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アシュリー様は悪役令嬢ではありません。

一応はご納得していただいたご様子なので、失礼させていただく事にした私はグレン様の方に視線を向けた。


それに気付いたグレン様が近づいてきた瞬間……



突進してきたのだ、毛玉様が。


グレン様の腕からすり抜けて。

物凄いスピードで。




(まさかアシュリー様か聖獣に危害を加える気っ?!)


慌ててアシュリー様の前に出た私だったが、毛玉様は勢い良く私の横を駆け抜け、後ろにいたアシュリー様の横もそのまま駆け抜けた。

……なにがしたいんだ、毛玉様……


そう思ったのも束の間、毛玉様は猛然とアシュリー様の後ろの壁を駆け上がり、丁度彼女の頭部の斜め上あたりで壁を思い切り後ろ脚で蹴り上げた。


(ダメだ!庇えない!!)




『ハイパーミサイルアタァ〜ッック!!』


「ふぐっ?!」




毛玉様の“ハイパーミサイルアタック”が炸裂した。



…………振り返った、私の左頬に。



壁を利用した“ハイパーミサイルアタック”に、私はその場で蹴られた方向へ倒れる。

あ、これ倒れるわ〜と思ってもどうにもならないこの感じ。


倒れゆく中で「何しやがるか!この毛玉!!」と心の中で悪態を吐き、既視感に出くわした。

しかし、打ち付けた身体と毛玉様の攻撃を食らった左頬の痛みに霧散する。




呆気に取られているアシュリー様は呆然と立ち尽くしている。

駆け寄るグレン様と、キュウキュウ言いながら心配そうに近づく毛玉様。


『だっ大丈夫?クローディア!的な!……再!!』


いや、“再”じゃないだろ……


だが確かに、こんなことは以前にもあった。

……っていうかこないだ。



(…………まさか!!)



アシュリー様の後ろから、近寄ってくる足音。

一際キラキラしいオーラを纏う方……そう、ローレンス殿下だ。



「アシュリー……」



何故か殿下は私ではなく、アシュリー様の名前を呼ぶ。

低い声で。


「君がそんな事をするとは思わなかった」



こ れ が 狙 い か !!



「キュキュ……キュキュ〜ゥン」


いかにも哀れみを誘うか細い声で、毛玉様は殿下に擦り寄っていく。


毛玉!!どんだけあざといんだ!!


「誤解です!殿下……」

「そうです、誤解です!!」


グレン様に起こしてもらった私は急いで火種の回収にまわる。


「クローディア……君は何も言うな。心根の優しい君のことだ、アシュリーを庇おうと思っているんだろう?」

「違います!!本当にアシュリー様は何もしてません!!」


実際何もしていないので、優しいもなにもない。


「アシュリー様はそこに立っていただけで、本当になんにもしていないんです!!」

「そう必死にならずともいい。君の優しさは良くわかった」


必死で状況を説明しているだけなのに、何故か話を勝手に膨らませていく殿下。

だから優しさもへったくれもないと言うているのに。


「いやだから……「クローディア嬢」」


アシュリー様は私の名を冷たく呼んだ。

パチンと扇子を閉じる音がする。


「アシュリーさ」



振り向いた私の左頬に、今度は彼女の平手が飛んだ。



……それなりに痛いが、毛玉様の“ハイパーミラクルアタック”よりはマシ。

当然私は倒れたりすることもない。


「……なんてことを!!あぁ、クローディア……大丈夫か?!」


私の肩に手を置いてクローディア様との間に入った殿下に、アシュリー様は私の名を呼んだ時よりも更に冷たい声で言った。



「殿下のお気持ちはよくわかりました。……もう結構ですわ。今ので正しくなりましたもの」


「………え?」


そう言ってアシュリー様はヒールの音をコツコツと立てながら歩いて行ってしまわれた。とても堂々と。


殿下は言葉の意味するところがよく飲み込めなかったのか、はたまた上手く聞き取れなかったのか……暫く呆然とアシュリー様を眺めていた。

私の肩に手を置いたままの殿下の手をそっとグレン様が下ろすと、ようやくこちらを見た。


私の左手は張られた左頬でなく、無意識に額と眉間をぐりぐりしてしまっている。今は頬より頭が痛い。


……なんかもうちょっと、上手く説明できてれば違ったのかもしれない。




殿下は私の様子から、アシュリー様が吐いた言葉の意味を俄かに理解したようではあったが、まだなにか信じられないのか、言葉や質問を発さないまま目で訴えかけてきた。


「一体どういうことか」、と。


……だから!何度も言っている!!




「殿下…………アシュリー様は本当になにもやっていなかったのです」


少なくとも、殿下が来るまでは。


「…………そう、なの、か?」

「ええ、そうなんです」




相手は殿下だ。


「今度会う時謝ってください」とか、「だから散々言ったじゃないですか」とは言うことができず、ただ俯いて目を逸らした。


下を向くと、つぶらな瞳の中にイラつきを滲ませながら抗議するようにこちらを見ている毛玉様と目が合った。


どうせ『余計なこと言ってんじゃねぇ、このクソが!俺様のせっかくのアシストを無に還しやがって!!』とか思っているんだろう。



……今日の夕飯も人参一択。

係の方に伝えておこうと思う。


閲覧ありがとうございます。

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