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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

静止世界

第一話

作者: 六藤椰子〃

もし仮に自分が突然一人になったとしたら、と何度か考えた事があり、それを基にして小説化してみました。


主人公の性別は読者の判断にお任せします。

 僕は最初、その事について一切気づかなかった。

自然過ぎたからだ。僕は今や自由の身だ。むしろ、自由過ぎると言っても過言ではないだろう。

予め断っておく。もし、僕のこの書き留めたものを読んでくれる者が現れたら、もしくは居たとしたら、僕に連絡をしてほしい。住所は357-1989だ。電話番号など詳細については実際に会ってから直接話そう。僕はここにいる。ここにしか居られない。もし移動するような事があれば、この住所の場所に移動先を書いておく。限られた場所までしか行けないからだ。僕ほど無能な人間など他にいないだろう。

先ず僕の事について、経緯について書いてまとめておく事とする。読んでくれる人がいる事を願いつつ。


 ある日の出来事だった。それは突然に発生した。

朝起きると、いつもより静かだった。スズメの鳴き声も、カラスの鳴き声も、一切聞こえない。道路からも何も聞こえないのだ。僕はその異常事態に気づかなかった。むしろ、気づけなかった。その日、珍しく早起きした僕は、いつもよりマイペースに学生服に着替え、居間へと向かった。玄関には父親の通勤鞄が置いたままだった。キッチンには弁当が置いてある。父親と僕と妹と弟の分だ。作り終えてある。僕はそれを鞄に入れて、そのまま学校へと向かった。

いつもはうちの前にいる近所の家の番犬が五月蠅かったハズだが、吠えてこない。静かだった。僕は気にせず自分の自転車に乗り、いつもの道を行く。遅刻はしない。友人達のビックリした姿が目に浮かぶようで、僕はにやにやしながらそのまま向かう。しかし何か不自然、そんな気がした。電車の音が聞こえない。人が見当たらない。少し不安になった。偶にはこんな日もあるだろう、と自分に思い聞かせた。

やがて何事もなく学校へとたどり着いた。門が閉まっている。早く着きすぎてしまっただろうかと学校の時計を見た。7時になったばかりだった。

開門するまで暫く待つ事にした。しかし、数分経過しても一向に開く気配が感じられない。校庭内も静かだ。人の気配がしない。僕は門を勝手に開ける事なく、暫く待ち続ける事にした。

二十分頃が経過した辺りで、僕は曜日を確認してみる事にした。今日は月曜日、のハズだ。祝日を平日と勘違いしてきてしまったのかと思い、とりあえず学校付近にある書店に行く事にした。

書店のシャッターはまだ開いてなかった。今日は休みなのかとため息を吐く。時間潰しをするべく、コンビニまで行く事にした。コンビニまで行く道の途中でバックを見かけた。落とし物だった。先ほどから落ちていたのだろうが、僕はそれに目にも留めずスルーして行ってしまったのだろうと思い、中身が気になった僕はそれに手を差し伸べた。

 「誰かの通勤用の鞄か…」と僕は中身をサッと確認した後、つぶやいた。財布も入っていて、中身を確認したが理解こそは出来なかったものの、書類もあったからだ。財布の中身には金銭的なものは入っておらず、クレジットカードや身分証明書など、カードばかりが入っていた。

僕は時間もまだあると言うことで、交番まで届ける事にした。学校から駅はチャリなら数分で着ける。行くまでに人が見つける事は出来なかった。なんだか少し不安になりつつも、僕は交番へと入る。警察の人も見当たらず。僕は「すみません」と大声で言ったが返事もなく、かといって暫く待ち続けても何もなかったので、僕はとりあえず学校の時間になると思い、先ほど拾った鞄を交番内の机の上に置いて、学校の方へと戻って行った。

しかし、門は相変わらず閉まったままだった。いつもなら学級委員長が毎朝7時50分には学校に着いてると本人から聞いていたのだが、その時間になってもくるような事もなく、今日会ったらウソだって事を暴露してやると思っていた。

が、学校の教師も門を開けるべく出てくるような事もなく、他の学生達も姿を見せるような事もなかった。

おかしい、と僕は思い、とりあえず母親に電話をかけようとしたが、出る気配もない。僕はとりあえず家に帰る事にした。

 帰り途中、人がいないか探しながら進んだのだが、見当たらない。焦った僕は駅に向かう事にした。

電車が駅に停まっていた。助かったと安心したが、動き出すような事もなく、再び不安に襲われた。僕は駅員に話しを聞こうかと改札口まで行った。人がいない。おそるおそる辺りを見回してみる。

