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71.ファルハール









「すみません。銀髪の女顔の男性を見ませんでしたか? 私より少し背が高くて、瑠璃色の瞳をした、無駄に顔立ちが整った、二十代前半くらいの人です」


 リンジーを客観的に表現するとそうなる。リンジーとはぐれたミシェラは、周囲の人に聞き込みをしてリンジーを探していた。アルビオン人だと思って話しかけても別の言葉で帰されることも多かったが、元王女で騎士をしていた彼女は幸い、語学に堪能だった。

 人を探しているというと、いぶかしげな表情をされる。夫なんです、と言うと、納得した表情をされる。ミシェラが十代後半くらいに見えるので、新婚夫婦だとでも思われるのだろう。

 本当なら人探しの魔法でも使えばいいのだろうが、残念ながら、ミシェラは苦手である。もしかしたらリンジーが使えるかもしれないが、この人ごみで使うのは気が引けるだろう。

 結局、人に聞くのが早い気がした。そうすれば、ミシェラの印象も残るだろう。彼女は特徴がない顔立ちをしているが、これだけいろんな言語で人探しをしていれば、さすがに目立つ。


『おーい、そこの金髪のお姉さん!』


 異国語で声が上がった。大陸の言語だ。何人かその声のした方を見たが、すぐに興味を無くしたように視線をそらす。ミシェラも視線をそらしてリンジー探しを再開しようとしたが、肩をたたかれた。

『お姉さんだよ。僕の言ってること、わかる?』

『……ええ。わかるわ』

 いろいろと突っ込みたいことはあるが、ミシェラはとりあえずうなずいて同じ言語で返した。声をかけてきた彼はにっこりと笑う。

『よかった。お姉さん、年齢の割に落ち着いてるね』

『……』

 二十代半ばくらいだろうか。こげ茶色の髪に濃い瞳の色をした、顔立ちのはっきりした青年だった。大陸の内部……それこそ今探しているペルシス帝国の民族衣装を着ている。


『お姉さん、銀髪のお兄さん探してるんだろ。それらしい人もお姉さん探してたよ』


 一応リンジーも聞き込みをかけていたらしい。ミシェラは『どこにいるの?』と彼に尋ねた。案内してくれるつもりのようで、手招きされる。平均的な身長のミシェラは、見失わないようにあわてて彼について行った。

 広場中央の噴水に腰かけ、リンジーはボーっとしていた。容姿が整っているのでちらちらと見られているが、彼はあまり気にしていないようだ。

「リンジー!」

「おお、ミシェラ」

 ミシェラが走り寄ると、リンジーが立ち上がって抱き留めた。ミシェラもギュッと抱き着いた後、振り返ってここまで連れてきてくれた青年に礼を言った。

『どうもありがとう』

『どういたしまして。ところで……』

 青年はミシェラとリンジーを交互に見る。


『二人はいわゆる魔法使い、だよね』


 ミシェラはリンジーを見上げた。リンジーもミシェラを見下ろす。それからリンジーは微笑んでミシェラを抱き寄せると、言った。

『一緒にお茶でもいかがかな。世話になったので、礼もしたい』

『ぜひ』

 間髪入れずに青年はうなずいた。手近なカフェに入る。貿易港の街なので何でもそろっているが、紅茶を注文した。青年はコーヒーを頼んでいた。

『君は先ほど、私たちは魔法使いか、と聞いたな。その答えの前に私からもひとつ聞きたい。君は最近ここいらで魔術師について聞いて回っているというペルシスの者か?』

 リンジーの直球な問いに、青年はあっさりとうなずいた。

『ああ、知ってたんだ。僕はペルシス帝国から来たもので、ファルハールと言います。どうぞよろしく』

『なるほど。私はリンジー、こっちはミシェラだ』

 ミシェラもぺこりと頭を下げる。そしてリンジーは決定的な言葉を放った。


『そして、私も彼女も、魔法使いではある』


 その『魔法使い』という言葉がどこまでを指すかにもよるが、二人は魔法使いではある。どちらかと言うと魔術師と言われることの方が多いが、『旧き友ウィタ・アミカス』を魔法使い、と呼ぶ人もいる。

