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魔王様にクソリプ飛ばすのやめてください! ~イジられ系美少女魔王、SNSから始める人間界征服計画~  作者: 殻半ひよこ
第四章:劇場版ヴィングラウド 魔王様、出来たらでいいんで人間界を救ってください!
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4-15/敏腕策略プロデューサーカズタモP



 アウラルバ山頂にてまばゆく炸裂した、エンジェル・ドロップ・キック。

 先程のあれは、召喚呪文は召喚呪文であったのだろう。だが、術者が未熟だったのか、魔力不足か、”魔界から王を招く”ようなものではなく、“混沌を通じてモノを取り出す”程度のことしか出来なかったのだ。


 人形から大量に溢れ出していた“一見瘴気っぽい闇”も、大天使の追突を受けて、それは呆気無く掻き消えさせる。……本当に、徹頭徹尾、演出の偽物であったらしい。

 何もかもが嘘で偽り、幻な――天使を、驚かせて、自分から逃げ帰らせる為の、お粗末な策。


「嘗めッ! てッ! くれましたわね、この私を! こんなつまらない小細工、策略、子供騙し、憤怒(ふぬ)ッ、憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)憤怒(ふぬ)ッ!!!!」


 がつがつと踏みつけられる人形は、しかし頑丈さだけは頭抜けているのか、それとも鬱憤を晴らすために加減されているのか、あるいは“魔族研究者”が拠り所とするものをわざと殊更にいたぶって弄んでいるのか――ドゥヴィキエルは、先程の狼狽を隠そうとするように、魔王の模造を、夢中になって足蹴にし続ける。


「だいっ! たい! なんですの、このデタラメ魔王! 最後に討伐されたまでの歴代の誰でもない、見たことも聞いたこともない! ああ嘆かわしい、研究者というからには真実を探るものでしょうに、どのような精神をしていたらこんな、“ぼくの考えた魔王さま”みたいなものを恥ずかしげもなく創り出すのか! 同じ祈るなら、正しき秩序の神にでも、我等が主をこそ讃えていればいいものを!」


「ええ。即ち、それがあなたの敗因ということですね、大天使」


 不意を突かれ、足が止まった。

 聞こえたほうに顔を向ければ――そこには、風景の中から、ピントが合うように現れてきた、男の姿。

 彼は、


「あ、あなた――先程、山を下りていった――勇者に追われる、あのわけのわからない女を助けに行ったはずの……!?」

「行ってませんよ?」


「は、」

「フリですフリ、追っていくフリ。嘘。幻。紛らわしい、演技です。今の私が使える、たったひとつの幻惑魔法――非交戦状態でのみ姿と気配と音を消す【舞台裏の見物人(インビジブル)】、いかがでした? 騙されました?」


 あっけらかんと、悪びれずに抜かす。

 ……カズタモ・ヨケヒャクは、光の勇者に狙われる少女も、大天使と戦う混沌魔法使いも、一切助けず、ただ、離れた位置からこっそり傍観していたということを、あっさりと白状した。


「すいませんねえ。私、根っからのインドア派なもので。苦手だし嫌いなんです、力仕事」

「……あなた、友達いないでしょう?」


 聖なる大天使からの確な指摘に、「これは手厳しい」と肩を揺らして愉快そうに笑い、


「いいですねえ、友達。欲しいですねえ、仲間。何せ、そこのところを誤解したせいで、かつて手痛い敗北をしたというきらいもありますし」

「……ん?」


「ええ、反省しましたとも。甘く見るのはやめたのです。私は、だから、きっとどんな同胞たちより、高く正確に評価した。――弱きものが。小さき力が。合わさり、繋がり、束ね、紡ぐということは――決して、油断ならないと」

