3-11/魔王様、過去の力をその身に借りよ
「はい、というわけで今回の勝負は私の勝利ということで」
「異議ある!!!!!!!!」
大きく両手でバッテンを作りながら、しかし、表情は困惑より怒りより、半笑いだった。
「おまっ、えぇ!? ちょっ、ふっ、ふふこれおい、ズモ、ズモよぉ! なんぞぉ! 今のあれ、これ、おいぃえぇッ!?」
主語が出ないというか、言わないでも分かるだろ、という空気が全開だったし、確かに、今のが出た瞬間、スタッフまで爆笑していた。
「もうテクがどうとかゲームですらないじゃん! こっ、ここまで来ちゃうとさあ!」
抗議の正当性と言ったらない。
何しろ、重力とか働いてる素振りすら見えなかった。落とされた勢いの数倍の速度、加速を以て空の彼方に消えていった鋼鉄魔王様のシュールさと来たら、完全に現魔王の度肝を抜いて笑いのツボに着弾している。
「魔王様。今回の挑戦開始から程なく、まだ日が高かったうちに一度申し上げましたが」
「うんうん。魔王城の外の亜空間はオールウェイズ雷鳴じゃけどもそこはまあええかな」
「この魔王キャッスルバトル、多数のキャラクターの登場に加え、製作者チームの小規模と相俟って、管理しきれなかったプログラム上の粗、いくつかの不自然な挙動やらクスっとしちゃう現象が、一種のうま味として残されていたりするのです」
「うまみ」
「こうした不条理、バグとも仕様ともつかないものはMCB用語、というよりインディーズゲーム業界ではお馴染みな、いわゆる【山羊神様の思し召し】というやつでして」
「おなじみ」
「まあ、アレです。――魔界って、魔王様って、人間界の、そんじょそこらの生命体では理解も及びもつかない現象をまま起こしてくださり、本当に本当に素敵ですね? ではそういうことで早速罰ゲームのほうを、」
「ドント・ルーズ・ミー――――――――ッ!!!!」
乱打される机、叫ばれる『無効試合』の抗議。
「どうなさいました魔王様。……え? 敗者への罰はなるべく成長出来るやつがいい?」
「頼むからよぉ! 同じ目線で話そう! 共通言葉を用いよう!」
席を立って急ぎ罰ゲームの手配に入ろうとしたズモカッタの手を魔王の力で押さえるヴィングラウド。その表情は、必死であった。
「頼むから! そういうのが当たり前にテクとして認知される野良とかではともかく、余とはお願い、ちゃんとゲームして! 普通のやつやって! そういう、百戦錬磨の怪物が使えるやつは一旦封魔の箱に仕舞って、純粋に魔王様方御歴々を余にも積ませて!!!!」
「すると、もしや魔王様は、鋼鉄魔王様はあんなものではないと」
「ッンンッッそれ言い出すと前提から状況は全体的にぶっ飛んでるんだけどさ、まあ確かにさ、電界魔王様のフィールドに触れたところで、あんなことにはなんないよね!!!!」
「わかりました」
「わかってくれたか!!!!」
「では、早速、聴いてみましょう」
「はい?」
聴く? と首を傾げるヴィングラウドに渡される、先程から出番を待っていた魔界黒電話の受話器と、呪われた魔導書かと見紛うほどに禍々しい本。
「ついにこの時が来ましたね。順を追って説明します。魔王様、こちら、魔界全土にあまねく繋がる万能通信秘宝、魔王城の外に持ち出し禁止なSSSクラスレアアイテム、マカイフォンです」
「あ、うん、」
「そして更にもうひとつこちらなんですが、まあこれは、別に魔界役所で所定の手続きを踏めば誰でも発行してもらえるものなのでそんなに珍しいわけではないんですが」
「へえ」
「歴代魔王様たちすべての連絡先が載っている電話帳、マオーページです」
「ええの?」
それやってええの? とマオーページをめくりめくりする。
「ぶ、ふふっ。ちょっ、これ、ズモカッこれぇマジのやつではないか!? 載っとるじゃん!? これ、余が魔王権簒奪に当たって必死こいて探しまくった失踪・隠遁中の父上の住所まで書いておるんじゃけども!?!?!?!?」
「それだけではありません。電話連絡先のみならず、所定の手続きを踏みさえすれば、これそのものを契約の触媒として使用し、お好みの魔王様を呼び出すことさえ出来ますよ。そう、マカイフォンならね」
「そんなレンタル魔王様ある?」
あるのだ。
困惑しているところ、画面外の撮影スタッフからも『友人との関係に悩んで飲み屋で相談に乗ってもらったこともあります』と声が飛び、愕然とした表情を浮かべる現魔王なのだった。




