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3-14/魔王様、足りないユメを足すために




 ★☆★☆★☆★☆



 ――666代魔王ヴィングラウドの、人間界征服に向けた新たなる取り組み(アナザー・アプローチ)

 結果から言うと、このゲーム実況は、狙った通りの成果を得られた。


 最初にアップロードされた“ドモり棒読み緊張カチコチバージョン”は、アレはアレとしてタイトルを【予告編、あるいはパイロット・バージョン】とし残され――【真の第一回】と銘打たれて【魔王キャッスルバトル・666代魔王が実況動画】は、ヴィングラウドが本来のテンションを発揮した感情豊かなリアクション、尊大さとへっぽこさのバランス、そして有能なる魔王城スタッフの手によってバツグンの編集を施され、にわかにブレイク。人間界の魔術ニュースサイトでも取り上げられるなどの盛り上がりを見せた。


 MahoTuber業界に、また一人、将来有望な新人が参入してきたか――この動画で666代魔王ヴィングラウドを知ったネットユーザーは、その登場を歓迎する。


 ――しかし。

 同時に、この動画に、このブームに、物申す者たちもまた存在していた。


 彼らこそは、666代魔王ヴィングラウドをなんだかんだとウォッチしていた、旧来のフォロワーたちである!



【@666vin ヴィングラウド企画にしては普通に面白くてびっくりした。でも、その“普通”ってのが、なんか、違うっていうか  僧侶マジマ】 

【@666vin まほつべ動画見た。反響凄かった。こっち見るのやめて、いっぱい人がいるほうを見始めたんだね。ショック。  あそぶのをやめたあそびにん@進捗ダメです】

【@666vin ヴィンちゃんのファンやめそう  パンデモニアンデスワーム】



 ヴィングラウドのマジッターアカウントに寄せられる、数々のクソリプ。

 別々の口で、別々の表現で、彼らは言うのだ。


 それは即ち――“面白かったけど、ゴチ(・・)が足りない”と。

 人気を求めた路線変更、売れ筋に移行するというのはつまり――これまでのファンを、古く汚れた皮衣と共に、黒歴史ごと切り捨てることなのか、と。


 魔王は問われる。

 己が積み上げた歴史と如何に向き合うのかを。

 魔王は選択する。

 苦い過去と、明るい未来、果たしてどちらを守るのか。

 そして、



【@666vin わかるよわかる。相手は魔王だし、期待した人類がマヌケだったってことだよね  勇者アレン@ヴィングラウド第一シーズン派】


 

「ズモカッタよ。我が、百妖元帥よ」


 ――その日。

 666代魔王ヴィングラウドは、街の声に背を押され、ある、一つの決断を下した。


「魔王とは、何だ」

「それ即ち。善だけでは届かぬ、正のみでは至れぬ、時にどのような悪徳すらも厭わない――あらゆる欲望の肯定者にございます」

「然り」


 人間界は、人類は、自らの手で、鍵を渡した。

 長きに渡り封じられていた、禁断の扉の鍵を。


 かつて、魔王すらも恐怖した――幻夢魔城ガランアギトの、誰一人立ち入れない、開けてはならぬ、災厄の満ちた部屋を解き放たせる、“動機”を与えてしまったのだ。


「見せつけてやろうではないか、愚かなる人類に。尖り過ぎ(マイナー)も。万人受け(クリーン)も。我が強欲なる魂は、そのどちらの清濁(ターゲットそう)も、等しく手中に収めるのだと!」


 歩んできた道、その全てが力の糧。

 失敗も、落涙も、苦悩も、悲哀も、己の負の感情すら、踏み台にしてこその、魔王。


 歴史の上に。

 君臨する者こそが、666代魔王、ヴィングラウド。


「赴くぞ。此処を見せるのは、(なれ)とて初めてであったな。恐れずして――呑まれずして付いて来るがよい」


 周囲一帯の人払い、百妖元帥の幻術で結界を張られた廊下の、その【禁断の部屋】の扉が、今、開かれる。

 呪われた古龍が口を開くかのような、重く、禍々しき音。無限の闇とはこれを言う、と賢者も竦む昏き中。


 ヴィングラウドはそこへ、怯まず、惑わず、恐れることなく踏みいり、

 そして、ズモカッタが指を鳴らした瞬間、魔力に反応し、明かりが点いた。



 一面に。

 様々な服が色取り取りに飾られている、巨大な衣裳部屋ウォークインクローゼットだった。



「――――ほう。ここが、陛下が魔王襲名時に新設なされておられた、“宝物庫”ですか。これはまた、これはまた」


 広い部屋を、道化の仮面の下で見回すズモカッタ。

 その後ろでヴィングラウドは、つかつかと、広いフロアほどの部屋を散策しようとする忠臣の裾を押さえるように引っ張っており、「や、や、や、恐れるなとも呑まれるなとも言ったけどそこまでグイグイいかんでも」と聴き取り辛い小声で言い、


「では、ここから見繕うとしましょう。しかし、助かりましたヴィングラウド陛下。例のやつ(・・・・・)をやろうにも、どうやって必要な衣装を揃えるかが目下一番の課題でして。人間界絶望計画の一部とはいえ、あまり多額の予算を使い込むわけにもいかずどうしようかと。しかしこれだけのものがあれば、あの企画を100%のクオリティで実現に漕ぎつけられそうです。貴女様の意欲、信念、使命感に心よりの敬意を。しかしそれにしても、よくここまで集められましたね。まさしく、“魔王に歴史あり”の体現だ。……ふむふむ、しかし、意外な趣味だったのですね……いや、これとか実に興味深い」

「みないで」


 恥ずかしいからあんまそういうこと言わないで、と、そこのハンガーから取った一着のフリフリなレースたっぷりドレスを矯めつ眇めつ眺めているズモカッタの背中をぽこぽこ殴り、いつも通りの魔王正装、骨の冠に闇の衣なヴィングラウドは、顔を伏せてぷるぷる震えた。



 ★☆★☆★☆★☆



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