり人間嫌いで人を寄せ付けない性格に変わってしまったそうだ。


「とはいえ今回は彼女にとっては見知った顔も多いし、乙女が安心して恋愛をできるように作られた舞台上だろう?そんなに警戒することもないような気もするのだけれど……」

「ライバルである他の乙女にだけ厳しいわけではないのですか?」

「ああ、私達にも笑顔を一切出さない」

「へぇ…………」


私は思い切って殿下に自分の想像したことを述べてみる事にした。



「アシュリー様の聖獣なんですけれど、初めてお会いした時から既に育ってらっしゃっている気がするんです。アシュリー様はどなたか心惹かれる方がいらっしゃったのではないのでしょうか」



初恋を引きずっているとか、叶うことのない恋心を封じているとか。


「…………アシュリーが、恋を?」

「いや、あくまでも私の想像ではありますが……辻褄が合うかなぁと」


殿下はなんだか微妙な顔をして「ふぅん……」などと小さく呟いたあとまた黙ってしまわれた。




それからなにかとバタバタして一日を終えたが、次の日の朝私……いや、全員が驚愕した。




アナベラ様の聖獣が滅茶苦茶育っていたからである。




そのインパクトによって消されてしまったが、私は気付いた。


アシュリー様の聖獣も微妙に育っている事に。



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