3-09/魔王様、掴め、積み重ねたその歴史で
『そこだッ! そこです、ヴィングラウド陛下! 練習の成果、敗北で流した涙の味を、今こそ、勝利の力へ変えて――――!』
「う、お、お、おおおおおおおおおおおおぉおおぉぉぉぉぉおおぉぉッッッッ!!!!!」
その一手こそ、魔王キャッスルバトル基本中の基本にして、様々な状況から持っていける汎用性最高の“決め技”――【ボーン・アンド・ダーク】。
魔王に伝わる定番装備だけあって、結構な頻度で多くの魔王が装備している【骨の冠】を、イイ感じで婉曲している【闇の衣】のくぼみのところにはめ込んで、自分にはバランスをもたらし、次の相手には不安定を授ける――まさしく、魔王の特性を使いこなしたフィニッシュブロー。
しかも――ああ、これは、なんという偶然。
この時ヴィングラウドが引き当てたのは、665代魔王――即ち、自分の父でもある、先代魔王。
その、ぺっこりと下げた頭が、うまい具合に、フィットする――!
「父上……我に、力を……!」
映像として流れるのは、緊張の面持ちでスマホを睨むヴィングラウド。唾を呑みこむ音さえ聴こえそうな凄まじい緊迫感。
――それが。
数秒の後、危うくスマホにぶつかりそうになるほど、身を倒し、深い、重い、苦しい溜息を吐いて、
「…………ポポリーノ・ポポーラさん。対戦……本当に、ありがとう、ございました」
スタッフの歓声。
幻夢魔城ガランアギト第四スタジオに、拍手の音が木霊する。
その意味を明らかとする、リプレイ動画が再生される。
――ヴィングラウドに仕掛けられた【ボーン・アンド・ダーク】を――ポポーラ氏は、返すことが出来なかった。
ここでドローが歴代最小魔王であるの109代魔王ヨッコヒーなどであれば、活路はあったかもしれない。
だが、よりにもよってここで引いたのが超重量・悪バランスの88代魔王ウーゾ――危機を凌ぐ安定性ではなく、次に置く相手への攻撃に特化した魔王だったのが、命運を分けたのだ。
慎重な回転、置き場所の選択、それも虚しく、落ちていく。
積み重なった魔王の城が、奈落に崩れ去っていく。
画面に出る、【Win 666ヴィングラウド】の文字を――しかし、その本人は、見ていない。
「――――――――っ゛た゛」
鼻水を、啜り上げる。
ぼたぼたと、涙がこぼれる。
ガチのやつで。
マジの具合で。
人間界を征服せんとする魔王が、ゲームに勝てて、極めて本気で、泣いていた。
「余゛、ケ゛ー゛ム゛、実゛況゛、や゛っ゛て゛て゛、よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛…………ッ゛!」
一旦、タイトル画面に戻らないとならないほどに、感涙は止め処なかった。
うあー、うあー、うあー、うあー、と、魔界一ピュアな涙を流す魔王の胸の内に渦巻く感動は、余人にはそうそう推し量れまい。
――ただ一人。
それが、出来るとするならば。
「ヴィングラウド陛下」
画面外、
からではない。
フレームインしてきたズモカッタが、穏やかな声で名前を呼ぶ。
椅子に座り、それを見上げるヴィングラウドの顔の、なんと晴れ晴れしきことか。自身の中にある誇りを信じ、確かなる寄る辺を得た、清々しきものであることか。
「見たか。余は、余は、ついに、やったぞ」
「はい。見させていただきました、しかと」
「こんなこと、言ったら、ぅぶっ、いかんのかもしれんけど。魔王になってから、一番嬉しい」
「それは、良うございました。貴女様の忠臣、四天王として、心よりの御祝いを申し上げます」
「ズモカッタ、これで、これで、余は、なれるぞ――今よりもっとずっと立派な、素晴らしい、かっこいい魔王に……!」
「ヴィングラウド陛下」
「うむ!」
「実は先程の一戦で本日の挑戦終了のお時間なのですが、最終結果の確認をよろしいでしょうか?」
「はい?」
え?
え?
このテンション、あれ?
困惑しながらも、促されるままに、タイトル画面をタップするヴィングラウド。
……現在。
レート、【1698】。
「目標、レート1700には、届かず。残念、挑戦失敗です、魔王様」
「ふはァーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!?!?!?!?」
ズモカッタが後ろ手に隠していた時計を見せつけられる。
気がつけばとっくにいい時間――そう、そろそろ魔王城勤務のスタッフたち、今回のこれを撮っている撮影班も帰らないと終転(最終転移魔法陣)が無くなってしまう瀬戸際だったのだ! 特に、頼れる音響のグリーンドラゴンさんは、転移魔法陣を三回乗り継がなければならない、魔界の人食い森の中に住んでいるのだった!
窮地、迫る!
どうする、どうなる、陛下の挑戦!!!!




