2日目 (6)
「いい加減、麻郎さんに説明してもらいたいんだけど」
麻郎以外の六人がテーブルを囲み、昼食が進んでいる。しびれを切らしたように口を開いたのはセバタだった。
「のんびり飯を食ってる場合じゃないんだよねぇ。確かにうまいけども」
「申し訳ございません。麻郎様はまだ体調が優れないようで」
「とかいって、ほんとは麻郎さんどこかに行ってるんじゃない? 部屋にいるように見せ掛けて」
セバタがフォークを持った右手で麻郎の部屋を指す。行儀が悪いと指摘する者はいなかった。ちなみに、どうやらテルテルも食事のマナーがあまりよろしくない。お茶碗を持ち上げたりせず、顔を近付けて食べている。猫食いに近い形だった。まぁ、今はマナーなんてどうだっていいか。
「いえ、確かに部屋で休まれております。先程も確認致しました」
「だったらどうして出てこないんだよ。ヤマケンさんを殺しといて自分は高見の見物?」
「まあまあ。落ち着いて話し合いましょうよ」
仲介を買って出たのはナベだった。
「麻郎氏の目的が何であれ、私たちは事件を解決するしかないんです。願いを叶えてもらうためには」
「何かわかったの?」
セバタはナベにも突っかかっている。よほどストレスが溜まっているようだ。
「わかりませんよ。でも、この屋敷から出られないことと、ヤマケンさんの死は関係しているはずです。というよりもこの状況全てが。何より、姿を消したエーツーさんを怪しむべきかと」
「あの人が犯人ってこと?」
フォークの柄を何度もテーブルに叩き付けながらセバタが言う。見ているこっちもイライラしてきそうだった。
「松本さん、本当に私たちはランダムに選ばれたんですか? エーツーさんはあなた方がわざと招待したってことはありませんか?」
「そんなことはないはずです。皆様は平等に、ランダムに選ばれております」
「だったら、あなた方は私たちについて知っているんですよね。まさか、住所だけ調べて招待状を送るとも思えない。それはさすがに無鉄砲すぎますから」
「正直にお伝えしますが、皆様に連絡を差し上げたのは別の者なのです。麻郎様から指示が出ているはずですが、私はその部分に関与しておりません」
「こうした屋敷での生活だけが担当、そういうことですか?」
ナベは全く信用していない顔をしていて、松本ははっきりと頷いた。不毛なやり取りが繰り返されていた。
「ヤマケンさんが殺された理由を突き止めるためには、彼の人となりを知る必要があると思うんですが、それすらもわからないわけですね」
ナベが悔しそうに頭を垂れる。やり場のない怒りが彼を包んでいるように見えた。
「あの、皆様にお伝えしなくてはならないことがございます」
突然の言葉に、全員が松本に注目した。空気を変える力があった。
「いえ、まだお伝えしてはならないことなのですが、どうすべきか判断ができません」
「松本さん、落ち着いて下さい。誰もあなたを責めたりしませんから」
ナベが庇うように言葉を掛ける。松本の考えはわからないままのはずだけれど、とりあえず彼から情報を引き出そうという魂胆か。
「申し訳ございません・・。これは麻郎様がタイミングを見計らって話される予定でした。―――この建物は、自動的に爆破されるように設定されております」
「・・は?」
セバタの口から漏れた感想は、ボクたち全員の気持ちを代弁していた。わけもわからず、頭の中で処理が追いつかなかった。
「爆破って言った?」
「はい。大げさかもしれませんが、時限爆弾のようなものです。そのときがきたら、この建物は爆破されます」
「ちょいちょい。爆破ってなに? いつ?」
全員が松本の言葉を待った。殺人事件が起きただけでも動揺しているのに、今度は爆破などと言い出した。そんなものは映画か小説の中だけのものじゃないのか。
「今日から三日後の正午。それが、麻郎様がタイムリミットだとおっしゃった時間です」
そういえば、最初にイベントの紹介を受けたとき、確かに麻郎はタイムリミットを告げていた。でも、それが建物が爆破される時間だなんて思うわけがない。それに、そんな大事なことを隠しておくなんて気が知れない。もしかすると、麻郎はボクたち全員を殺すつもりなんじゃないかと疑ってしまう。
「なんでそんなこと隠してんだよ!」
「わかりません。麻郎様にはお考えがあると思うのですが・・」
松本を責めても仕方がない。むしろ、こうして話してくれただけありがたいと思うべきか。今も部屋で休んでいる麻郎は、いったい何を考えているんだ。
「これからどうすればいいんでしょうね。事件が起きると言われても、次の被害者は私たちの誰かかもしれない。最悪の場合は脱出しなくてはならないし、その方法もわからない」
「でも・・、出ていったら願いを叶えてもらえなくなります」
こんなに物騒な話をされても、テルテルはまだ願いを叶えてもらうことに拘っている。でも、それはボクも同じで、すでに精神が普通じゃなくなっているということかもしれない。
「俺はさっさと降ろさせてもらいてぇな。命懸けのゲームだなんて知ってたら来なかったし。叶えてもらいたい願いってのも金だし」
吐き捨てるように言うとセバタは立ち上がり、そのまま階段へ向かって歩き出した。
「私も脱出方法を探します。命懸けのゲームなんて望んでいない」
ハッキリとした口調で言い、ナベは食事を再開した。テルテルは何も言わず、視線が宙をさまよっていた。そんな二人を眺めながら、ボクの心は決まっていた。脱出などしない。自分が危険な目に遭うとしても、事件を解決しなければならないからだ。




