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他の乙女達とお近づきになりました。

夕飯に人参しか出してやらなかった為、毛玉様のご機嫌はすこぶる悪く、例の如く“寝入りばな耳元後ろ脚タンタン”の嫌がらせを受けている。


私は寝るのを諦めて毛玉様に話しかけることにした。

話しているうちに眠くなってしまえ作戦である。


「そういや毛玉様、毛玉様の前の乙女はどういう人だったんですか?」

『あぁ?俺様に前の乙女なんざいねぇよ』


毛玉様の答えがぞんざいすぎてさっぱりわからなかったので、翌日アリスさんに聞くことにした。

毛玉様は話しかけたことによって、これでもかと言う程自分勝手な文句ばかりつけだしたが、言いたいことを言うだけ言ったらスッキリしたのか割と早く寝てくれて助かった。




アリスさん曰く、前回の聖獣使いはそれぞれめでたく結婚し、聖獣達は無事成長を遂げたという。


つまり毛玉様達は皆“今回の”聖獣ということだ。


成長した聖獣達はそれぞれ乙女と共に過ごすが、50年も経てば皆歳をとる。

乙女の伴侶の引退=聖獣の引退ということらしい。


「なんだ……じゃあ一生毛玉様のお世話係っていうのは変わらないわけですね……」

「ええ……ただ……」


アリスさんは少し言いづらそうに目を泳がせながら言葉を続けた。


「その場合次代の乙女候補を待たなければならないので……“聖獣使い”の皆様は後宮で聖獣様と共にお過ごしいただくことになります」

「…………んん?」


“後宮で聖獣様と共に過ごす”の意味がよく掴めないのだが。

そこに何か不穏なものを感じる。


『よーするにだなぁ、お前が勝手に恋愛すると国的に脅威になるから、女と宦官しかいねぇ後宮に閉じ込めて次代の乙女が現れるのを待つってこと。わかったか?このボンクラ』

「えぇぇぇぇ?!寝耳に水どころか寝ているところに大量冷水だよ、それぇ!!」



初恋もまだなのに!生涯喪女フラグを立てられた!!



『ふふん……少しは危機感を抱いたようだな?そうとわかったらさっさと王子を落としにかからんかい!!』


意地悪くそう言うと毛玉様は私の腕から華麗に宙を舞い、クロゼットの扉を体当たりで開けた。

無駄に器用だ。


毛玉様は大量のドレスの中から一着の前で後ろ脚をトントンして「本当にお話ができるのですね……」と尊敬の眼差しを私に向けるアリスさんに何かを訴えかけた。


「まぁ!聖獣様セレクトですわ、クローディア様!!」


毛玉様セレクト……嫌な予感しかしない。


アリスさんが引き出したそれは、ピンク色でやたらとフリフリとリボンの付いた膝上15cmはあるミニドレス。

セットでニーソックスとカチューシャがついてくる。


出た!あざとセレクト!!


「まぁお可愛らしい!素敵なセンスですわ聖獣様!!」

「嫌だ!嫌ですよ?!こんっな丈の短いの……平民でも着てる奴ぁ早々おりませんて!目を覚まして!アリスさん!!」

「大丈夫ですわ、女性騎士のボディアーマーに比べたらおみ足をちょこっと出すくらい!!」


比べるところが間違ってると思う。

しかも私以外皆、名だたる名家のご令嬢だというのにこのあざと選択……絶対悪目立ちする。恥ずかしくて死ねる。




しかし、私の心配は杞憂に終わった。

皆それぞれあざとかったのだ。


乙女たちの親睦を図るための、乙女全員が揃った朝食の席。

私はその光景に固まった。



シャルダン伯爵家のナターシャ様はめっちゃくちゃ胸と肩の空いたフリッフリのドレス。

エマニエル候爵家のエレオノーラ様は背中がガッツリ空いて、横にスリットが豪快に入ったピッタピタのロングドレス。

そして女性騎士でもあるスタレット子爵家アナベラ様に至っては、アリスさんの言うとおりビキニアーマー着用。下はピタピタのズボンをお召しだが、上半身は半裸。


唯一私に扇子を投げつけてきたブロドリック公爵家ご令嬢、アシュリー様だけが普通のドレスをお召しになられている。



いうても私は特権階級のドレスなど知らんが、アシュリー様以外も普通だとしたら、「特権階級の感覚どうなってんだ」と思う。



『くっ……お前は何故貧乳なんだ!牛乳飲め牛乳!!』

「いや、今更いっぱい飲んでもお腹壊すだけなんで遠慮しときます」


アシュリー様以外、皆エロスを前面に押し出しているが、やっぱりキラキラしさは変わらない。

こんだけ露出しているのに出てるのはあくまでキラキラしいエロス。下品な感じがしない。


いっそこの面子に交ざるなら、物凄い地味な格好をした方がかえって目立つんじゃないだろうか。

いやまぁ目立つ必要もないのだけれど。私的には。


(ただ一生恋愛できないっていうのは嫌だなぁ……)