駅内にある売店、シャッターは閉まったままだ。駅の電気はついている。不安になった僕は再び電話をかけた。弟、妹、友人、バイト先の仲間…。とにかくかけた。しかし、出ない。何度も何度もかけなおした。コール音が駅内で鳴り響くだけで、僕は焦って駅から出て、自転車に乗って自分の家にまで帰った。

父親の通勤鞄が玄関に置かれたままだった。朝から特に何も変わりがない。

「おふくろ!おやじ!リナ!ヨーヘイ!」僕は必至に家族の名前を叫んだ。部屋にも入った。しかし、そこには居ない。キッチンには作り終えた全員の分の弁当が置いてあるだけで、冷蔵庫の中身を確認したが、昨晩からなんら変化した様子もなく、テレビを付ける事にした。同時にSNSのアプリも起動した。テレビでは誰もいないニュースが放送されているだけで、ネットでは朝5時半頃に更新が止まっていた。有名人も、それ以降は一切呟いていないようだった。

僕は思わず咄嗟に、『誰かいないのか』とつぶやいた。返信はない。友人達がイイネをするような気配もない。いつもならしてくれる友人も、無反応だった。友人にリプを何度か送ってみる。しかし反応がない。僕は自室に戻り、ゲームを起動した。遠いオンラインゲームの友人なら、反応がくるかもしれない、と内心不安になりつつ焦りながら、そう考えたからだ。

オンラインゲームは稼働した。しかし、そこにも人はいなかった。ランダムマッチで対戦相手を探してみる。タイムアウトしてエラーになった。僕は目の前が真っ暗になったようだった。

自分のベッドにもぐりこみ、暫く震えていた。これは夢なんだ、と自分に言い聞かせる。早く目が覚めろと大声で叫んでみる。自分の頬を抓ったりしてみる。痛いだけだ。布団の中に入ったまま過ごした。

 いつの間にか眠ってしまったらしく、ふと目覚めるとお昼過ぎになっていた。居間へとおそるおそる向かってみる。しかし、今朝の状態のままだった。何も変わりがない。唖然と立ち尽くした。

お腹の音が鳴る。僕は弁当を食べる事にした。空腹感は思った以上に満たされなかったのだが、キッチンにあったほかの弁当は、今後食べる食事として冷蔵庫に閉まっておく事にした。テレビのチャンネルを回してみる。誰も映っていないニュース現場が映し出されているだけだった。CMに切り替わる事もなく、本来居座ってニュース解説しているハズの机のところにはキャスターすらおらず、無音のまま映し出されていた。まるで動画サイトみたいに、動画が停止されたままのものもあった。最初驚いたが、CMなのだろうと発覚した。

僕はスマホを充電しながらインターネットを閲覧してみる。朝五時半以降は何ら更新もない。ニュースの記事も、依然として呟きも、イイネも返事も、何も変化もない。ふと、これは僕だけなんだろうなと思い、スリルを味わってみたい好奇心に襲われ始めた。

普段行かないような場所にも行けるんじゃないか、と僕は次第に高揚感が高まってきたのだ。ドキドキしてるような、ワクワクしてるような、人がいるか確認の為だと自分自身に言い聞かせ、僕は自分のリュックサックに懐中電灯、父親の弁当、替えの電池、いざと言う時の為の木刀、スマホと充電器、そして自分の財布を入れて自転車に乗って出かける事にした。

 真っ先に目が向いたのは、近所の家だった。番犬のいる家だ。

庭に侵入してみる。もし、僕の他に人がいたらと思うと内心ドキドキしていた。しかし、番犬そのものも、いつも入っているハズの小屋にもおらず、玄関に入ろうとしたら、鍵が閉まっていた。当たり前と言えば当たり前かもしれない。チャイムを鳴らしてみる。ノックもしてみた。無反応だった。窓が開いてないか確認してみる。全て閉まっている。まるで外出しているかのようで、逆にホッと安心した。

もし中に人がいたとして、泥棒呼ばわりされたらどうしようかと不安でもあったからだ。家の捜索は危険だと感じ、とりあえず周辺の家はチャイム鳴らしたり、ノックしたりするだけで終わった。度胸がないと言われてもかまわない。それほど、犯罪にまで手を染めたくないと言う理性があったからかもしれない。

