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4.ニコール・ローガン

相変わらず医学知識が微妙ですが、この世界ではこうなのです、ということで読み流していただけると。











「アリシア!」


 叫んだのはブレンダンだが、頽れかけたアリシアを抱き留めたのはミシェラだった。彼女はエルドレッドに叫ぶ。

「エル、そっちの魔術師お願い。呪いを解除させておいてよ」

「それ、お前の方が得意だろうが」

 と言いながらも、エルドレッドは魔術師を引き受けた。ニコールがおろおろとしていると、彼女にもミシェラから指示が飛んだ。

「ニコール! 悪いけど、お兄さんをソファに移動させてくれる?」

「あ、はい!」

 不思議なもので、やることを指示されると人間動ける。ニコールはバーナードに手を貸して立ち上がらせる。たぶん、彼がいるベッドにアリシアを寝かせるのだろう。ミシェラがアリシアを抱き上げていた。


「貴様、アリシアに……!」


 ブレンダンが言い募ったが、ミシェラは彼を人にらみして終わった。エルドレッドに捕まったままの魔術師が笑い声をあげる。


「あはは。彼女が僕の思っている通りの魔術師なら、僕なんかよりよっぽど腕のいい魔術師だよ。せっかく診てくれるっていうんだから診てもらえばいいじゃん」


 信用した魔術師にまでそんなことを言われ、ブレンダンは迷っているようだった。ソファに兄を座らせたニコールに、さらにミシェラから指示が飛んできた。

「ニコール、もう一ついいかしら。私の鞄を取ってきてくれない?」

「か、鞄?」

「そう。黒い四角の。診療鞄なの」

「ああ、はい!」

 エルドレッドが持ってきたやつだ。もともとはミシェラのものだが、彼が医師だと偽って入ってきたから。ニコールはミシェラが使っている客室に入ると、その鞄を持ちだした。

「これですよね」

「それよ。ありがとう。悪いわね、こき使って」

「いえ……」

 この状況で笑えるミシェラはすごいと思う。ミシェラは診療鞄から小型の魔法電灯を取り出して、ベッドに横たえたアリシアの口を開かせるとその喉の奥をのぞいた。


「うーん、大丈夫そうね……アリシアさん、胸が苦しい?」

「い、いきが……っ」


 訴えようとするが、呼吸がままならない様子。ベッドの側で、ニコールははらはらと見守る。この緊急事態に、ミシェラがのんびりし過ぎているように見えたのだ。


「呼吸困難と言うより、呼吸不全かな? 酸素吸入が一番いいのだけど」


 などと言いながらミシェラは注射器を取り出した。注射が苦手なニコールは思わず目をそらしたが、ミシェラはアリシアに注射を打ったようだった。

 そのまましばらく様子を見ていたが、アリシアの呼吸が落ち着いてきた。ニコールはほっとする。ブレンダンもほっとしたようにその場に座り込んだ。


「今、何を……?」


 ニコールが尋ねると、ミシェラは言った。

「今打ったのはただの栄養剤だね」

「え、栄養剤?」

「ええ。安定剤も入ってはいるけど」

 さっぱり訳の分からないニコールであるが、ミシェラは笑って「大丈夫よ」と言った。

「治らない病気ではないわ。エル、そっち、手伝いましょうか」

「いらん。お前は患者を診ていろ」

「あら、ありがと」

 ミシェラがからりと笑った。


 ニコールがはっと目を覚ますと、兄バーナードが監禁されていた部屋のソファで横になって眠っていた。起き上がってみると、ベッドの側の椅子にミシェラが座っていた。

「ミシェラさん?」

「……ん? おお、ニコール。おはよう」

「おはようございます……もしかして、ずっと叔母様についていたんですか?」

 ニコールが尋ねると、ミシェラは「いや?」と首を左右に振る。

「今、寝てたね」

「……そうですか」

 そう言うことをきいたのではなかったのだが、まあいいか。

「良く寝ていたから起こさなかったのだけど、あなたは大丈夫?」

「え、ええ。はい」

 体調のことを聞かれたと思ったニコールはうなずいた。ミシェラが苦笑する。

「あの魔術師、自分の魔法の解除方法がわからないみたいでねぇ。あなたの呪い、解くのに時間がかかりそう」

 そう言われて、ニコールははっとした。

