3-07/魔王様、ゴイサアビスで散る
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――――魔王系新人ManaTuberの、鮮烈にして脱力もののデビューから、一夜が明け。
登録者数四人のチャンネルに、新しく投稿されたその動画は、こんな具合に始まった。
「日々平穏をむさぼり洛陽の気配も知らぬ愚かなる人間共よ、ごきげんよう。皆様の絶望、666代魔王ヴィングラウドだ」
闇の中に差す一条のスポットライト、やったら豪華な椅子に座り、足を組みながら、グラスの中の真っ赤な液体をくゆらせる、例の魔王。SEと共に浮かぶ、【※ブドウジュース】の文字。
「本日はここ、幻夢魔城ガランアギト第四スタジオからお届けする。今回挑戦するゲームはこちら、」
優雅な仕草で指を鳴らすと、部屋の明かりがパッと点く。
“ゲームをやる時は部屋を明るくして、画面から離れてみてね!”の子供勇者に配慮したテロップも出る。
「【魔王キャッスルバトル】。くはははは、いや、まさかこのようなカタチで、余が歴代の中で最も恐ろしい魔王だと証明する日が来ようとは、人間どもめ、味な真似をしてくれる!」
切り替わるシーン。 画面は一時、スタジオのヴィングラウドではなく、初見・未見の人類にも優しい、紹介説明へと移る。
ゲームプレイの様子の裏でナレーションを読み上げるのは、百妖元帥ズモカッタだ。
『【魔王キャッスルバトル】。昨年にリリースされた、歴代の魔王を積み上げてスコアを競うアプリ、【魔王キャッスル】に対戦要素が追加されたもの。発表されるや否や、その奥深いゲーム性、白熱するバトル、なんとなく笑ってしまうシュールな絵面がSNSを中心として話題となり――』
今回の目標はレート1700到達、果たして666代魔王ヴィングラウドは、これを達成出来るのか――とのナレーションが流れつつ、斜め上から第四スタジオ、気合を入れて首をコキコキやっている魔王と、机を移すカメラアングル。
「いやね、言ってもね、何を隠そう、余、魔王なんでね。考えてもみて? 余だよ? 666代魔王って言ったら、これまでの虹魔暦2710年の最先端、歴史の先頭をひた走る最新の魔王なわけ。これ文字通り、歴代の魔王の上に立ってるにも等しいわけじゃないですか。こんなん、積むとか積まないとか以前に、もう既にこの足元に積み上がっていると言って過言ではなくないか? 勝利、約束されてるじゃん?」
『大口と根拠の無い自信だけは魔王界随一、666代魔王ヴィングラウドの挑戦が始まる』――何気に厳しいナレーションを入れられながら、魔王の挑戦、ゲームプレイが始まる。
「お、お、おっ。来た来た来よったわ、哀れなる生贄の羊が。最初の相手は――カナァンナさん、か。ククク……光栄に思うがよいわ、我が人間界征服の覇道、その最初の犠牲者となることをなぁああぁああぁッ!!!! ――あ、対戦よろしくお願いします」
最後にきっちり思わず素みたいなのを出しちゃうヴィングラウド。回線の向こうの相手にもお辞儀。
魔王キャッスルバトルは一度の対戦が早ければ十数秒でもつくお手軽なゲーム、さっきの“対よろ”発言をカバーするかのように「たったの五秒で仕留めてやるわ!!!!」と邪悪なる気炎を燃やした少女魔王は、
「あ、」
先攻取っての返し二手目、即ち盤面では三体目、自分が置いた魔王が奈落の底へ落ちていくのを、口を開けて見送っていた。
画面に舞う花吹雪、【Win カナァンナ】の文字と、スタジオのスタッフのものらしい、抑えるような笑い声。
「…………っふぅ~~~~(↑)」
スマホを机に置き、両手を組んで大きく伸びをする魔王。
