やたらとキラキラしいですね。
「あいたっ!!」
投げつけられた扇子は見事私の右手に命中。
クリティカルヒット……なかなかのコントロールだ。
私の右手は赤く擦れた。
……膝小僧には血が滲み、右手も負傷。
バイオレンスな日常を予感させる、のっけから録でもないスタートと言える。
「殿下、そんな下賤の娘に御自ら手を差し伸べるなどなさってはいけません。……貴女も、この方をどなたとお思い?遠慮なさい!」
美人で派手なお姉さんにいきなり叱られた。
(確かこの人は……ええと、やんごとなきご令嬢の一人で顔のきつい……うん、見たままだ。名前が出てこん)
常連客の「いつもの」は覚えられる私だが、王の御前で名乗ったのを聞いただけなので覚えられなかった。
……緊張してたんだから仕方ない。
滅茶苦茶緊張してた私は「自分の名前を噛まないようにしよう」くらいしか考えていなかったのだ。
そもそも私以外は皆、やんごとなきご令嬢だ。しかも皆キラキラしい美女。
王子様も隣の騎士様も、未来の宰相らしい文官様も、やたらと顔が整っていてキラキラしい。
「この国の重要人物顔で選んでません?」と聞きたくなるほど。
益々恋愛ハードルが上がる。
自分より美人の旦那など、あまり欲しいとは思えない。
私の思考が横に逸れる中、毛玉様は毛を逆立てていきりたっている。
お姉さんの隣には大型犬っぽいのがすました顔で立っていた。
多分、聖獣。
……まるで相手にされてないな、毛玉様。
「はぁ、すいません……」
それしか言えない。
流石の私も手を負傷してまで「ナイスコントロール!」とは言えない。
仕方ないので自分で立った。
いや、別にいいんだけど……私の膝小僧、無駄な流血だなぁ、と思うと悲しいような気もする。
「アシュリーちゃん、だからって転んだ子に追い討ちをかけることないんじゃない?」
これまたキラキラしくチャラい感じの男性がそう嗜める。
殿下を含む、男性陣の紹介は細かくされなかったので、彼のことはまず“エリートチャラ男”と覚えようと思う。
「アシュリー嬢、君こそ弁えたまえ!未来の私の花嫁候補だぞ?私が手を貸すのは当然だ。……大丈夫か?あぁ、赤くなって……」
そうお姉さんを叱りながら、殿下は私の手を取った。
「未来の花嫁」に私がなることはないと思うが、確かに現段階では「未来の花嫁候補」ではある。
この状況は私が作った訳ではないが、なんだか優しくされると騙くらかしているようでちょっと微妙だ。
しかしこれで膝小僧も報われる。
それに私は毛玉様に後で煩く言われるのが面倒臭かったので、殿下の優しさは有り難かったしやはり嬉しくはあった。
……ただしそれは一瞬だけ。
横からの殺気に気付いて我に返る。
(これは……確実に今もっと面倒な事態を巻き起こしてしまった!)
壁と化す筈が余計な怒りを買ってしまった迂闊な私。
素早く私は殿下から手を離す。
「いえいえ、そちらのご令嬢の仰る通りで!私の様な下賤の手などご心配には値しません故!!是非ともお早めにお手をお清めくださいませ!では!」
そう捲し立てる様に述べ、毛玉様を抱いて逃げるように立ち去る。つーか逃げた。
“謝る→逃げる→隠れる”。弱い者が生き残る黄金パターンだ。
“謝る→黙ってやり過ごす”というパターンもあるが、毛玉様がそうさせてくれないに違いないので仕方ない。
追いかけて来られては元も子もないので無我夢中で走った。
その為、向かう予定だった自分の部屋がわからなくなってしまうというオマケ付き。
そして人気が無くなると同時に繰り出された、毛玉様からの“ローリングサンダーキック”。
「はぁ……もう散々だよ……」
『このグズが!あのクソ犬を出し抜くチャンスをフイにしよって!!』
「あぁ、見事に相手にされてなかったっすね毛玉様……」
再び毛玉様からの攻撃が繰り出されたが、今度は避けた。
私とて同じ攻撃は食らわぬ。
「うわっ……?!」
「はっ!?」
私が避けたせいで誰かが毛玉様の体当たりを食らってしまった。
「なんだ?このモフモフ……可愛いじゃないか……」
知らないやたらとでかい男性は、突っ込んできた毛玉様をそう言って撫でくりだした。
愛でてくれるなら怒ってはいないだろうと思い、ホッとする。
しかもこの人、イケメンはイケメンだけど普通レベルのイケメンだ。
顔は整ってるけど、地味。
そして「誰が見てもイケメンです」って感じじゃない。
ようやくキラキラしくない人に会えたことにもホッとする。目に優しい。
「あ~、ウチの聖獣様が申し訳ありません……」
「聖獣?このウサギのみたいなのが?ほぉ……」
『ウサギとは失礼な!!あんな歯が伸びる生き物と一緒にするなかれ!』
文句を付けてはいるものの、撫で方が上手いのか毛玉様は満更でも無さそうだ。
『よきにはからえ』とかなんとかぬかしている。
「……名前はなんと?」
「毛……ゲフンゲフン……あ、いえ……“聖獣様”としか」
「いや君の、だ」
「私ですか?あっ失礼……クローディアと申します。……実は迷ってしまいまして」
「やはりそうか。俺は君の護衛騎士に任命された、グレン・ベイル。丁度迎えに行こうと思っていたところだ」
護衛騎士、とな。私の。
あまりの仰々しさに、開いた口が塞がらない。
不思議そうな表情をしたグレン様に「どうした?俺では不満か?」等と尋ねられたが、そういうことじゃない。
「え、なんか私、危ない目に遭うの前提なんですか?」
「いや、君は王子妃候補だぞ?護衛は普通の事だ。もっとも決定がくだるまでは、俺も君にへりくだるつもりはないが……」
「はぁ……ふぅん……普通のことっすか……へぇ……」
「俺も元々は市井の生まれだ……気持ちはわからんでもないが、まぁ宜しく頼む」
「ああいえ、こちらこそ宜しくお願いします。……なるべくご迷惑をおかけしないように……」
私はお手元の毛玉様を見て「します」をほぼ聞こえないくらいの小声で続けた。
…………既に迷惑をかけている。
グレン様は笑っていたが、居たたまれない。
更に居たたまれない事に案内された自室はやっぱりキラキラしかった上、侍女までついた。
「クローディア様、お待ちしてました。私クローディア様にお仕えさせて頂くアリスと申します」
可愛らしくそう微笑む侍女、アリスさんもそこまでキラキラしくないがとっても美人。
……なんだか気持ち悪くなってきた。
この生活、続けられる気がしない。
閲覧ありがとうございます。
ゆるっと更新のつもりですが、とりあえずここまではキリが悪いのであげました。
後はストック放出にしたい……(まだ1文字も書いてないけどね!)