「あ、あの、兄は!!」

「ああ、バーナード? 彼は足の機能が低下していたけれど、こちらは私の治癒魔法で何とかなるから、問題はあなたね」

 さらりと言われて、ニコールの頭を言葉の意味が通過するのにちょっと時間がかかった。しかし、バーナードの足が治るのだと理解して、心からほっとした。


「良かった……!」


 その言葉に、ミシェラは優しい表情で微笑んで見せた。


「あなた、いい子よねぇ」


 優しい表情でそんなことを言われ、ニコールは赤面した。見た目は自分より年下に見えるが、おそらく、ミシェラはニコールより年上であろうと、何となく察してはいるが、それでも十代後半ほどにしか見えない女性にそんなことを言われて、何となく照れてしまったのだ。


 アリシアがベッドの上で身じろぎした。ニコールもミシェラもその視線がアリシアの方に向く。

「あ、あら……私」

 アリシアが戸惑ったようにミシェラとニコールを見比べた。ミシェラは小首を傾げて笑う。

「おはよう、アリシア夫人。具合はどう?」

「……大丈夫ですわ、先生ドクター

「おや、私、自分が医師ドクターだと名乗ったかしら」

「名乗っていらっしゃいましたわ」

「そうだったかしら」

 ミシェラは首をかしげたが、思い出せないのであきらめたようだ。彼女は椅子に座ったまま足を組むと、アリシアに「いくつか質問させて」と言って、実際にいくつか彼女に問いかけた。

「なるほどねぇ。あなたのは、呼吸困難と言うより呼吸不全だと思う」

 突然そんなことを言いだすので、ニコールもアリシアも首をかしげたが、ミシェラは構わずに続けた。


「おそらく、アリシア夫人は内臓機能が弱まっているのね。呼吸が苦しくなったら、酸素吸入が一番手っ取り早いのだけど、まあ、他には栄養療法かしら。消化器官が弱っているから、食欲がないのね。でも、少しでも栄養のある食事を心がければ、呼吸はだいぶ改善すると思うわ」


 まあ、病状は個人によって違うから断言はできないけれど、とミシェラは簡単な解決方法をアリシアに提示した。彼女とニコールは目を見開く。

「誰にもわからなかったのに……」

「内臓の病は、見落としがちだからねぇ」

 と、ミシェラは過去のアリシアを診察した医師をかばうように言った。彼女自身も、今回は気づけたがいつもこんなに上手くいくことはないのだと言う。

「私、もともと外科医だしね」

 と言うのが彼女の主張である。しれっとそんなことを言う彼女に、アリシアは首をかしげて見せた。


「私、どこかで先生ドクターにあったことがあるでしょうか?」


 不思議な既視感に襲われたのだと、アリシアは述べた。ミシェラは笑って答えた。

「あるかもね。おそらく、同世代だろう」

 そう言ったミシェラの表情は大人びて見えたが、さすがにアリシアと同世代、と言うのはありえない気がした。


 もう一度アリシアを診察し、問題なしと結論付けたミシェラは、食欲があるのなら食事をとるように勧めた。アリシアはあまり食べたくなさそうだったが、先ほどミシェラに言われたこともあるので勧めに従って食堂に降りることにしたようだ。ニコールも空腹だったのでそれに続く。

 食堂ではバーナードとエルドレッドが何やら話し込みながら食事をしていた。ニコールたちが入ってきたのを見てバーナードが微笑む。

「おはよう、ニコール。叔母上も、もういいの?」

「ええ。ありがとう」

 アリシアは微笑んでそう言ったが、夫のブレンダンがいないことについては何も言わなかった。

 それにしても、他人の家でもエルドレッドもミシェラも遠慮がない。招かれることに慣れているのだろうと思う。


 朝食を終えた後、ミシェラが料理長と話し込んでいた。たぶん、アリシアに提供する食事を提案しているのだと思う。

「お兄様、足は大丈夫なの?」

「うん。ミシェラ先生、すごいね」

 ニコッと笑ってバーナードが言うので、ニコールもつられて笑った。あとで歩いている姿を見たが、本当に大丈夫そうなのでほっとした。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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