ブラッティクロウの謎
「ここにブラッティクロウという武器があるのだけれど」
「おう、それがどうした?」
若手冒険者一団、スカイアドベンチャー。
本日もいつものメンバーが、空飛ぶ船の甲板に集まっていた。
シーフなリーダー、舟長。魔法で敵を粉砕、魔法使い。みんなを守るよ、剣士。即死攻撃がステキ、アサシン。物理は任せろ、斧戦士。
今日の話題は、魔法使いが持っていた武器だった。
「この武器少し変わっていてね」
「モンスターを叩くと回復するんだろ」
「あー、なんで言っちゃうのさー!」
ネタばれが早すぎる舟長。空気読めてないね。
「援護魔法のえじきにしてやる……」
「1ターンで成功させられたらたいしたもんだけどな」
強がる舟長に、魔法使いは無言で装備していた杖を見せる。
ヨーマの杖だ。効果は援護魔法の発動率アップ、ついでに威力もアップだ。
舟長の表情が強ばる。
「次回、舟長死す!」
「ぐわーっ!」
「悪は去った……」
カッコ付ける魔法使い。そよそよと風が吹いていた。
彼女のローブは微動だにしなかったが。
ローブが重すぎるのじゃ!
「それで、ブラッティクロウの効果がどうかしたの?」
「そこなのだよ、アサシンちゃん!」
!クエスト発生!
ブラッティクロウの付属効果、吸血効果について謎を解明せよ
依頼者:パーティーメンバーの魔法使い
報酬:なし
「うちは報酬のないクエストは受けない決まりなんで」
「そんなルール初めて聞いたぞ! よし、分かった。倉庫から何か持ってくるよ」
「まて、それじゃプラマイゼロだ!」
「謎を解明せよ、って言われてもなあ」
「そう、だからまず謎を見出すところから始めるのじゃ」
「また唐突なおばあさん口調して……」
やっと出てきた斧戦士が口をはさむ。
おばあさん口調ってなにさ、世の中には『のじゃロリ』とかいう便利な言葉があるじゃろ!
なに、体型が全然ロリじゃないから、どっちかっていうとおばあさんだって? ぐぬぬ……。
「わたしの口調についてはどうでもいいよ。吸血効果の謎に迫って!」
「じゃ、じゃあ、なんで回復するのかとかかあ?」
「そうそう、そういうの!」
「吸血効果って言うぐらいだから、モンスターの血を吸って回復してるんだろ。はい、終了」
「あのね。人間って人間の血も分解できないんだよ? どうやってモンスターの血から回復するのさ」
「それに、クロウってついてるってことは、武器の形状は爪だろ?あんまり吸血するには向かないよな」
盛り上がってきましたね。
これで魔法使いさんも大満足?
「こうツメでザクってやってから首筋からガブーッて」
「魔法使いさん、それツメの部分要らないぞ」
「じゃあ、ツメでザクーッってしたあと、舌でペロペロペローってする」
「相手の怪我が治りそう」
「まさか、敵が回復する効果だったってこと!?」
そんなんじゃいつまで経っても倒せませんね。
「まあ、冗談は置いとくとして。そもそも血液を回収すると回復するってのはどういう仕様なんだろう」
「失った血=失った体力ってことかもな」
「そこをイコールで結ぶのは納得だが、だからといって回復するのはおかしいだろ」
「吸血鬼じゃあるまいし?」
舟長の発言に、魔法使いは面白がって返す。さっきまで乗り気でなかった舟長が、食いついたのでおかしく思ったのかもしれない。
「吸血鬼じゃないけど、人間が血をたしなむ例はあるじゃねーか。スッポンとか」
「元気になるってそういう……」
「果たしてスッポンの血とモンスターの血は同じ成分なのだろうか」
「モンスターの血かあ……。ぞっとしねーな」
「言った手前だが、よく考えると飲みたくないな」
さすがの舟長も反省気味。
スッポンの生き血だって、たとえHPが全回復するとしても飲みたくないです。要らない。
「コウモリとかも血を糧にすると言うけど、ボクたちはコウモリじゃないもんね」
「つーと、血を吸って回復ってのは現実的に考えておかしい訳か」
「じゃあ、どうやって……?」
「そのまえに、HPの回復方法にも種類があるんだってこと、知ってもらいましょうか」
1、吸血型
モンスターに与えたダメージによって回復量が変動するタイプ。
2、自然回復型
モンスターに与えたダメージに関係なく一定の回復量があるタイプ。
「防御すると違いがよくわかるよ」
「1だと回復しねーが……」
