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10/魔王様、クソリプに負けず(終)


 黒は良い。とても良い。

 しかし、白もまた、()い。


 万人が頷く一つの真理、この世の答えを体現する姿となったたくし上げ魔王は、足元、祈るように己を見上げる中心に、厳かに告ぐ。

 

「これ。何をしておるか、百妖元帥」

「……魔王様」

「発想と威光が我が役目。記録と発信は、汝の使命ぞ」


 構えろ、撮れ、送れ。

 身体の芯に染み渡る、それは魔王の、魔力が籠った大いなる言葉、命令文。


 ズモカッタは頷き、スマホを構え、三歩分ほど後ろに下がり、そして、斜めのアングル、玉座を背にし、目の前に存在する魔王の威光を、余すことなく――


「はい、スカルッ!」

「驚け、人間界ッ!」


 フラッシュが瞬く。

 その一枚を確認したズモカッタが、らしくもなく、ひどく例外的に、力強いガッツポーズを取り、それから心なしか、興奮を抑えるようにして、問うた。


「文面はいかがなさいますか」

「『余こそが真なる魔王、666代魔王ヴィングラウドである。この一枚を以て、その証明とする』」

「最&高」


 ぴろん、と通知の音を立て、魔王ヴィングラウドの禍々しき写真と呪詛の乗ったメッセージが、人間世界を蹂躙せんと投稿される。


 震えよ人類。

 怯えよ愚物。

 魔王ヴィングラウド、ここにあり。


 果たして。

 今回は、一分すらもかからなかった。

 反応は迅速で、また、端的であった。


「魔王様」

「見せよ」


 征服勝利を確信した笑み、魔王は腕組みをしながらスクリーンを見上げ、



【@666vin ゴチでした  減量ケンタウロスマニア】

【@666vin ゴチでした  ダイレクトマーマンショッピング】

【@666vin ゴチでした  まものつかいよしだ】

【@666vin ゴチでした  北国生まれのイフリート 】

【@666vin ゴチでした  PIGE】

【@666vin ゴチでした  おおさそりくん】

【@666vin ゴチでした  ただの村人】

【@666vin ゴチでした  ソバットバット六世】



「百妖元帥ズモカッタよ」

「はっ。666代魔王ヴィングラウド陛下」

「人間界の専門用語時々よくわからんのだけど、これどういう意味?」


 忠臣にして右腕は、真剣な表情のまま、グッと親指を立て、


「【素直に負けました】という意味です」

「ッうむ! うむうむうむうむうむむむむっ! ならば良し! 余の勝利ッ! かーーーーはははははははははっ! 人間どもよ、恐れおののけーーーーッ!」


 はじめての多さのリマジンやブレイブ、増加していくギルメンに浮かれ、はしゃぐ魔王は気付けない。

【@666vin マジでやるとか本当に脳みそグールかよ  勇者アレン@ミスリル貯金はじめました】というリプラスが返ってきた瞬間、すばやくズモカッタが表示を切り替えたことに。


「なあなあなあなあズモカッタズモカッタ! これ来るかな! 来ちゃうかな!? 明日あたりには、こう、人間界から溢れた負の感情がぎゅーっと、魔界まで、この玉座にまで届いちゃうんじゃーないかなーっ!?」

「ええ、必ずや」


「だぁよねぇ!? よーし明日は、明日こそは魔王はりきっちゃうぞ! こうしてはおられん、今から自室で新たな、インパクトと絶望感ある作戦計画練らんとなぁ! ふふふはは、今日増えたギルメンの皆様ようこそはじめまして覚悟せよ! 突然だが人間界終わりますから! 余がポパーンって侵略・征服しちゃうからーーーーっ!」


 ウキウキに足取り軽く、玉座の間を出ていく魔王を礼をしながら送り出し、そして扉が閉まった後、改めて顔を上げたズモカッタ。

 彼は、深く息を吐き、うっとりと呟く。


「やはり、あなたは凄い、ヴィングラウド陛下……私が仕えてきた百代の魔王の中で、あなたこそが一番の――――」


 ……ぷふ、と。

 道化の仮面に覆われた表情の、その口元が、噴き出して、

 呟く。


「最高の、オモチャだ。ああこれだから、こんな出逢いが味わえるから、四天王はやめられないッ!」


 懐から取り出した二台目のスマホ、仕事用とは違うプライベートのものでマジッターを起すると、百妖元帥ズモカッタは、自身の裏アカウントでリプラスを送る。



【@braver_alen_315 手筈通り、最高のタイミングでした  魔界の玩具職人】

【@Toytoytoy_s_m いやいや。こちらこそ面白いものが見れた。しかし鬼だなアンタ、自分の主人に  勇者アレン@ミスリル貯金はじめました】

【@braver_alen_315 当方、生まれも育ちも悪魔なもので  魔界の玩具職人】



 毒は薬に、薬は毒に。

 そして、お役立ちの忠臣も、信じ過ぎれば危険な道化に。


 たたかえ、負けるな、666代魔王ヴィングラウド!

 クソリプに打ち勝て、単純で騙されやすい、多感な乙女!

 身近過ぎる敵に気付き、いつの日か本当に、自分こそが本物の魔王であるとマジッターギルメンに信じてもらえ、本当の絶望を与えられるその日まで!


 ……とりあえずは、差し当たり。

 彼女が今回の件で増えたギルメンの傾向について【思ってたんとなんか違うな】と首を傾げ、とにかく勢いに乗ってと発表したフムヌ城塞陥落作戦に対して、



【@666vin さすが昨日一足お先に恥じらいが陥落した女はやることが違うわ  勇者アレン@宿屋メシグランプリ審査員参加中】



 とのクソリプを受け、


「ヴィングラウドもう魔王やめるーーーーーーーーッ!」


 顔真っ赤な涙目悲鳴を上げるまで、あと十時間三十分。

 そんなかんじに騒々しく。

 世界も、マジッターも、なんだかんだと今日も今日とて平和であった。




【魔王様にクソリプ飛ばすのやめてください!】

【平常運転】



これにて一旦のおしまいです。

ここまで魔王様の活躍をお読みくださり、誠にありがとうございました!


※(12/16追記)

――皆様の応援に応え、あの魔王様が帰ってくる。

12/17の18:00より、第二章、【魔王様はホメて伸ばしてあげてください!】が連載開始!

ご期待ください。


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