第07話「悪魔と過ごす夜」
パチ。
「ま、また負けた……」
さっきルールを教えたばっかりなのに。
「ジュンイチ、弱いです」
「この俺が……」
ちなみに俺の実力は初心者以上初級者未満だ。
でも初めてやる子に負けないだろ。いくらなんでも。
ちなみにこれで0勝5敗だ。
「なんでそんなに強いの?」
「81マスにダイブをするのです、ジュンイチ。そうすれば答えは見えてきますよ」
「そんな哲学的なこと言われても」
「あ、お姉ちゃんが戻ってきました」
ほんとだ。
タオルで頭を拭きながらマモンが広間に入ってきた。
服装は変わっていない。
「あ~いいお湯だった~」
マモンは頭の上へ手を上げながら背伸びをした。
ばさりと黒い翼が広げてブルブル震えた。水滴が飛ぶ。犬みたいだ。
「何してたの?」
「将棋」
「へえ。わたしもやりたい」
「じゃあ今度はわたしがお風呂に入ってきますね」
アヴィは手を振りながら向こうに行ってしまった。
勝ち越されたか。
「かかってこいジュンイチ。この先千年立ち向かえなくなるまでコテンパンにしてやる。名付けて、千年縛り!」
「ルール知ってるの?」
「知らない」
「何だよその自信は」
でもアヴィの一件があるから、マモンも強いのかも。
「じゃあルールを教えよう」
「うん」
「これがこうやって動く」
「ふむふむ」
「これはこう」
「…………」
「ひっくり返すとこうなる」
「…………」
「次はこれ。これはこう動けて、これは――」
「ジュンイチ! べ、別のことして遊ぼう」
覚えられなかったらしい。
「じゃあ将棋崩しでもやるか」
駒を四角いケースに入れて、そのまま将棋盤へひっくり返して置く。
お好み焼きのあれの要領だ。
そのあとゆっくりケースを持ち上げると、四角い駒の山が完成する。
「指一本だけで駒を取ってく。音を立てたら交代な」
「うんうん。これならわたしでもできるぞ。わたしからやっていい?」
「いいよ」
そーっと細い指を伸ばす。真剣な目をしていた。
「緊張する~」
あ、音立てた。
「交代な」
「ちっ」
その後ゲームを進めたところ、普通に俺が勝利した。
「もう一回だジュンイチ」
「いいけど」
ゲームは続く。
二回戦。
俺、勝利する。
三回戦。
俺、勝利する。
「うぅ~」
「泣くなよ」
マモンは不器用なタイプらしい。
「こんなの面白くない。他のがいい」
「他のって言ってもなぁ」
カチャリと音がした。
アヴィが帰って来たようだ。アヴィはセーラー服ではなく水玉模様のパジャマを着ていた。
可愛らしい。
「俺も風呂に入ってくるか」
「うん。いってらっしゃい」
というわけで、アヴィと交代で今度は俺が部屋を出た。
俺が行くのはもちろん俺の家の風呂だ。
服を脱いで、風呂に入り、身体を洗ってから湯船につかっていると、ふと俺は今まで何をしていたのだろうと急に思って苦笑した。
悪魔とともにお宝を考え、そのあと遊んでたなんて言ったら、きっと他の人は心配するだろう。それか笑うかもしれない。
我ながら変な体験をしていると思う。
まあ、結構楽しかったし、別にいっか。
そんなことを思いながら風呂を終え、また部屋へ戻る。
自室兼ダンジョンは薄暗くなっていた。
二人は隣り合ったベッドに入っているようだった。
「もう寝るの?」
「うん。眠いもん」
早いな。
まだ九時くらいなのに。
「おやすみなさい、ジュンイチ」
「うん」
「おやすみ~」
「おやすみ」
俺ももう寝るか。
こう薄暗いと何もできないし。
というわけでベッドに入り目を閉じた。
しばらくすると、すうすうと彼女たちの寝息が聞こえてきた。
奇妙な共同生活が始まったことを実感しつつ、俺は眠りについたのだった。