「2だと防御してても回復するんだね」
「でも、それは今回関係ないよな?」
「どうだろう、人間には血は吸えないと分かった以上、それに固執するのは愚策かもしれんぞ」
斧戦士が唸った。魔法使いの目がきらりと光る。まだ諦めていない目だ。
「いや、まだ分からん。ツメのどこかにポーションが仕込んであるのかも……」
「仕込んであったとしても、モンスターにかかる未来しか見えねーよ」
「薬草かもしれねーし!」
「なるほど、戦闘中に薬草が敵に飛んでいってダメージを与えるんだね!」
「苦さで!?」
「おまえら回復はどうした、回復は」
舟長が突っ込んだ。
仕切り直して。少し落ち着こう。
「回復だけ優先して考えると2も視野に入るということだね?」
「もっていうか、もう2しかないけどな」
「舟長……話の腰を折らないの」
「吸血効果がただの回復効果しか持たなかったらって話だな」
「オートヒール効果の方か」
「そこでとり出したるは、この黒い玉!」
黒い玉を掲げたのは、魔法使いだ。小さな丸い玉が手のひらに乗っている。
「なに? これ」
「冷たいぜ」
「ガラスか?」
「いいえ、トルマリンです」
「ああ、あの健康効果で有名の……」
「それを身につけていたり、触れていたりすると効果があるんだっけか」
効果があるとされる、ぐらいにしておきましょうか。
信じるものだけに効果を与える魅惑のパワーストーン。
トルマリンです。
「じゃあ、ツメの手に触れる部分に使ってあるのかな」
「じゃりじゃりして痛そう」
「わたしはキーホルダーみたいな感じでくっついてるのかな、と」
「戦闘中に割れたりひっかけたりしそうだぜ」
「いやー、ブラッティクロウの謎、解けなかったね」
「また投げっぱなしエンドかよ」
「大丈夫。画面の前の君も考えてみようって言えば丸く収まるから!」
魔法使いが明るく言う。万事解決じゃ!
「そんなこと言うから丸く収まらないんじゃ……」
「だけど、ボクたちの力不足もある程度認めないとね」
「そんなことないよ! 当初の予定よりずっと話は広がったし。わたしは大満足だよ」
「じゃ、魔法使いさんが満足したってことで、この話締めにしていいかな」
かなり本気で、みんなの考え待ってるよ!!
魔「くくく、武器が生き血を欲しがってるぜぇ~」
斧「何してんの?」
隣の部屋だった斧戦士に見られてしまったが、魔法使いは極めて真面目な表情で答えた。
魔「妖刀に乗っ取られた人のマネ」
魔「みんなー、大変だよ、ブラッティクロウは妖刀だったんだよ!」
舟「お前が大変だよ」
時は夜。
昼間さんざん吸血効果について話し合った暮れである。
剣「妖刀ってか妖爪?」
ア「どうしたの? みんな集まって」
舟「いや、こいつがブラッティクロウだの妖刀だのってうるさくて」
魔「ブラッティクロウは妖し武器の一つだったんだよ、そうに違いない!」
ア「これは……聞いてあげないと寝かせてくれない感じかな」
『もしもブラッティクロウが妖爪だったら』
魔「さっきお布団で寝転んでたら、ハッと思いついて」
ア「うんうん」
魔「妖刀に生き血を吸わせた見返りにHPを回復してるんじゃないかって」
剣「うん?」
舟「少し落ち着け」
魔「妖刀は生き血が好きでしょ?」
ア「人間を斬ることが好きな気がするけど、そうだね」
魔「だから、血を吸わせてくれた装備者に対して、なにか恩恵をくれるんじゃないかって」
剣「それがHP回復効果か」
舟「妖刀に吸血効果か……ありそう」
魔「あるいは、コンボボーナスみたいに、一定以上のダメージを与えると回復するとか」
舟「色々思いついたんだな」
魔「ふー。どうよ?」
ア「おもしろい案だね。昼間の方式にあてはめると、1の回復方法なのかな」
剣「コンボボーナスはどっちになるんだろうな」
魔「えへへー。変動しないなら2かなあ」
舟「でも、もう夜遅いから明日な」
魔「ええー」
魔法使いの見ている前で、舟長は個室に入り、パタンと扉を閉めてしまう。
アサシンと剣士の顔も眠そうだ。
ア「ボクたちも寝る前に考えておくからさ」
剣「なにか思いついたら報告するぜ」
魔「うーん、分かった。よし、斧戦士さんと話してくる」
どたどたと去っていく魔法使いを見送って、ぽつり。
ア「斧戦士も災難だね」
剣「さてな、あいつも変わった奴だから、案外喜んでるかもしれねーぜ」