第08話「トライアル・アンド・エラー」
マモンは次の日アイテムを作ってから、そのことを【ダンジョンハンターになろう】に登録をした。弱小ダンジョンの場合、ダンジョンマスター自らお宝情報を更新するらしい。
ちなみに【ダンジョンハンターになろう】は有名なダンジョン攻略サイトだ。
俺も暇つぶしで見たことがある。なろう、と略されている。
そしてそれから、三日が経った。
今日は土曜日。晴れ。
マモンとアヴィはテレビゲームをやっている。
昔のカセットタイプのゲームだ。
テレビの中ではプロレスラーとヨガの達人が戦闘を繰り広げていた。
何故かって?
暇だからだ。
結果から言うと、ほとんど人間は来なかった。
来たには来たけど、全然ハゲてない人間が5人来ただけだ。
興味本位で来たらしく、全然欲望ポイントが溜まらなかったらしい。
今の残存ポイントは全部で40ポイントだ。全然元が取れてない。
――何故だ。
――ハゲたちは髪の毛が欲しくないのか。
理解できん。
それとも条件が厳しすぎたのだろうか。
俺はマモンのパソコンを起動し、色々と原因を探っていた。
(何故かネットにも繋がっているらしい)
一時間ほどネットの海を徘徊していたところ、原因らしきものを見つけた。
私は行こうとしましたが、よく分からないダンジョンでした。
トラップ、モンスター、宝物はありません。
それは行く時間の無駄です。
「原因はこれか」
この書き込みはマモンのダンジョンのものではない。
イギリスのダンジョン報告掲示板を日本語翻訳したものだ。
だが。うちもこれと同じことが言えるだろう。
アヴィは地蔵を抱えたまんま、人から見つからないように上手く逃げているし。
その後更に調べたところ、結局のところ、アイテムを取らせる気のないダンジョンには人が集まってこないのだと分かった。
アームが激弱のゲーセンでUFOキャッチャーが流行らないのと同じだろう。
罠や怪物がいないことが逆に怪しさに繋がっている。
それっぽさ――つまり演出が必要ということか。
「あぁ~またやられた~」
「お姉ちゃん弱すぎです」
「もう少しなんとかしてよ。手加減っていうか」
「負けないと覚えません」
マモンがこっちを見た。
「ジュンイチ、仇を討って」
「任せろ」
コントローラを受け取る。
「つ、強い」
その数秒後に空手家は敗北していた。
強すぎる。掃除機の如くプロレスラーの両腕に吸い込まれた。
アヴィ。お前は一体、何者なんだ……。
「やめやめぇ。だいたいさぁ、なんで戦ってるのよ、この人たち。仲良くお話してればいいのに」
「いやそういうゲームだし。マッチョな格闘家が話してるだけのゲームなんて面白くないでしょ」
「別のにしましょう。協力プレイのならお姉ちゃんもイライラしません」
二人は近くにあったボックスの中を覗いていた。
俺のやつじゃない。いつの間にかゲームがたくさん用意されていたのだ。
二人はダンジョンゲーを選んだようだ。ダンジョンマスターなのにゲームするのか。
「なあ、そういえばどうやってそういうの用意してるの? 今さらだけど」
「ダンジョンマスターの部屋の中限定なら、低ポイントでアイテムを作れるんだよ。現実にあるものだったら0ポイントで作れるよ」
「ふぅん」
そういう条件ってことか。
「あ」
いいこと思いついたぞ。
俺はノートを広げた。
そして今思いついたものを書き込んでいく。
そして
「なあなあ、マモン。今のポイントでもこれ作れるか?」
「え? うん。作れるよ」
よしよし。
「アヴィ。頼みがある」
「はい」
「逃げてもいいけど、積極的に見つかってくれ」
「え……」
アヴィは俯いた。
「怖いです」
「頼む」
「じゃあご褒美ください」
「ご褒美?」
「わたしもアイテムを考えて、作ってみたいです」
俺の代わりに
「おっけー」とマモンが答えた。
「マモンもいいって言ってるんだし、いいんじゃないか?」
「ほんとですか? 嬉しいです。前から一回やってみたかったんです」
「なるべくピンチ感を出してくれ」
「演技は苦手ですけど、頑張ります」
よし。
次にダンジョン挑戦者が来た時が勝負だ。
こうしてマモンに残りのポイントで罠とノートに書いたアイテムを作ってもらい、次のチャレンジャーを待つのだった。