私の青春、出会わないうちに消えていく。儚い。



皆が押し黙って黙々と朝食を食べていく中、ナターシャ様が発言をなさった。



「皆様は将来の展望をどうお考えでらっしゃるの?」


コレは要するに「お前誰狙いだよ?」って話に違いない。

そもそも殿下以外の男性がまだよくわからないので困ってしまうのだが。


エレオノーラ様が厳しい目つきで口角を上げる。


「それは牽制……ですの?ナターシャ様」


ナターシャ様は赤くなってちょっとムッとした顔を隠さない。


「そんなんじゃありませんわ!私……コレはある種の政略結婚だと思っておりますの。相手方はどの方を選んでもそうそうたる面子……嫁げば皆様とも長いお付き合いになるわけですし、できれば穏便にことが済むのが一番だと思いまして。私、まだどなたにも恋などしておりませんから」


「……確かにそれは一理あるわね」

「ふむ、急に“恋に落ちろ”というのが無茶苦茶だしな。それぞれの好みの御仁を聞いておく……というのは吝かではない」


皆がまとまりかけたところにアシュリー様が冷たく言い放った。


「————くだらない。私は失礼させていただくわ」


「「「「…………」」」」


暫く皆その背中を眺めていたが、アナベラ様が一人乗り遅れた私に声をかけてくれた。


「……貴女はどうするんだ?クローディア嬢」

「あっ!私も是非ご一緒させてください!あの……そもそも殿下以外の男性陣がまるでわからないのですけれど、皆様の邪魔にならないようには心がけたいので」


どのみちキラキラしい方々はご勘弁なのだが絡むのは避けられない。

ターゲットを聞いておくのはそれなりに意味がある。


まぁ皆様“誰かに恋をしている”ってわけでもないようだが。




とても幸いなことに皆の好みは被っていなかった。(私はそもそも殿下以外知らんので除く)


ただし見た目の好みに過ぎないので、「交流が始まったらわからないよね」ということで週一で会議を行うことで合意した。

ちなみに恋に落ちた場合は自己申告制。


皆あざとい格好をしている割に、案外合理的。




「ところで皆様、聖獣様とはどんな会話をなさっておいでですか?」



ナターシャ様の聖獣は猫っぽいの。

エレオノーラ様の聖獣は狐っぽいの。

アナベラ様の聖獣は竜のようだ。ちっさいけど。



「なんでそんなこ『何故そんなことをライバル共に聞くか!このカスが!!』」


エレオノーラ様が私に疑問を投げかける前に、葉っぱを食べ終えた毛玉様が私に“ローリングサンダーキック”をぶちかましてきた。


まだご機嫌で草食ってると思って油断していたため、モロに食らってしまった。

不意打ちとは卑怯なり。


『貴様は黙って俺様の言うことを聞いてりゃいいんだ!!』

「毛玉様……お行儀が悪いですよ……」


皆それを見て私の質問の意図が理解できたようで、苦笑しながら答えてくれた。

全員“聖なる乙女”候補の為、他の聖獣の声も聞けるのだ。

……気恥ずかしいことこの上ない。



ナターシャ様の聖獣は、甘え上手で少年のように高い声で『ボク』と可愛らしく喋る。

エレオノーラ様の聖獣は少し舌っ足らずな感じでセクシーに囁くように喋り、一人称は『アタシ』。

アナベラ様の聖獣はあまり喋らなかったが、かなりの低音イケボ。一人称は『吾輩』。寡黙で硬派だという。



「なんだか皆様のイメージと同じですよね……」


その言葉にナターシャ様は可哀想な子を見る目で微笑み、エレオノーラ様は目を逸らし、アナベラ様は眉間に皺を寄せて目を瞑っていた。




————多分、私が死んだ目をして毛玉様を眺めていたからだと思う。


何故私のはコレなのか……私は俺様ではない。


そんなことを思っていたら、まだ朝食が終わったばかりの時間なのに本日二回目の“ローリングサンダーキック”を毛玉様にお見舞いされた。

なにが気に入らなかったのか……全く不条理だ。


閲覧ありがとうございます。


※作注

乙女=候補も含む、“聖なる乙女”の略称。


正しい“聖なる乙女”は既婚。

“聖なる乙女”になれなかった乙女は“聖獣使い”と呼ばれる。


“聖なる乙女”もまた“聖獣使い”と呼ばれるが、“聖なる乙女”になれなかった乙女“を“聖なる乙女”と呼ぶことはない。

“乙女”か“聖獣使い”。

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