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誰が為に  作者: 島山 平
8/42

2日目 (1)

 目が覚めても、自分がどこにいるのかすぐには思い出せなかった。窓から射し込む陽光はなく、目覚ましはベッドに取付けられたアラーム。いつもよりよかったのは、汗だくになっていないというくらいか。

 自分がどうしてここにいるのか思い出し、すぐに部屋の電気を点けて辺りを見渡した。大丈夫、昨晩と変わった様子はない。掛け布団を払いのけてみても、どこにも怪我はなかった。

 ベッドの時計を確認すると午前七時過ぎ。アラームをかけたのだから当然か。八月十四日、この屋敷での二日目を迎えることになった。他の者たちはどうしているのか。金子というシェフが朝食を用意してくれているだろうか。

 とりあえず無事であることに安堵し、今日という日を始めることにした。


 いつも通りの身支度を終え、部屋を出て一階フロアを見下ろす。中央のテーブルに座っている男を見付け、すぐにそれがナベだと気付いた。

「あぁ、おはようございます」

 ナベの方から声を掛けられ、返事をしながら階段を下りることにした。

「早いですね」

「KJさんこそ。たぶん、私たちが最初ですよ」

「松本さんは? 麻郎さんとか」

「見てませんね。あの女性はキッチンに入っているみたいですけど」

 キッチンへと繋がる扉を見ながらナベが言う。ということは、金子は七時よりも前に準備を始めていたということか。

「無事に眠れましたか?」

「あぁ、はい。何事もなく」

 ボクの返事に笑って頷いたあたり、彼にも何も起きなかったらしい。これから起きてくる人にも訊いてみよう。

「昨日の夜、色々考えたんですよ。どうしてこんなイベントを始めたのか」

「麻郎さんたち側の理由ですか?」

 ナベは話したくてたまらなかったみたいだ。ボクの問いに笑顔で口を開く。

「はい。何度も話に出たように、彼らにメリットはない。少なくともそう見える。だからきっと、彼らはここでのイベントを私たちに見せたいんだと思います」

「見せたいっていうのは?」

「うん」

 ナベは腕を組み、説明を頭の中でまとめているようだった。

「つまり、目撃者にさせたいんですよ。彼らが何かを計画しているとして、誰かに見せなければ意味がない。アトラクションなのか、実験なのかわかりませんけどね。で、私たちにそれを見せることで、形にしようとしている」

「なんとなくわかりますけれど、見せて形にしてどうなるんです?」

 ナベの考えが正しいとしても、やはり麻郎たちにメリットはないように思えた。

「具体的な意見はありません。将来的に何かを起こすつもりで、私たちの証言を必要としている気がします」

「すみません、やっぱりわかんないです」

 正直な気持ちを口にしておいた。ナベもそれ以上の説明を重ねず、特別強い主張があるわけではないようだった。

「あ、おはようございます。何か召し上がりますか?」

 キッチンの扉が開き、エプロンをつけた金子が現れた。

「コーヒー頂けますか?」

「お食事は・・」

「けっこうです。朝はあまり食べないので」

「かしこまりました」

 小さく頭を下げ、金子がキッチンの中へと消えていく。

「彼女、どういう繋がりでここにいるんでしょうね。料理人としての腕前は確かに立派だけど」

 ナベの言うように、金子はこの屋敷にはそぐわない。というよりも、麻郎と松本の二人を思い浮かべたときに、その隣に金子がいることが不自然に感じた。年齢的には、二人の孫にあたるくらいだ。

「愛人でもないですよね、麻郎さんはあんなだし」

 気まずい表情でナベが言う。ボクも具体的な言葉は口にしないでおいた。

「ずっとこの建物の中で生活しているとは思えないし、たまたまこのイベントに参加させられているだけかもしれませんね」

 ナベと二人で検討していると、再び金子が姿を現した。トレイにコーヒーカップだけを乗せ、砂糖やミルクはなし。きっと、昨日ボクがコーヒーをブラックで飲んでいるところを確認したんだと思う。まだ若いのにプロフェッショナルだ。

「お待たせ致しました」

「ありがとうございます。あの、少し質問いいですか?」

「はい」

 僅かに身構えながら金子が頷いた。

「普段からこの屋敷で働いているんですか?」

「えっと、具体的なことは話すなと指示を受けておりますので」

「松本さんに?」

「そう―――です。何かまずいですか?」

 しまったという顔で尋ねられると、慌てて訂正してやりたくなった。

「そうじゃなくて単なる疑問です。このイベントが行われているとき以外はどうしているんだろうって」

「あぁ、そういうことですか。やっぱり言えないんですが、きちんと働いていますよ。料理人として」

 具体的なことは言えないと口にしつつ、金子は素直な性格をしている。もうほとんど答えているようなものだ。

「では、昼食の支度があるので」

 子供のようにぴょこっと頭を下げ、早足で金子が離れていく。

「彼女、なかなか可愛らしいですね」

「そして素直です」

 ナベと二人でこっそり笑っていると、二階の扉が開くのに気付いた。見上げて確認すると、おどおどした様子でテルテルが出てくるのが見えた。

「おはようございます。一緒に朝食どうですか?」

 ナベの問いかけに、辺りを気にしながらテルテルが頷いた。

 これで三人目。残りはセバタとヤマケン、エーツーの三人だ。


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