「……………あなた。そちらに何を隠しているッ! その“右手”を見せなさいッ!」


「ははははは、異なことを! 隠してなどはおりません! どなた様にも現在絶賛公開中、どうぞどうぞ、ご覧あれ!」


 狙い撃たれた天使の光線に、合わせるように――カズタモはそちら、身体の後ろに隠すようにして走査したものを、放り投げる。

 右肩が貫かれる。

 しかしそれが守られる。

 カウンターで放たれたそれは、攻撃の動作を行って、無防備な状態の天使に――


「ッ!」


 ――天使の、薄い胸に。

 同じく、板状のものが、ぺしっとぶつかって、地面に落ちた。


「……は?」


 最初は、恐る恐る。

 どれだけ警戒しても、何も起こらないことを確認したドゥヴィキエルが、それをそっと摘まみ上げ、首を傾げた。


「……なんですの、これ」

「知りません? 人間界全土、三大陸で大好評、万能魔導端末スマルトフォ。優れたユーザーインターフェイスで直感的な操作が誰でも可能、普通ならば一部の高位魔法使いにしか出来ないような複雑な魔法をアプリひとつで可能にしてくれる――登場以前と以降で世界のありかたをがらりと変えた、人々の賢智の結晶、大発明です」


 投擲の前、あらかじめ操作されていたコマンドが、発動する。

 最近アップデートされたスマホの、新機能のひとつ、エアモニター――表示画面の、中空への拡大投影。


「見るがいい、人間界を見下す天界の使徒よ! これが、あなたたちが侮り、気にも留めず、知ろうともしなかった――可能性の結晶だあぁぁあああああぁああっ!」


 あのズモカッタが、常に冷静さを失わぬ策士が、激情を叫ぶ。

 ドゥヴィキエルが、リルミリアが、その熱に連れられ、視線を向ける。


 そこには、

 彼の、

 百妖元帥ズモカッタの、全能力を、余すことなく結集した、その成果が存在していた。



【どうしよう、みんな!? なにこれ、こんなのってアリ!? 女の子が、おとぎ話の天使に襲われてて、それを――ま、魔王様が、守ってる~~~~!?  クララ・ウィンウッド@トラベルロケクライマックス!】



 奇跡の一枚、というものが、この世には存在する。

 変動する状況、同じ画など一瞬とてない変化の中で捉えられる、絶妙な、偶然の産物。


 驚きのメッセージと共に添付されたその画像こそ、まさしく、そう呼ばれるべきスペシャルだった。

 それは、倒れ伏し、傷を負い、ひどく汚されたリルミリア、それを庇うようにキメ顔で仁王立ちする魔王(の人形)、そこに恐ろしい激昂の表情で飛び掛かっていっている、ドゥヴィキエル。


「どうですどうです、【MahoShopCC For Smafo】での編集により、元の素材の魅力を最大限に引き出しながらナチュラルに強調されたこの一枚は! いやあ、我ながらよいものが作れました! 一端の幻術使いとして、ポートフォリオに胸を張って載せられる作品に仕上がりましたとも!」


 確かに、そうではある。

 なんて迫力。

 なんて迫真。

 ベストアングル、ナイスショット。


 画面全体から臨場感と緊迫感が伝わってくる、そんな、一流の写真家でも狙って取ることの出来ないような、スマホ撮影の限界に挑んだような喝采級のシロモノに、


「――――で?」


 心の底から素直に、ドゥヴィキエルが眉をひそめた。


「これがどうしたというのかしら。だからなんだというのかしら。あなた、少女を二人放っておいて、恥知らずにも姿を隠して、やっていたのがこんなこと? 最低の趣味ね。死んだほうがいいのではなくて?」


 憐憫すら湧かない嫌悪、ドゥヴィキエルは心底外道を軽蔑し、“こちらのほうが先に狙うべき相手だ”と攻撃対象を変更し、


「…………マジで、」

「――――え?」

「マジで、わかってないんだな。天界の、秩序大好き、キレイが売りの、大天使――これが一体、どれほどヤバいことなのか」


 その。

 憐憫すら、哀悼すら混じった、リルミリア本気の同情で、突然の混乱に襲われた。


「地上を見下して、潰して遊ぶくらいしか価値の無い場所だと思ってた天界は、無かったし、知らない。……あんたの予測、大アタリだったな、カズタモさん」

「――な、にを、」


「スマホも無い。マジッターも知らない。誰もが誰も秩序立ってて、御行儀良くて、正しいことしかしないから、こんなことは、概念からして知り得ない。――不思議だな。今、初めてぼくは、あんたのこと、可哀想だと思ったよ」