 次に僕は、飲食店に入ろうとしたが、全て閉まっていた。ふとインターネットで五時半以降は更新されていない事を思い出す。もしかしたら五時半に何かが起こって、それ以降の時間はそのまま止まったままなのかもしれないと言う結論に至った。僕はとある有名な大型掲示板のホームページで近状を報告しつつ、開いているお店がないか探してみる事にした。

どれもコンビニばかりだ。チャリ屋の空気入れを借りて準備万端にさせ、僕は様々なお店の裏口を探してみる事にした。殆どどれも鍵が掛かっていて開けられず、防犯カメラがないような、裏口の扉が開いてあるお店を必死に探した。その時だった。

とあるお店の駐車場にドアが開いたままの車を発見したのだ。周りに人がいないかを確認し、僕は車の中の様子をうかがった。人はいない。車のキーは差しっ放しで、車が運転出来るような気がして、中に入り込んでみる事にした。車のキーをここに差し込む事は知っている。しかし、アクセルが分からない。

車が動く気配もなく、運転の仕方は分からずじまいだった。僕はドアを開けて、車の運転を諦める事にした。クラクションを鳴らすだけ鳴らしてみる。クラクションの音だけが鳴り響いた。

僕は何かが少しだけ、開放されたような気持ちになった。意を決して裏口が開いていたデパートの裏口まで入る事にしたのだ。

 薄暗く、何か生き物がいたらどうしようかなとビビりつつ、懐中電灯をつけて進んだ。薄暗い広間はこんなにも恐怖心を抱くのかとドキドキしながら進んでみる。電気のスイッチの場所も分からず、懐中電灯だけを頼りに辺りを見回す。

時刻的には昼間のハズが、夜みたいな暗さだった。無音で、何かが他にいるんじゃないかと言う恐怖。暗闇のせいか、お店の中はより広く感じた。食べられそうなものを漁る。パン、ジュース。一応レジにお金を置いておいた。表から出る事も出来ず、結局僕は裏口からまた出て、食材などは確保した。外に出る頃にはもう15時を過ぎていた。近所にある公園へ寄ってみる。

ベンチに座ったが、子どもや、その親がいなかった。いつもなら、ここの公園で遊んでいるハズだと思いながら空を見上げた。雲ひとつもない晴れ間だ。神様がいたとしたら、助けてほしいと言う願いも少なからずあったが、その願望も叶わず、太陽だけが僕を照らし続けていた。

 何故僕だけが残ってしまったのだろうかと頭をフル回転させて考えてみた。が、理由も、原因も突き止められなかった。分からなかった。何故、朝の五時半と時間から…と言う疑問にもあった。僕は線路に沿って都内の方まで自転車で進む事にした。正直走りづらかったが、もしかしたら何かあるかもしれないと言う考えに至ったからだ。

線路をそのまま真っ直ぐ進む。駅と駅との間隔が、線路沿いに進むのと比べて速めに感じられた。

電車も駅に停まったままで、電車の中を捜索したが人々の鞄が置いてあるだけで、人がいるような事はなかった。やがて夕方ぐらいの頃に終点にまでたどり着いた。奇跡的に走りっ放しだった電車には遭遇しなかった。恐らく反対側の車線の終点には、あったかもしれないし、なかったままかもしれない。電車も運転しようと一瞬考えたが、全く分からず、事故るのも嫌だと考え、僕はラジオ局をマップで検索し、目的地と設定し、そこまで向かう事にした。

 僕は明日になってから探す事を決めてホテルを探し出した。鍵すら掛かってない開いている部屋を探し出して、そこに勝手に入って一休みする事にした。

何も聞こえない寂しさのあまり、僕はふと思い出し、ベットに横になり、自分のスマホで予めダウンロードしていた音楽をかけた。音楽だけが、唯一心をいやしてくれる存在になっていた。

人の声が、聞こえる。人が歌っている。僕とは違う他人の、僕とは別人の声が流れている。不意に涙が溢れ出てきた。不思議と声は出なかった。涙を流しながら掲示板に近状を書き込んだ。反応は依然としてない。かといって、新しい書き込みもされている訳もなく、僕は孤独がこんなにも恐ろしいものだとは今まで一度も感じた事がなかった。

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[気になる点] 一話ごと短編で区切るのは、そういう表現方法なんでしょうか。 [一言] 不思議な感じのする文章です。 先が気になります。
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