「言いたいことは、まあ、ほんと、そっちもこっちにもダイダラボッチぐらいあるのはわかるんだけど、こっちからいい?」
画面外から聴こえるズモカッタの『どうぞ』という声、画面上にテロップ。
正面のカメラへ向けて、666代魔王ヴィングラウドは神妙な、真剣そのものの面持ちで、
「今マッチングしたの、四天王じゃなかった?」
またしてもスタジオに溢れる笑い声と、画面右下に出る小窓、【四天王 破壊象徴カナァンナ(趣味:料理)】の文字とにっこりダブルピースの顔写真。
「ちょっ、えっちょ待って? 今日さ、来とるよねカナァンナ? 魔王城に。さっき食べたばっかだよ、あいつの作ったサンドイッチ。おいしかっためっちゃ。や、今そら確かに、時間的にはオフだけど、あれ? なに、あいつもやっとったの魔王キャッスルバトル? そんで今、余、蹴散らした? 魔王様、四天王にやられたの? レート、レートあれ、1900とか出てなかった?」
急遽録画を確認する魔王。
表示されていたカナァンナのレートはなんと1999、これには思わず魔王も『ヤッベ』とガチトーンで呟かざるを得なかった。
「これ、これが、上位存在たちの領域ってこと……? あの、ほんでさ、さっきの試合、よくわからんことされてたんだけど。なにあの、315代魔王・ゴイサゴイサ様の置き方。ゴイサホーンを、こう、土台の端んとこに引っ掛けるやつ」
画面外で疑問に応えるズモカッタの、『魔王様、あれが、ゴイサアビスです』というボイス&テロップに腕を組み、ヴィングラウドは「成程、ゴイサアビス」と頷き、
「急な専門用語でビビったんだけど頼むから初心者置いていかないで?」
真顔で言った。
ここで入る、【ゴイサアビス】の説明。
魔王キャッスルバトルには様々な形状の多彩な魔王が登場することによって、製作者様すら制御しきれない、想定を超えた状況が発生することがままある。
それらは多くのプレイヤーたちが遊ぶことで日々発見され、情報は今も更新されているのだが、【ゴイサアビス】とは魔王キャッスルバトルに置ける【詰み】――いわゆる、【確定勝利配置】のひとつだ。
ひとつ前に置かれた魔王が特定の種類のものであった場合、315代魔王・ゴイサゴイサの角を土台の端に引っ掛けるように斜めに置くことで、どのような魔王も吸い込まれるように奈落に落ちてしまう――故に、【ゴイサアビス】。
使える状況がレアで、見れたらラッキーな、魔王キャッスルバトルの中でも抜きんでた珍しさと縁起の良さを誇る、通称【魔王技】のひとつであった。
「ゲェェェェエム! バッ! ラッッ!! ンッッッ!!! スゥゥゥゥッッッッ!!!!」
吠え猛るヴィングラウド、笑うスタッフ。
ともすれば理不尽でしかない現象だが、この大味さ、腕前だけでは何が起こるかわからない勝つか負けるかのスリルこそ、魔王キャッスルバトルの持ち味でもあるのだ。
『魔王様。これが、魔王のおそろしいところなんですよ』
「おまえ魔王の何知っとるの?」
したり口調のズモカッタに翻弄されている場合ではない。
そんなことより、この現実と向き合わなければならない。
本日の目的。
それは、
「ウッソじゃろ……マッジかよ……これ、こんな状況で目指すんか、辿り着けるんか、レート1700……」
『初っ端から四天王に差された魔王。下剋上が常の魔界だが、【魔王キャッスルバトル】の世界では、こなした対戦回数と、得た知識には裏切られない。勝つ為には、とにかく場数を踏んでいくしかない』――挑戦の過酷さを訴えるナレーションと共に、ヴィングラウドの『ぬぉぅ!』『ぬっはゥ!』と奮闘する対戦画面が、その後、しばらく続いていく――




