3-12/魔王様、OBに電話する
魔王といえば魔界の王で魔族の頼れる代表者で、即ち、困った時には思い出す方。
魔界アンケートでは実に92%の魔族や魔物が“親や友達、他の誰にも相談できない悩みも、魔王様になら話せる”と答えているのだった。
「マジ? えっ、ちなみに誰? 誰魔王? ――――114代目様? あぁ、あの方なら、うん、そういうの応えてくれるよね……歴代魔王様の中でも包容力と面倒見が段違いだし……」
わかるよわかる、何なら余も悩みとか聞いてほしいもん、同じ魔王だと言い辛いけど、とマオーページをペラペラ見る。
「さて。というわけで魔王様」
「っあっハイ」
「おたすけアイテム、マカイフォンとマオーページを使いまして、最悪の結果を捻じ曲げましょう」
「大層な話になってきたなあ役所でもらえる本で」
具体的には、とズモカッタが説明する。
――今回の挑戦成功を掛けた一戦、魔王キャッスルバトルの、電界魔王にふっ飛ばされた鋼鉄魔王というヴィングラウドの敗北だが、
「こちら、マカイフォンで御本人に連絡しまして、『そういう状況なら踏ん張れるよ』と答えを頂きましたら、見事、運命の改変に成功。先程のバトルは魔王的ノーカウントということで、陛下は再戦のチャンスを獲得なされます」
「ヤバない」
ゲームでもっかい対戦する為にOBの方々に連絡するの控えめに言って不敬過ぎない、と動じるヴィングラウド。
「いえ陛下、問題はありません。第一線から退いて引退した自分になんだかんだ後輩が頼って連絡してきてくれるのは嬉しい、と私が仕えてきた様々な魔王様も仰っていましたので」
「余の創造してた魔王業界となんか違う」
気は引けるが、罰ゲームを回避する為と、何より人間界征服計画の一矢たる番組の盛り上がりの為には四の五の言っていられない。
ヴィングラウドは深呼吸して覚悟を決めた。
マオーページで確認しつつマカイフォンのダイヤルをじーこじーこ回し、プルルルル……プルルルル……と聞こえる音を、緊迫した表情で胸に手を当てて聞いており、
「…………ア゛っ!? も、もしもし、夜分遅く申し訳ありません、はい、あの、私、え、今666代魔王やっております、ヴィングラウドと申しますが、そちら、234代魔王ボルドガルド様のお宅でよろしかったでしょうか……!?」
心臓が闇に捧げられんばかりの緊張から始まった通話は、意外にあっさり運んだ。
カットの挟まれる画面、【※三分後】のテロップ、「――はい、はい、ではこれで、はい、急なお電話、大変失礼致しました……ご協力ありがとうございました……!」と受話器を置いたヴィングラウド、
「お疲れ様でした、魔王様」
「めっちゃフランクだった」
立派なのにクッソ話しやすかった、とまだ頭が落ち着いていない感じでぼんやりと言う。
「あんな、あんな、鋼鉄魔王様な、電界魔王様とは昔から知り合いで、今も週一で宅飲みしたりするくらい仲いいんだって。電界魔王のフィールドはそりゃもう亜空間雷鳴以上に強力な力場だけど、自分の鋼鉄装甲はあらゆる魔力・自然界のマナさえ絶縁するから大丈夫、弾かれたりしないって。じゃなきゃ同じ皿のツマミも分けれん、って笑ってらっしゃった。あとそれから、『ズモカッタによろしく』とも、あいつに気に入られたのは大変だな、ってふうにも苦笑いされたし、電界魔王様の爆笑も聞こえたのだけど、どういうことかな?」
「――――はい、というわけで、今回のテレフォンは無事成立! あっぱれ666代魔王ヴィングラウド陛下、見事、鋼鉄魔王様のお墨付きにて、運命を切り拓かれました!」
「あれ? 何が改変されたの今?」
ねえねえズモズモ、と追及するも、時計を示され「終陣(最終転移魔法陣)時間終陣時間」と促されては引き下がるしかない。
再び席に着き、スマホを構え、両名は対戦の準備に入る。
「では、再びお手合わせをお願いします、魔王様。今回からはもう先程のようなシステムの粗さを利用した初見殺しはやりませんし、テレフォンの使用回数には今の含めて計三回、あと二回まで使用が可能です」
「ほ、ほほぉっ!?」
「今日半日、魔王キャッスルバトルに一心に取り組んだ陛下の情熱、そして上達、この百妖元帥改めADズモカッタ兼モカP、画面外で手に汗握り拝見しておりました。残り四度も機会があれば、必ずや、御身の牙は、この道化師に突き刺さることでしょう」
「……うむっ! 見ておれ忠臣、余の脅威なる成長速度! 歴史ある魔王業界、偉大なる先達に未だ届かぬ身の上なれど、この向上心と、歴代魔王様方の応援を以て、今日はまず、汝という壁を越えて見せようぞ!」
『敗北は、敗北だけで終わらない』。
『まみれさせられた泥の中から、輝けるものを掴み取る』。
『それは時に、成長を遂げた本人は気付かないものであるかもしれない』。
……そんな台詞を朗々と読み上げるナレーション、流れる感動青春系ソング、引き締まったヴィングラウドの表情を映しているカメラ。
バグ無しハメ無し、互いに正々堂々のゲームを行いながら、666代魔王の手つきは、確かに違う。
指先に籠るものは、リスペクト。
ここにいる相手の技術と、そして――今、自分が操っている、歴代の魔王たちへの、飽くなき尊敬。
それが、プレイに現れている。
思考に及んだ実感が、無意識に、如実に、ヴィングラウドを強化している。
見よ、あの目を。
ついさっきまで、ゲームのピースでしかないと扱っていた歴代魔王に、感情移入――その一人一人を深く洞察することで、比べものにならない繊細なプレイが実現されたのだ――!