「何を言ってるの、さっきから!!!!」

「ああそうかいだったらさあわかるように教えてやるよ!!!!」


 精魂尽き果てた身体に鞭打って、リルミリアが飛び込むように、地面に落ちたスマホを拾う。

 そして、フリック。

 画面に、空中に映し出されるのは、山ほどの――



【999rara うっわなぁにこれぇ。はじめて見たけど天使こっわ  毒蛇竜ガゴルギギア】

【999rara これ、あれだよね? ヴィンちゃんでしょ? やだ、かっこいい……! 北国生まれのイフリート】

【999rara こいつ知ってる! てんしあつめのアプリで見た! ドゥヴィキエルだドゥヴィキエル!  特殊映像撮影監督バズーカくらげ】

【999rara ショックですドゥヴィちゃんのファンやめます  辺境の土精霊】

【999rara 魔族の王よ! 人間の俺が初めてお前に祈る! どうか、その白い髪の綺麗な俺好みの素晴らしい子だけは生かしてやってくれ! 僧侶マジマ】

【999rara 私は最初からヴィングラウドさんが人間の仲間だって信じてました!  減量成功ケンタウロスマニア】

【999rara フェイクとかヤラセとかいう奴いるけどクララちゃんが呟いてんのにそんなわけねーだろ ガチが売りのクララちゃんだぞ  偽形魂ファントムアイゼン】

【999rara 普段魔族がいるとかいないとかどうでもいいけど今だけは絶対人間界にいてほしい!  棲家を追われて八年目のドルイドおねえさん】

【999rara がんばれう゛ぃんぐらうど! たかし】

【999rara 天使何しに来たの? 呼んでないんだけど  出させてよエルフの森】

【999rara ヴィングラウドさん、無事だったんだ。元気そうでよかった、安心した。嬉しいな  ポポリーノ・ポポーラ(^θωθ^)】



 二つのことが、同時に起こった。


「なっ、ぁ、あああぁあああぁあっ!?」


 中空の画面を見上げていたドゥヴィキエルの、その背の翼が、墨に染めたように濁り、片方が消失し――そして、何度も何度も踏みつけていた人形から、反対に、輝きが溢れ出してきた!


「な、なんなのよこれ、こんなの知らない、どうなってるのよ、人間界ぃいいいいいぃいいいッ!?」

「ええ、説明しましょうとも。私、何を隠そう、そういうポジション大好きですので」


 咳払いひとつ。

 嘘くさい笑顔。

 ズモカッタは、慣れ切った様子で、


「世界中に満ち溢れるマナを繋いで構築されたネットワーク、その中で交わされる、汎用通信魔法空間、マジッター――これなるは、世界中の人々を、所属、住所、種族、年齢、あらゆる垣根を飛び越えて、心を繋げ、認識を拡散し、世界をより楽しく、平穏に、幸福であらんとする為に産み出された、大魔法にございます」

「な、ん、です、ってぇえぇえええええええええっ!?」


 天使、泡を食う。

 あたりまえだ。人間界における天使は、魔族と似ながら丁度逆――人々の信仰心、善なる心を得ることで降臨している。そうした“肯定的認識”で膜を作ることで、天界にいるのと同じ状態のまま、自身を穢れから保護した状態での活動が可能になる。


 つまり。

 彼女らもまた、人間界では……人気の有無が、ダイレクトに死活問題に直結するのだ。

 それが、種族としての“大まかに散る認識”に留まらず、個体へ直接向けられる”失望”であれば、より深刻に――!


