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誰が為に  作者: 島山 平
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2日目(8)

 ヤマケンさんが亡くなり、間もなく丸一日が経過する。彼の遺体を発見してから捜査を開始し、いくつかの情報は掴めてきた。でも、犯人を特定する決定的なものはないし、殺害の目的もわからないままだ。

 招待されたのは六人。失踪したエーツーさんと殺害されたヤマケンさん、よく喋るセバタさんと貫禄のあるナベさん。物静かなKJさんと、僕。ヤマケンさんが殺害された理由は怨恨ではないように思える。だって、僕らは赤の他人同士なのだから。

 招待した側は三人。麻郎さんと執事の松本さん、シェフの金子さん。怪しむべきは、こちら側の三人だと思う。松本さんは屋敷からの脱出方法を知らないと言っていたけど、あれはたぶん嘘だ。そんなわけがないじゃないか。だったら、どうやってこの建物に食材を運び、イベントの準備をしたんだ。この状況を考えると、彼は嘘をついているとしか思えない。

 正直、今のままでは不安で仕方ない。ミステリーのイベントに運良く招待され、解決すれば願いを叶えてもらえるはずで、てっきり楽しいだけのイベントだと思っていた。参加者が殺される殺人ゲームだと知っていたら、こんなところへ来ることはなかった。この時間にも、MTGの練習をしたいくらいなのに。

 次の事件が起きるのはいつ頃だろう。ヤマケンさんが殺害されたのはおそらく夜中。だとすると、そのうち第二の事件が起きてもおかしくない。自分が次の被害者にならないように、入り口のカギはしっかりと掛けた。誰かが訪ねてきても扉を開けるつもりなんてない。入り口の前にテーブルを移動させたし、突入される心配もないはずだ。

 そもそも、どうしてヤマケンさんが殺害され、右腕を切断されたのか。普通だったら殺すだけでいいはずだ。わざわざ右腕を切断したのは、それこそがこの事件で重要になってくるからだと思う。人間の腕を切断するって、口で言うほど簡単じゃないはずだし、そんなこと誰もしたくない。

 次の被害者が出るとしたら、また右腕を切断されるだろうか。そうだとしたら犯人は右腕によほどの恨みがあるってことになる。―――そんなわけはなく、普通は切断する必要があったと考えるべきだ。でも不思議なのは、右腕が室内に残されていたこと。よくあるパターンとしては、右腕を見られてはならない事情があって、処分するというもの。それなのに、ヤマケンさんの右腕が残されていたせいで、この推理も揺らいでしまっている。

 KJさんと現場を確認したとき、出血量が少ないことに驚いた。もっと血の海が広がっているはずなのだ。それを防ぐ方法自体はいくつか思いつく。でも、わざわざそんなことをする動機がわからない。色々なことが、矛盾しながら共存している。

 願いを叶えるためにも、この事件を解決しなくては。これからも事件が続くはずで、最優先すべきは自分が被害者にならないことだ。カギを掛けてひきこもる。朝になるまで、ここから出ていくつもりはない。

 亡くなったヤマケンさんの願いは何だったのだろう。セバタさんは金が欲しいと言っていたし、他の二人は秘密にしたままだ。まぁ、普通は働かずに生活したいと望むはず。セバタさんの願いは至極当然だ。

 きっと、参加者の中で僕みたいな願いの人はいない。でも、MTGをテレビ番組で取り扱ってくれれば、もっと日本で流行るはずだ。カードゲームの元祖で、競技性も最高だ。今はプロプレイヤーとして契約してもらっているけど、これからプレイ人口が広まらなければいつかは廃る。そんな状況を迎えるわけにはいかないし、自分の生活が掛かっているのも事実だ。

 MTGというカードゲームにのめり込んだのは高校生の頃からだ。ゲームセンターで格闘ゲームが流行る中、自宅で遊べるゲームを探していた。学校の友人と一緒になってMTGを始め、大学卒業と同時に一度引退した。いつまでも遊びに夢中になっているわけにもいかなかったからだ。でも、社会人として働く中、自分の将来に迷ってしまった。このままでは世間一般の人と同じ。僕にはそれが怖かった。

 結局、三年ほど経ってから学生時代にはまったMTGのことを思い出した。インターネットの動画サイトで大規模な大会の中継を見たことがきっかけだった。これでも昔はそこそこ強かったのだ。日本選手権でトップ8に入ったことだってある。一度は引退したはずなのに、当時の知り合いがトッププロ扱いされているのを見たら、いてもたってもいられなかった。その日のうちに再開することを決意し、三ヶ月後には仕事を辞めた。自分の退路を断っておきたかった。

 アルバイトをしながらMTGの練習だけをして日々は過ぎた。今ではグランプリで二度も優勝することができ、スポンサー契約にもこぎつけた。ただ、このままでは限界がある。人気が出てきたとはいえ、MTGはしょせんカードゲームだ。『オタクの遊び』『カード一枚に何千円も払うなんてバカらしい』世間からはそう思われていることも知っている。

 だからこそ、プロプレイヤーの自分たちが動かなくちゃならない。将棋やチェスと同じように、頭脳派格闘技としての認識を高める必要がある。

 そんな中で届いた招待状は、本当に神の恵みだった。願いが叶うと書かれれば、参加しないわけにはいかない。元々ミステリーは好きだったし、論理的思考はMTGで鍛えられた。ここで活躍して願いを叶えてもらう。そして、テレビ番組で有名芸能人がMTGをプレイしてくれれば、日本中に認めてもらえる。僕たちのようなプロプレイヤーに憧れた子供達が遊んでくれることにも繋がる。遊びの力を、僕は信じている。

 まずは、MTGを認めさせることが必要なんだ。僕がこのイベントで勝ち、そのきっかけとなろう。格内麻郎の用意したものだから、必ず論理的に解決できるはず。だったら、それは僕の専売特許だ。

 次の事件が発生したら、誰かを利用して捜査しよう。KJさんはそれに相応しい。バカではないし、我が強いわけでもない。協力するふりをして彼のアイデアを盗む。そして、最後には僕が勝ってみせる。

 被害者にならないためにはどうすればいいか。風呂に入りながら、もう一度最初から考え直してみよう。


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