2-02/魔王様、今こそ目覚めよ! 超魔道兵器グレートスーパーヴィンデモン!!!!
手ずから作った造形物――見れば見るほど、触れば触るほど、愛着が強化魔法されていく。
誇らしげな鼻息。
魔王の玉座に立たせたそれをあらゆる方向から見て、ヴィングラウドは不適に笑う。
「いや本当にまったく苦労したぞ、これほどの逸品、完成まで自慢しないのがいちばん何より大変だった!」
さあ、最高にクールでソリッドかつダークネスな立体は完成した。
後はこれを、いかにも【実在の超兵器】であるかのように撮影して、阿呆な人類をまんまと騙して煽り立てるだけ。
「……まいった。このような完璧なる破壊者が現れたとあっては、絶望どころか、恐怖で狂いかねんぞ、人類は。まあそれも一興か、というかまず余こそが、自分自身の生み出したパーフェクツに狂っとるようなもんじゃけど! 何が恐ろしいって、自分の才能が恐ろしいんですけどーーーーッ!」
付属品の剣を持たせ、雄々しく振るうポーズを決めさせる。
背景には、それっぽく見えるように、手で割った石を置く。
スマホのカメラを通して確認――素晴らしい。巨岩をも容易く切り裂く埒外の兵器が、画面の中には確かに存在するではないか。
自分が作り出してしまった、予想外の逸品に改めて「ヤッベ」と背筋を震わせるヴィングラウド。
そして、だからこそ、一切妥協は挟まない。
ネタの純度を、一手間加えて更に高める。
小道具を設置した台座の上で重ねられる吟味オブ吟味。
最も恐ろしく、頼もしく、恐怖と絶望を煽る威圧感を発揮出来る角度を探しに探し、
「こっこだぁっ!」
ゴーレム操縦士が射撃の引き金を引くように、撮影した。
その後も幾枚、別角度の魅力を引き出すものも撮り、そして査定に突入する。
当然ながら、自分の目で見た最高――魔王ならではの常人離れした画素数を誇る眼で見た通りのモノが、そのまま寸分違わず写真に納められはしない。人の技術は未だ、魔王のスペックに追い付けない。
これらの写真は通過するか、基準を満たすか、及第点を授かるか……
「……ふ。まあ、よかろう。それこそ慈悲というものよ。多少の劣化があったところで、余のヴィンデモンの放つ深淵なる闇の気に、人類が耐えきれるはずもなし」
全幅の信頼。
圧倒的矜持。
一片の曇りも疑いもなく、ヴィングラウドはマジッターのアカウントを開く。
打ち込む文句は渾身の、【★独占入手★超限定ひみつ情報★要拡散★工房都市ザッハザッハにて魔族が超魔道兵器グレートスーパーヴィンデモンを建造完了!!!!★】という本人は気付いていないが迷惑メールみたいなアレで、
「さらば、人類」
ノリノリで考えた魔界式敬礼(ヴィンデモン設定資料集99P参照)と共に。
写真を添付し、マジッターの海へとつぶやきを放り投げた。
「――――勝った……。ついに、余、完全勝利してしまった……。やはり、最後にモノを言うのは、絶対無敵なパワーであったか………」
感慨、満開。
頬を伝う落涙は確信が故、その間に繰り広げてきた激戦で、いつしか憎しだけではない奇妙な友情が芽生えていた人類と、決着がついてしまった喪失感が故。
「長かった……苦節、一か月とちょっと……しかしこれで、ようやく、ようやく、訪れるのだ……そう!」
ちなみに、ここで【ウキウキ人間界征服後生活】か、と予想するのは、残念ながら魔王軍検定中ボスレベルの者であり。
もしも四天王レベルの魔王通がいたならば、即座にわかるその答えとは、
「我が、理想のマジッターライフが!!!!」
このダメさである。
「ククククク……ここまで自立し、絶望計画ひとりでできちゃった余には、口うるさき百妖元帥とて感服し、【おこさま用接続制限機能】を解除せざるをえまい!」
何を隠そう。
この極秘作戦の、秘められし目標こそ、それだった。
なんたること。
まさに魔王。
自身の道楽、求める快楽――【スマホを寝床に持ち込んで夜通し遊びまくる】為に絶望させられる人類、息してるか。
これぞ邪悪と呼ぶ他ない、独善と堕落の化身。
666代魔王、ヴィングラウド。
「おっと、いけぬいけぬ。浮かれる前に考えておくか、【超魔道兵器グレートスーパーヴィンデモン】量産製造化について! 人類征服計画の中核を担う功労者、その革新的フォルムも相まって人気爆発は必至、魔界にも、善悪を越えた純粋なカッコよさに惹かれた人間界の見る目ある者共らの為にも、十分な量の供給は急務である。うむうむ、我が計成った暁には陥落するであろうザッハザッハの生産ラインをおいしくいただき、一個一個丁寧に真心こめて作らせねばな! 特にこの、ミスリル鋼をも紙と断つ、スケルトン1000万匹分の高度を誇る(設定の)スカルブレードの再現度には、一切の妥協をせず、」
凄まじい速さで脳裏を埋める製造手順、脳内を駆け巡る幸福成分、艶々とした唇から漏れる早口の独り言――
――そこに聞こえたマジッター通知の音は、既存世界の崩壊を告げる、目出度きラッパをイメージさせた。
「来よったか」
ヴィングラウドは確認する。
果たして、抗いようもない圧倒的な力の前に、己の敗北を確信した時。
人類はそこから、どのような悲鳴が発されるのか。それは、いかに爽快な感情として、この身の芯へ染み渡るのか。
魔の性が疼く。
ゆっくりと、舌なめずりをする。
「では、今こそ、いただくぞ。朝一番のチョコより甘く、亜空間の稲妻より鮮烈で、破壊の権化より狂おしい――人類絶望の一口目をな」
剥き出しにされた嗜虐。
万感の愉悦と共に、獲物の臓物を抉るよう、魔王がスマホをタップして。
「――――――――え、」
【超魔道兵器グレートスーパーヴィンデモン】への返信と、|添付されていたある画像を見た瞬間、魔王の表情は凍り付いた。
一切の動きが停止し、時間の流れを拒むかのような、数秒間。
それから、石化が解けるかのように、動く視線。
スマホ――送られてきた画像と。
玉座の上――渾身の力作模型、二点を往復する眼。
「――――あ、」
一分前。
この世の春を確信していた魔王の表情が、見る見るうちに、曇っていく。染まっていく。
屈辱に。
敗北感に。
羞恥心の、紅潮に。
「あ、あ、あ、あ、あ、ああ、あああああっ、あっ、」
身体が震え、歯を鳴らし、それが頂点へと達した時。
「み゛ゃ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
亜空間雷鳴より激しい大絶叫と共に、
あろうことか。
ヴィングラウドは、世界を破壊する超魔道兵器の恐るべき武器――ミスリル鋼をも紙と断つスケルトン1000万匹分の高度を誇るスカルブレードを、握り潰してへし折った。
しかも、そこで止まりはしない。
蛮行に及んだ感情の奔流は歯止めが効かず、せっかくのオプションを自らの手で台無しにした勢いのまま、抑えきれない破壊衝動は、彼女が一週間、夜なべに夜なべを重ねて作った【超魔道兵器グレートスーパーヴィンデモン】に向けられ、高々と、凶悪な勢いで振り上げられて――
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