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第03話「平穏を壊すもの」

今日一日、まったく頭が働かなかった。

決まってる。朝のあれのせいだ。


俺は家で勉強しない代わりに学校でちゃんとやるタイプだ。

今日のツケはいつか払わなくてはいけないだろう。


不思議とこの件を誰かに話すことはなかった。

そういう気分にならないのだ。多分、不思議パワーとやらが働いているのだろう。

誰かに頼ることはできなそうだ。自分でどうにかしなくては。


とりあえずダンジョンに関する本をいくつか買って帰ることにした。四月ということで、新生活応援キャンペーンをやってたらしく、運の良いことに結構な割引がされた。

あの本屋のお姉さんもきっと、俺が将来ダンジョンハンターを目指していると思ったに違いない。


――しかし、平穏な俺の生活にとんでもないことが起きてしまったもんだ。


これまで俺は、なるべく目立たず、かといって目立たなすぎず、波風を立てないように、慎重に、冷静に、テンションを低くも高くもせず、危険を避け、チャンスも見送り、それは波に浮かぶウキのように多少は浮き沈みがあるものの、まあそこそこ上手く生きてきたわけだ。


そんな俺の部屋が、何故? これは何の罰ゲームだ。

そんな愚痴を心中ぼやいているうちに、家に到着した。


母は台所で夕飯を、妹はテーブルで宿題をやっている。俺の部屋の異常には気がついていないようだ。短い会話を交わしてから、すぐに二階へ向かった。


扉を開けると

「おかえり~」と元気な声が出迎えた。


扉のすぐ近くまで俺の部屋や彼女たちの生活空間が丸ごと移動していた。

マモンがテーブルの前に座りこっちを見上げている。アヴィの姿は見えなかった。


マモンはポテチを片手にストローでメロンソーダを飲んでいた。一体どこから持ってきたのか。


「こっちに移動したのか?」

「うん。ジュンイチが不便かと思って」

「ありがとう。でもお前たちのベッドとかも近づいて来てるんだけど?」

「うん。それがどうしたの?」


ストローをくわえたまま、首を傾げてこちらを真っ直ぐに見つめた。

俺の言葉を不思議に思っているようだ。


まあいいか。部屋に入った感覚が、多少は前と同じ感じになったし。


俺はベッドに財布やらスマホやらを投げてから椅子に座った。

そのまま部屋を眺める。


パーティションとかで区切ってくれれば、とりあえずいいということにするか。

悪魔なんだから壁くらい作れるかもしれないし。


「ねえねえジュンイチ」

「え?」

「お願いがあるんだけど」

「な、何だよ」


マモンがこちらにやってきて、俺のベッドに腰をかけた。

何か不安そうな顔をしている。嫌な予感がする。


「ジュンイチ、わたしのダンジョンおっきくするの手伝って」

「は? 俺が?」

「うん。そうすれば部屋も元に戻せるよ、きっと」

「うーん。急に言われても。どうしたらいいか分からないし」

「人間が欲しくなるアイテムを一緒に作ってほしいの」

「アイテム? それってお宝のこと?」

「うん、それそれ」

「なんで俺が……」

「ね、いいでしょ? わたしたちには人間が欲しい物なんてよく分からないし、ジュンイチならきっと素晴らしいアイテムが作れるよ」

「うーん」


マモンが上目遣いでこちらを見ている。

ま、部屋が元に戻るなら別にいっか。


「いいよ」


そう言うと、ぱあっと可憐な笑顔を見せた。


「嬉しい! ありがと」

「うん……」


俺は照れ隠しでぽりぽりと頭をかいた。

俺は悪魔相手に何をドギマギしてるんだか。


物音がした。そちらを見ると広間の奥の扉がちょうど開くところだった。

俺の家の廊下に繋がってるのとは違う扉だ。そっちは広間の内装にあった重厚なデザインをしている。


アヴィが入ってきた。

俺に気がつくとこちらに手を振った。その純真的な仕草に、つい俺も手を振り返した。


アヴィがやってくる。

彼女はマモンの隣、つまり俺のベッドに座った。


「アヴィ、ジュンイチが手伝ってくれるって」

「本当ですか? よかったですね、お姉ちゃん」


アヴィはこちらに向いた。


「ジュンイチは優しいです。ありがとうございます」

「うん、でもアイテムってどうやって作るの?」

「欲望ポイントを使うんです」


ああ、それか。


「朝、なぜかいきなり欲望ポイントが増えたから、またアイテムを少しだけ作れるようになったんだ。えへへ」

「…………へぇ。なんでだろうな」


それって多分、俺のよこしまな感情だと思うけど。

気付いてないから黙っておこう。


「でも無計画に色々してしまうと、またすぐに破綻してしまいます」


また、という所にアクセントを置いていた。

マモンは申し訳なさそうな顔で俯いた。


「ではジュンイチに今のダンジョンの状況を説明しましょう」


こうしてアヴィは説明を始めたのだった。

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