2-04/魔王様、VS・MahoShop
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「いいですか、魔王様」
「うむ」
「これを」
「うむ」
「こう」
「うむっ!?」
「こうこうこう」
「うむむむむっ!?」
「さらに、こう」
「うむァーーーーーーーーーンッ!?!?!?!?」
たまげて、叫んで、すっ転げた。
目の前に起こったことを、一から見てもなお、魔王ヴィングラウドはすぐには到底理解出来ず、受け入れることが出来ず、胸を抑えて深呼吸をすはすは繰り返した。がちがちと歯を鳴らし、玉座の間のスクリーンを、眉根を寄せて睨む。首を捻る。落ちつけず、立ち上がってぐるぐるぐるぐるその場を回ってから傅く忠臣を指差し、早口かつ呂律の回らない舌で、
「わちゅまみひゃ(我が忠臣にして魔王の右腕百妖元帥ズモカッタ)ァッ!!!!」
「なろまびへ(何でございましょうか666代魔王ヴィングラウド陛下)」
「頼むからいっぺんにやんないで! もっかい、最初から、ちょっとずつ説明しながら教えて!」
「承知致しました。では、再び頭から」
ついついついつい、とズモカッタがスマホを操作するが、そこでまず「あーあ―あーあーあーあ!」とヴィングラウドの指摘が入る。
「ッそーれっ! そこよそこ、もう今のやつからだから! え、何した!? 何した今百妖元帥!? ッン、なんで今それ、ぽんぽん元通りになっていったわけ!? 新手の幻術!? 上司に幻術かけたもしかして! 謀反!? 反逆!? 弱ってるトコを狙うのが魔族流の正々堂々!?」
「アンドゥしましたから」
「ンほらぁーっ! すぐそういうこと言うー! もうやだ今日のズモカッタ余の知らん呪文すぐ使ういっぱい使う! あんど↑う!? あんど↑うって何!? 当然こっちが知ってるみたいな前提ホント勘弁して! 余が知ってるアンなんとかはアンデッドキング・カオスワイトさんだけだから! あ呼ぼっか!? 何なら今呼ぼっか!? ちょうど今カオスワイトさん冥界の入り口んとこらへんまでカロンやってる彼女さんとデートで来てるって話だから! それでいいじゃん余とカオスワイトさんに聞かせてよ、百妖元帥さまの操る死者を蘇らせる禁断の呪法ってやつをよぉおおおぉおおっ!」
「はい、今取り消した操作を再び行うリドゥもありますよ。失敗したところを、修正したい部分だけ、満足いくまでやり直せます。このようのこのように。あれもこれも元通り」
「ふっほぉぅぁへぇ……なんじゃそれ……なにしとんじゃおい……や、や、やべえよこいつ、じ、じ、時間と運命操っとる……神かよ……もうだめだ……とんだヤツが傍にいた……絶対こいつのほうが魔王に相応しい……パパママごめんなさい、余の魔王はここで終わってしまいます……今すぐ667代目引継ぎの手配を始めます……これまでの数々の御無礼お許しください新魔王ズモカッタ陛下……」
意気消沈の震え声。
膝が笑い、腰が抜け、へたり込んで平伏する先代魔王ヴィングラウド。
「顔をお上げください」とズモカッタに言われ、ガチに蒼白で震え上がりながら見たスクリーン、映し出されているのはスマホの、写真撮影等の各種魔法機能を使用する為のホーム画面。
先程まで立ち上げられていたものは、一旦終了させられたようだった。
「ではもう一度、最初から説明していきましょう。おさらいですが魔王様、スマホとは、賢者ギルドが開発した汎用携帯型魔法端末であり、世に満ちる自然界の魔力、或いは生命が活動することで生み出す生命力の補充によって、知識や技術、魔術師の素質を持たずとも魔法を使うことのできる、大変便利なマジックアイテムです」
こくこくと頷く。この辺りは彼女も知っていて、復習の範囲となる。
重要なのは、ここからだ。
「火を出す札は調理やゴミ処理、光を灯す枝は外灯や夜道の伴に。そのような外界に影響を及ぼす物品と異なり、スマホは【実際には質量を持たない、情報を取り扱う】ことに長けています。マジッターや、マジカル写真などですね」
「……まあ、なんとなくは、わかるぞ。スマホでは、雷の雲や、毒の沼を作り出せぬものな」
「素晴らしい。先程の魔王様の考察は、実際、正鵠を射ていた部分があります。言うなればスマホは、実際に無いものを束の間見せる、実際には存在しないからこそ自由自在に操作する【幻術】に特化したマジックアイテムと言えるでしょう」
「で、で、であろ!? うむ、さすが余だ! これぞ選ばれし魔王の眼力よな!」
「真に。このズモカッタ、出逢いの瞬間より、貴女様の素質、歴代魔王の中でも並ぶ者無き資質を持つこと、既に確信しておりました」
徐々に調子を戻しつつあるヴィングラウドに喜びを示し、ズモカッタは話を続ける。
「数多の幻術をその内で実現させる、ある種の結界装置たる、スマホ。その中のひとつであり、代表的なモノといえるのが、これ――」
タップされたのは、マジッターの隣。青い四角に、文字の入ったアイコンで、
「――【MahoShop】。百妖元帥として、幻想を得手と自負するこの私でさえ心底肝を冷やす、極めて取り扱いの難しいツールです」
「な、汝ほどの術師が、難しいと申すのか……!?」
「ええ。何せ――ともすれば、道具を使っているつもりが、いつしかこちらが、道具に使われていることになりかねないのですから」
固唾を飲む。
緊張が走る。
再び立ち上がったアプリ、横持ちにしたスマホの、上下左右に現れたインターフェイスに、慣れぬ魔王はまず飲まれる。何処を押せば何が起こるのか、これらで何が出来るのか、まずそこからまったく予測がつかない。
――いや。
ひとつだけ、ヴィングラウドは知っている――!