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2-07/魔王様、ウッキウキ有頂天



「――――くふ」


 自らの創り出してしまったもののパなさに思わず笑みをこぼすヴィングラウドであったが、すぐさまにその表情が、魔王らしき威厳と圧力に引き締まる。案外切り替えの出来る女。


「ズモカッタ。急ぎ、外交の手筈を整えよ。門戸を開け。相手は選ぶな。要人、民衆、隔て無し。そうだな、身分は問わぬが数は絞ろう。”先着”で募れ。逃走者、敗北者、裏切者、魔界は諸手を上げて歓迎する。救いの席には限りがある、早い者勝ちを主張して、それ以外の一切に無慈悲を下すと大々的に煽りに煽る」


 玉座に座り、頬杖を突き、指は肘掛けを打ち、爪先が愉快にリズムを刻む。 


「くは、くはははははははッ! ああ見物だぞ、これからショーが始まるぞ! なあズモカッタ、どうなるかな!? そこに見えた、決して逃れられぬ破滅を前にして、一体どれだけの人間が、ついさっきまで信じていた正義を保っていられるかなあ!? 隣人が変貌し、繋いでいた手を振り解かれ、愛故に出し抜かれてしまったその時に――そいつを背から刺す凶器を与えられた人間は、果たして、何人がそれを使わずにいられるだろうなあっ!」


 屈辱、憎悪、悔恨、不問。

 だが、参考にはさせてもらう(・・・・・・・・・・)


 先の計画、人間界に出自不明の魔道具をばら撒く算段も同時に進める。

 両面から揺さぶられた人類は、魔族が何一つ手を下さずとも自壊していく。


 その喜劇を、ヴィングラウドは、玉座の間に座ったままで見物するのだ。

 想像しただけで紅潮する。尻の付け根、背筋から、くすぐったさが上ってくる。


「もう一度言おう! ありがとう人類! 余に成長をくれて! アイディアを貰って! さあ、この終末がその褒美だ! 弱者を蹴落とし権利を奪う、原初にして本能の競争を、存分に楽しまれよッ!」


 そして、胸躍らせる魔王の耳に、最初の福音が届く。

 先の発言に寄せられた、メッセージの通知。


「――ほう。さっそく、見所のある者が現れたか」


 くつくつと笑い、スクリーンを見上げる。


「開け、ズモカッタ。さてさて、さっそくの亡命希望者、第一号――篤く迎えてやろうとも。他の者が羨ましがり、我先にと続くようにな。で、誰かな? ここまで機を見るに敏なる慧眼、さてはどこぞの名の知れた(すい)かさぞかし欲深な国王か、」



【@666vin 低 予 算 ク オ リ テ ィ  勇者アレン@中古でもいいミスリルが欲しい】



 言葉と呼吸が一緒に止まった。

 表情は秒でスッと消えた。


 

【@666vin 問答無用の傑作。笑いどころを見つけるより笑えない部分を探すほうが難しい。ああああ】

【@666vin おっぱいおっきいっすね。その才能を生かしてみませんか。至急連絡ください。  特殊映像撮影監督バズーカくらげ】

【@666vin まあいかにも初心者ががんばりましたってかんじの出来。ウワーコワイナー(棒)  ABABC】

【@666vin 終わりの始まり(ジエンドオブグローリー)←今年度流行呪文大賞確定  魔法学校の不良精霊】

【@666vin すいません自分王都勤務の衛兵なんですが、今日、最高のピクニック日和っすわ  カチコチメイルマン】



 無言である。

 無言で、かつ、真顔である。


 一秒、

 二秒、

 五秒、

 十秒、

 深い溜息、


「百妖元帥ズモカッタよ」

「はっ。666代魔王ヴィングラウド陛下」

「集合」


 ヴィングラウド、動く。

 玉座から立ち、忠臣に接近し、それからもう一度、再度確認するようにスクリーンを、今回の絶望成分驚きのゼロなクソリプを見て、


「えっと、なんていうのかな、これ、さてどっから手ぇつけようかってかんじで、余もね、さすがに混乱があるのかな、うん、魔王だからこそ踏み止まれてて見た目より相当にブルってるって思ってくれていいんだけど、あんね、あんねあんね、そのね、」

「魔王様、要点を」

「こ゛れ゛ほ゛し゛か゛っ゛た゛や゛つ゛じ゛ゃ゛な゛い゛!!!!!!!!!!!!」


 ぶぎゃー! と溢れ出す悲鳴。

 堰を切った感情の本流は魔王の自我を容易く飲み込み、幼児退行を引き起こし、三角座りの構えに入り、


「魔王様」


 ひぐぅ、と鼻をすすりながら、ヴィングラウド(幼子状態)が顔を上げた。

 手を差し伸べる忠臣の姿――それを見て、彼女の心に一筋の光明が差し、安堵が満ちていく。


 そうだ、彼は、ズモカッタはどんな時でも頼りになって、これまでも多くのピンチをたちどころに解決し、何より、優しい言葉で何かとダメージを受けがちな魔王を立ち直らせてくれて、


「彼らは正しい。これが今のあなたのレベルです」

「―――――――ぽえ?」


 想像と違いすぎてリアクションがバグった。

 話が違う、という顔だった。



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