「あーあーあー、御愁傷様、天使様。あんた、ミゴトに炎上しちまった。なにより怖いのは、ネット・リテラシーって言葉の意味、どころか存在さえも知らないってところだ」


 そんなふうに言われても、疑問符を浮かべることしか出来ない。

 どういう意味だと顔に出ている。炎上なんて言われても、別に身体のどこにも火なんてついてはいないぞと全身を見てしまう。


「ひっひひひ。クララ・ウィンウッドのアカウントは、最近マジッターでもトレンド入りするくらいの評判だったからなあ。さぞかし効くだろうなあ。うひゃあ、見ろよこのリマジット(拡散)ブレイブ(いいね)数。アップから数分でもう四桁ってすさまじいな。なあ、今、世界中がおまえを見てるぜ。この凶悪なツラ、キラキラキレイな天使様の、知られちゃいけないスキャンダル。大変だ大変だ、こりゃ大変だ大騒ぎだ! 止まらないぞ止まらないぞ、このままいけば明日にはあんた、もしかして、人間界一有名な大天使になってるかもだっ!」


 彼女は、知らない。マナ・ネットワークの成り立ちも、マジッターの仕組みも。

 だから、その行動は反射的に。戸惑いと焦りに、背中を突き飛ばされるように。


 大天使ドゥヴィキエルは、

 自身の身に降りかかっている脅威から逃れるべく、


「と、とと、とっ――止まりなさぁああああぁぁぁいっ!」


 リルミリアから奪い取ったスマホと――そして。

 ――急速に失われていく自分とは対照的に、“存在認可”の力を集めて不愉快に光る、“魔王の人形”を、諸共に、踏み砕いて破壊した。

 中空から、自身への悪評を垂れ流す画面が消え失せる。人形も、念を入れて壊す。……そうした後で、ようやくドゥヴィキエルは、胸を撫で下ろして溜息を吐き、


「は、はは、あははははははは! どうです、この実に秩序的な危機回避(リスクヘッジ)! 冷静になれば何でもない! あなたらがどんな小細工を弄したところで状況は依然変わらず、」

「「やっちゃった」」

「多少の悪評を浴びようと力は十分、目的は達成可能、この神像の呪詛さえ消せば私の勝ちで――――なんですって?」


 余裕を。回復を。

 見せつけたというのに、相手は。

 声を揃えたズモカッタもリルミリアも――その表情、“おまえは今度こそ、本当に取り返しのつかないことをしでかした”と、言わんばかりで。


「さっきも忠告してあげたのに。あなた、またしても、焦って軽率な行動をしましたね、ドゥヴィキエル」

「え、」


「しくじったね、天使様。さっきの段でちゃんと、人形に勘違いして、逃げてりゃよかった。それでならまだ、間に合った」

「え、え、」

「そうすれば」


 ズモカッタとリルミリアが。

 四天王と、悪魔崇拝者が。

 揃って同じ場所を指す。


 その、

 自分たちからは見えていた、先程の、”発射”の軌跡を描いて飛んだ――

 ――天を指す。


「「“本物”を、怖がらなくて済んだのに」」


 言葉から、もたらされた不吉。

 それに背筋が震えるより前に、


「あわぁっ!?」


 文字通り、足元を掬われた。


「な、あ、ど、」


 どうして、と疑問が溢れる。

 踏み砕き、バラバラに壊した、見たこともないエセ魔王の人形は、その時点で依り代を失い、世界中から流れ込んだらしい“認識”を――溜め込んだ力は雲散霧消する、はずだった。


 それが、何故。

 何処かへと向かうような挙動を見せるのか。


「あたりまえじゃないですか。人々の認識は、厳密でなくて、曖昧で、勝手で、茫洋としている。それが“個”を対象とするならば尚更に、秩序とはまったく程遠い混沌だ。一番“そう思われた対象”に該当する候補が存在しなくなった場合――そこにあった力は自動的に、似ているそれっぽいもの、次の候補へ繰り越される」


 ――魔王と、似ている、それっぽいもの。

 ――人形から解き放たれた、エネルギーの、向かう先。


 ……勇者が。

 ……天使の命令さえも無視して、脇目も振らず追っていった――


「まさか」


 もしかして、と、ありえない、と、二つの思いが――秩序的とは言い難く混ざった、ドゥヴィキエルの呟き。

 それに、応えたようだった。


 遠く。

 天使が見上げた天に、弾け、混ざる、光と闇。

 人間界の、人々の【支持】と……人形が破壊されることで、術式を失い、本体へと還元された、【混沌の魔力】が、ある一点に、凝縮される――



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