 彼がどういう意味での『魔法使い』を探しているのか。普通の魔術師か、それとも、長寿の魔力を持つ者と言う意味か……。

『ああ、良かった! やっと見つけた!』

 ほっとしたようにファルハールは喜んで見せた。リンジーとミシェラは顔を見合わせる。

『この国でも魔法使いは珍しいよね? アルバートっていう魔法使いを知らない?』

『……いや、アルバートってこの国で一般的な名前だからわからない』

 ミシェラが答えた。対象人数が多すぎるのだ。もっと特徴を言え。

『えーっと、銀髪に青い目をした無表情な美形。背が高いね。あと、自称五百うん歳』

『……』

 自称五百うん歳かは知らないが、何となく聞き覚えの多ある特徴だ。


『銀髪って珍しいでしょ。リンジーは知り合いかなって思ったんだけど』


 いや、確かに初見でミシェラも似たようなことを言った気がする。リンジーがミシェラの腕を引っ張った。

「ミシェラ」

 ペルシス語ではなくアルビオン語でリンジーが話しかけた。

「私にはとても聞き覚えがあるんだが」

「奇遇だね。私もだよ」

 たぶん、ミシェラが倒したやつだ。もう一年近く前の話だが、まさかこんなところで話を聞くとは……。いなくなってもいろんな方面からつついてくるやつだ。

『心当たりはあるけど、一年くらい前に亡くなってる』

『わーお』

 驚きの声を上げはしたが、ファルハールはショックではなかったようだ。

『まあ、あれだけやらかしてる人ならどこかで殺されても不思議じゃないけど……』

 どうやら、ペルシス帝国でもいろいろとひっかきまわしていったらしい。そして、錬金術大国ペルシス帝国から霊薬エリクサーを盗んで逃亡した。その先がアルビオンだったらしい。

 まあ、外見がアルビオン人っぽくはなかったので、もっと北の出身なのかとも思っていた。いや、それもやはりどうでもよいことだ。


『そもそも、何故あなたは彼を探しにアルビオンまで?』


 ミシェラが尋ねると、ファルハールは力なく笑った。

『まあ、こんなところで話すことではないんだけど、我が国と国境を接しているルーシ帝国の動きが怪しくて、不老不死の研究をしているらしくって』

 不老不死と言えば錬金術であるが、そのためペルシスに侵攻しようとしているということか? そして、不老不死ではないが、不老長寿と言えばアルビオンで言うところの『旧き友ウィタ・アミカス』である。

『さんざんやられたから、見つけ出してルーシに差し出してやろうと思ったんだけど』

「……」

 壮大な計画である。首をかっ飛ばしたミシェラだが、捕らえることは難しかったと思う。


『君たちみたいな魔法使いを公式に認めている国は少ないよ。他には僕の国とかだけど。ルーシはこの国にも興味を持ったみたいだよ』


 質問に答えた礼のつもりか、ファルハールはそんなことを言った。確かに、ルーシ帝国は最近勃興した大陸の国である。敵対しているペルシス帝国ならともかく、アルビオンなら確かに警戒が薄くて簡単に入り込めるかもしれない。そして、『旧き友』を狙っているとしたら。

『何なら手を貸すけど』

『いや、いいよ』

 ファルハールの申し出を断り、ミシェラとリンジーは顔を見合わせる。それから最後に尋ねた。

『ファルハール、何故私たちが『魔法使い』だと思ったの?』

『んー……雰囲気、かな。僕は錬金術師だけど、君たちはアルバートと雰囲気が似てる』

 納得できるようなできないような、複雑な気持ちになった。










ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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