第06話「前進する英雄の為」
夕飯を終えたあと、俺はさっそくアイディアをマモンたちに話すことにした。
「どうだ!」
刮目せよと言わんばかりに、俺は二人にノートを見せた。
【前進する英雄の為の地蔵】
1.お祈りすると毛髪が生えてくる。
「髪の毛? なんでそんなもの」
「大人の男の悩みなんだよ。きっと欲しがる人はたくさんいる」
コンプレックスといえばハゲだ。
なぜそう思ったかというと、さっきちょうどマモンが見てた番組にハゲの芸人が出ていたからだ。
「でもジュンイチ。これではポイントが足りないですよ」
「だろうな」
「じゃあ千本につき一年寿命が縮むという条件をつけよう」
な、なんて悪魔的な発想を。
あ、悪魔だったか。
「ふふ、案ずるな。マモン、アヴィ」
俺はノートに書き足した。
【前進する英雄の為の地蔵】
1.お祈りすると毛髪が生えてくる。
2.ただしお金をお供えしなくてはならない。
3.1本につき1000円が必要(現在価値)。
4.お供えしたお金は消えてしまう。
5.地蔵を毎日掃除しないと、生えた毛が抜けてしまう。
「お金?」
「あぁ……。金はな……、命より重いんだっ…………!」
「あ、本当だ。80ポイントで作れるようになったみたい」
「ジュンイチ、すごいです」
「任せておけ」
さっきスマホで調べたところ、人の髪の本数は約十万本。
つまり一億円あればツルッパゲの人でもフサフサになれるということだ。
きっと金持ちで薄毛に悩んでいる人がいるだろう。
「でもなんでこんな名前なの? 毛生え地蔵とかでいいじゃん」
「マモンは分かってないな。そんな名前をつけたら恥ずかしくて来れないだろ」
「ふうん。変なの」
「アイテムはこれを作るとして、罠や怪物はどうしますか?」
「20ポイントで怪物を召喚すると、どれくらいの強さになるんだ?」
「カマキリくらいかな?」
よわ。
「仕方ありません。当分はわたしがアイテムを守りましょう」
「アヴィが?」
「はい」
「えっへん。アヴィは強いんだぞ」
「でも怖いから本当はイヤです」
アヴィは二の腕を抱えて、
「お姉ちゃん、ジュンイチ。ポイントが溜まったら罠と怪物をダンジョンに置いてくださいね」
と上目遣いに言った。目がウルウルしている。
「もちろんだ! お姉ちゃんに任せなさい」
「はい」
アヴィはにやりと笑ったように見えたのは気のせいだろうか。
まあでも。
悪魔とはいえ中学生女子をハゲと戦わせるのは気が引ける。
ポイントが溜まったら罠と怪物を召喚というのは俺も賛成だ。
「ちなみに一人来るとどれくらい欲望ポイントが溜まるの?」
「その人間の欲の強さにもよるけど、普通は10ポイントくらいかなぁ」
なるほど。八人呼べれば元が取れるわけだ。
「明日になったらアイテムを作ろうね。ああ楽しみ~」
「はい。きっと人間がいっぱい来ますよ」
だといいけど。
「じゃあわたし、お風呂入ってくるね」
「え? 悪魔も風呂入るの?」
「当たり前でしょうが。ジュンイチは悪魔を何だと思ってるの?」
怒られた。
「お姉ちゃんがお風呂に入ってる間、ジュンイチはわたしと遊んでください」
「遊ぶ?」
「あれやってみたいです」
アヴィが指さした方を見る。
テーブルの上に将棋盤が置いてあった。多分、俺の部屋に置いてあったやつだ。
「将棋?」
「はい。楽しそうです」
「ま、いいけど」
というわけで、マモンは広間の扉の奥へ。
俺とアヴィとテーブルへ向かうのだった。