40.アルビオン内戦
昨日は間違ってもう1つの話の最新話を投稿していましたが、今日はちゃんと旧き友です。
初めて間違えました。ちゃんとチェックしないとダメですね…。
転移した先は、緑広がる山の中腹だった。夏だが、気温は低く、時々吹く風が冷たい。ミシェラは転移した瞬間に膝をついたリンジーを気遣う。
「大丈夫?」
「ああ……すまんな」
リンジーは杖にすがって立ち上がる。その杖は銀色をしていて、つまるところミシェラのものだった。ミシェラのものを、リンジーに貸したのである。
そのミシェラはというと、紫衣の戦闘服に明らかに魔力がこもっているとわかる剣を帯びていた。はっきり言って、『旧き友』の恰好ではない。だが、彼女は今日これで押し通すつもりである。
「来ると思っていた」
そこにいたのは、青みがかった銀髪の、背の高い男性だった。彼が『無』か。というか。
「リンジー……親戚?」
「お前、結構余裕だな」
シルバーブロンドなんてめったにいないと思っただけなのだ。いい感じに肩の力が抜けたところで、ミシェラは剣の柄に手をかけ、刀身を引き抜いた。
△
ミシェラとリンジーがニヒルと相対する約一日前、二人は作戦会議中だった。事がハイアット城を巻き込むことなので、エルドレッドやイーデンなど、中核を担っている人物を集めてきていた。ほとんどみんな、気が付いたらそうなっていた人たちばかりだけど。
「エル、イーデン。私はリンジーと魔術師を倒しに行ってくるわ」
ミシェラの言葉に、二人とも、ああ、うん、とばかりにうなずいた。
「そう言うと思った」
「気を付けて行って来いよ」
二人とも気楽なものだ。ちなみにここはエレインの眠っている部屋で、傷ついて今も目を覚まさないエレインがそこにいると言うのに、心配もしない。まあ、されても怖いけど。
「でも、エレインとリンジーの二人がかりで倒せなかったんだろ。ミシェラとリンジーで倒せるの?」
最近この部屋に入り浸っているエイミーが、ギャレットの首のあたりをもふもふしながら言った。ランスロットは、エレインの枕元で丸くなっている。彼の起きている時間も短くなってきた。エレインは、もうそう長くは持たないだろう。
「魔術師としては、かなわないだろうね」
ミシェラは落ちつて言った。エルドレッドが「おい」とばかりに声を上げる。
「消極的だな。いまだかつて負けたことがないジェネラル・エイリーンじゃないのか」
「勝手に周りが言っているだけでしょ。私は負けたことがないんじゃなくて、負ける戦をしなかっただけだ」
「それ、どう違うんだ?」
エイミーも首をかしげる。話がそれていく。
「勝てる状況でしか戦わなかったってこと」
「お前、十六のころに死にかけなかったか」
「戦術的勝利なんていくらでもくれてやる! そうじゃなくて、私は魔術師としては二流だけど、騎士としてはそこそこだってこと」
何とか強引に話を戻した。イーデンが首をかしげる。
「むしろ、お前より強いやつを連れてくる方が難しいだろう」
どいつもこいつも、人をなんだと思っているのだろうか。ついにリンジーまでもが言った。
「もしかしたら、ミシェラは魔力を魔術を使うことではなく戦闘力に変換しているのかもなぁ」
「……話、続けていい?」
「どうぞ」
許可をもらったところで、ミシェラは話を進めた。
「エレインとリンジーが彼を倒せなかったのは、魔法同士の戦いだったからだと思うの」
人数的にはエレインとリンジーの方が有利だが、その魔法性質上、リンジーは支援魔法を使っていただろう。魔法対魔法なら、より魔法に造詣が深い方が勝つ。総合的に判断して、ニヒルの方が二人を上回っていたのだろう。二人いると言うことは、ある意味隙が生まれることでもある。
「なら、戦う方法を私たちが有利な方に持っていけばいい。『旧き友』がいかに丈夫と言えど、首を落とせば死ぬんだからね」
「……」
周囲が沈黙した。少し離れて話を聞いていたエイミーだけが、ギャレットに抱き着くと言う緩い恰好で尋ねた。
「つまり、ミシェラが剣で魔術師の首をかっ飛ばすってことか」
「そうだね」
魔術では勝てない。なら、得意な剣術の方へ話を持っていけばいい。正攻法で駄目なら卑怯と言われようとも奇策を用いるしかないのだ。
「……私は今、君が負け知らずだった理由がわかった気がする。発想の転換だな。必要とあれば、自分の大切なものでも切り捨てるのか」
イーデンが十代後半ほどにしか見えないかつての同級生を見て言った。ミシェラは何も言わなかったが、たぶん、彼の言うことは正鵠を射ている。
「では、私は魔法面を担う必要があると言うことか」
「あ、うん。エレインの杖借りていく? 私もたぶん使わないけど」
「そうだな。お前のものを借りよう」
「……冗談のつもりだったのだけど」
ミシェラの杖は銀製だ。長さがあるのでそれなりの重量があるし、リンジーたちの木の杖とは使い勝手が違うだろう。
「エレインのやつの方が使いやすいんじゃない?」
「そうかもしれないが、お前の杖には別の良さがあるな。初めから魔法が用意されているのがよい」
「……うん。それは私が二流魔術師だからだね」
ミシェラは魔術師としては二流。手続きを踏めば、いくらでも大魔術と呼ばれる魔法を使えるが、タイムラグがある。その時差を少しでもなくすための、杖に仕込んだ魔法陣なのだ。
「私の魔法の本質は蜃気楼。幻影と反射なんだ」
つまり、自分で魔法を編むより、他人の魔法を使った方が使いやすい、と言うことだろうか。通常、魔術師の杖は魔法をコントロールする指揮棒である。その原則をまるっきり無視しているミシェラの杖であるが、リンジーがいいなら、いいか。
「エレインの杖は、この城の保護魔法に使おう。お前も私も出てしまうのだからな」
それもそうだ。誰かこの城の保護魔法を保持するものが必要である。前の時は、エレインが権利を持ったまま出て行ったが、今回、ミシェラもリンジーも力を出し切らなければならないだろう。誰かに権利を譲っていく必要がある。
エルドレッドに任せていくこともできるが、ミシェラですら細い維持が精いっぱいだった。ミシェラより魔力量の少ないエルドレッドに押し付けるわけにはいかない。なら、この土地と親和性の高いエレインに任せる。彼女は意識がないが、杖を媒介にすれば不可能ではない。
その時、窓ががん! と何かでたたかれた音がした。窓はガラスであるが、強化魔法のために壊れることはなかった。ミシェラが指を振って窓を開ける。スーッと入ってきた猛禽類に向かって、立ち上がった彼女は腕を伸ばした。
「お帰り、ヴィヴィアン……っと」
ミシェラの使い魔ヴィヴィアンが帰ってきたのだ。彼女が括り付けられている長細い物体のものの重量でミシェラは少しよろめいた。リンジーがその名が細いものを取り外す。ミシェラは「お疲れ様」とヴィヴィアンを撫でる。
「ミシェラ、ジェンナからだ」
「ジェンナから?」
ジェンナは同胞『旧き友』であるが、しばらく会っていない。たぶん、カイルが亡くなった時に会ったのが最後だ。リンジーは布袋から取り出したものをミシェラに手渡した。
「わあお」
「剣だな」
『旧き友』、創造の魔術師が作った聖剣だ。
「『必ず討ってこい。我らにまでまわしてくれるな』だそうだ」
「あの人、私が剣を使うと思ったのね……」
魔術師なのに。リンジーが読み上げたジェンナからの手紙を聞いてミシェラはため息をついた。ミシェラは彼女らに脳筋だと思われていそうだ。全部は否定できないけど。剣を見つめながらミシェラは言った。
「明朝、出発しようか。魔力の回復を待っていたら、機先を制されてしまうわ」
ミシェラがやっと半分、リンジーが三割と言ったところか。だが、回復を待っている時間はない。
「イーデン、病院の方をお願い。エルは防衛の方をお願いね」
「了解」
「わかった」
イーデンとエルドレッドがうなずいた。そうと決まれば。ミシェラとリンジーはほぼ魔法の権利をエレインに移行し、よく眠ることにした。少しでも魔力が回復すればよい。
そして今、ミシェラとリンジーは無に対面していた。彼を探し出したのだ。
彼は、その名が指し示す通り、無、だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
いや、初めて投稿小説を間違えました。
今後気をつけようと思います。
たくさんの方からご指摘をいただいて…作者はこんな感じの緩い奴なので、バンバンご指摘ください…。